【コラム】

シリコンバレー101

151 宇宙エレベーター開発競技会、NASAの高いハードルに全チーム大苦戦

    Yoichi Yamashita  [2005/10/26]

    空に向かって伸びる1本のリボンをつたって、宇宙まで到達しようという「宇宙エレベーター」。詳しくは、こちらを参照していただくとして、今週は10月22日と23日にNASA(米航空宇宙局)のAmes Research Centerで開催された第1回目の開発コンテストの様子をレポートする。

    宇宙エレベーターというと、いくつかのプロジェクトが存在するが、今回の開発コンテストはNASAと米Spaceward Foundationが共同で進めている「Centennial Challenges」の一環である。高さ約60メートル上空からぶら下げられたリボンを登る「クライマー」(Climber)を製作し、そのスピードとパワーを競う。1位に5万ドル、2位に2万ドル、3位に1万ドルの賞金が用意されている。

    競技開始前の観客席からは「ひもを登るだけで5万ドルって、いったいどこが難しいの?」という声がちらほらと聞こえてきたが、ポイントは動力源にある。クライマーは、1万キロワットのライトを使って地上から照射された光を動力に換えて、1メートル/秒以上のスピードで登るのが条件。限られたエネルギーをパワーに換える効率性が問われるのだが、実はこれ、かなり厳しい条件だった……。

    競技前にリボンをつり下げる作業中

    宇宙エレベーターで想定されているリボンは幅3フィート、長さ6万2,000マイル

    競技に挑戦したのは7チーム。ライトの光を動力に変換するには、集光の仕組みが必要となり、クライマーにはそれを抱えてロープをよじ登るだけのパワーが求められる。反面、パワーのある動力装置は重量が重くなり、結果的に重量オーバーでクライマーが持ち上がらないということも起こり得る。限られた動力の範囲内で、パワーと重量のバランスを保った設計がポイントになるのだ。

    たとえば医療機器に関するノウハウを持っているチーム「Space Miners」は、最先端の車いすに使われている素材をフレームに使って軽量化と耐久性アップを図っていた。また、「Centaurus Aerospace」は、フレネルレンズの大きなパネルを使って光を光起電性のソーラセルに集め、動力部分にはフリクションローラー方式を採用していた。比較的身近なソリューションと言えるだろう。「Starclimber」と「Fischer 28」は、スターリングエンジンを採用していた。これはシリンダー内に水素やヘリウムなどを封入し、外側からシリンダーを加熱/冷却することで内部の作動ガスを膨張/収縮させ、ピストンを往復運動させる。設計によってはクリーンかつ効率的にパワーが得られるエンジンを実現できる。このスターリングエンジンの利用は、たとえ成功しなかったとしても、NASA的にはポイントが高そうだ。

    Space Minersは最先端の車いすに使われている素材をフレームに利用

    Centaurus Aerospaceのクライマーは大きなフレネルレンズのパネルが特徴

    スターリングエンジンを採用したStarclimber

    地上から照射されるライトを動力に変換してリボンをよじ登る

    リボンは、クレーンでぶら下げられており、地上でも固定されているが、風にたなびくぐらいの余裕がある。競技では1チームずつクライマーをリボンにセットする。この作業が大体20分ぐらい。準備が整うと、発電機が始動してライト点灯。観客から拍手・声援が送られる中で、無線操作でスイッチオン……(30秒経過)、「動かねぇ~~」の連続。

    "動力の制限"というカベを乗り越えられない。参加チームは口々に条件の厳しさを指摘していたが、宇宙エレベーター実現という目的に向けた第一歩として、主催者がはじき出した条件である。5万ドルを手にするには、それなりに価値のある成果が求められる。

    土曜日は成功チームがなく、その夜、どのチームも徹夜で軽量化などに取り組んで、日曜日に再チャレンジ。それでも5万ドルの条件を満たすチームは現れなかった。

    Centaurus Aerospace。3分の2程度まで登ったところで停止

    下から見るとパネルで光りのビームを受けているのがわかる

    残念な結果に終わったが、イベント自体はけっこう楽しめた。観客は数十人程度と少なかったものの、子供連れの観客が目立ったし、ボランティアが積極的に宇宙エレベーターについて説明していたので、失敗の連続でも途中で帰る人は少なかった。

    また宇宙エレベーターはこれまで、どこか現実離れしている感じがしたが、実際に競技会を見ると、実現につながるステップが想像できるようになる。今回挑戦しなかったチームにとっては、7チームの失敗が貴重なデータになっただろう。また競技会のニュースを見て興味を持ち、ルールをチェックして「これならクリアできる」と考える人たちも出てきているようだ。Spaceward Foundationによると、早くも20を超えるチームが来年の競技会に名乗りを上げているという(ちなみに今年の賞金は来年に上乗せ)。民間による有人宇宙飛行に挑戦した「X Prize」や自律自動車レースの「DARPA Grand Challenge」も、最初のステージでの貴重な試行錯誤が、その後の成功につながった。その意味では、Centennial Challengesも来年のステップアップが期待できそうだ。

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