【コラム】

シリコンバレー101

150 iTMSでテレビ番組販売、無料で視聴できるのに売れるの?

    Yoichi Yamashita  [2005/10/18]

    Apple Computerが先週、iTunes Music Store(iTMS)を通じたテレビ番組の販売を発表した。デジタル音楽販売を開始した時に比べると、「番組が少ない」「無料で視聴できるテレビ番組に1.99ドルを払う人がいるのか?」等々、風当たりが強いように思える。特にHDD録画機が普及している中、わざわざiTMSで買う人はいないんじゃないか……という見方にはうなずけるモノがある。

    たしかに自分も4年ぐらい前から、見たいテレビ番組はHDD録画機のTiVoに予約して、時間のある時にまとめて見ている。リアルタイムで見るのは、結果を知った後では全然楽しめないスポーツぐらいだ。おかげで関心のある番組はくま無く押さえられるようになったし、最近はテレビの"ながら"視聴をしなくなった。だが、見逃すプログラムがまったくなくなったわけではない。

    たとえばコメディアン、ジョン・スチュワートのCrossfire批判だ。昨年10月にスチュワートはCNNの政治討論番組「Crossfire」にゲストとして出演した。これは右派と左派の2人のホストが激しく意見を言い合う番組である。通常はゲストも2人登場するのだが、ジョン・スチュワートは政治ネタも扱うコメディアンということで、この週はスチュワート1人だった。

    番組としては、ジョークで包み込みながらブッシュ政権と対立する民主党の問題を指摘してもらう予定だったのだと思う。ところが、スチュワートは「先に確かめたいんだけど、なんで口論しないといけないの?」と切り出し、「(なんでも口論に持ち込むこの番組は)ひどいのを通り越して、米国に害を及ぼしている」と番組批判を始めた。さらに「今日は一言、"もう止めろよ"とキミたちに言うためにここに来たんだ」とバッサリ。最初はスチュワート流の冗談だと思っていたホスト2人は、ジョークで切り返していたが、次第にスチュワートが本気だと判ってくると、1人は凍りつき、もう1人は"番組を盛り上げる"というお約束を忘れるほど激怒。この展開は、番組終了後、すぐにブログ等で大きな話題となった。

    ここではスチュワートのメディア批判は置いておくとして、TiVoの番組表に「Crossfire:ゲスト、ジョン・スチュワート」と書いてあっても、「[予約]のボタンに手が伸びるだろうか?」ということだ。伸びる人もいるだろうが、自分は予約しなかった。自分の周りにもいなかった。でも、こんなハプニングが起こってしまう。ここにビデオオンデマンドのチャンスがある。実際、CrossfireはIFILMがオンライン配信しているのだが、同社によると、この回は翌々日の時点でアクセス数が67万件を超えた。ちなみにNielsen Media Reserchの調査では、この時期のCrossfireの視聴者数は60万~70万人程度。最終的にはCNNよりもIFILMでより多くの人が見た可能性が高い。またP2PサービスのBitTorrentでも、スチュワート出演のCrossfireは活発に交換されていると、SuprNova.orgなどが報告している。

    もう一つ例を挙げると、7月に開催されたアフリカ支援コンサート「Live 8」である。米国ではネットワーク局のABC、ケーブル局のMTVとVH1がテレビで放送し、さらにAOLがAOL Musicを通じてオンライン配信した。結果は放送枠に制限があるテレビ局の放送と、オンラインオンデマンド配信の違いが如実にあらわれた。テレビ放送は、CMが頻繁に入り、曲のチョイスでも非難ごうごう。Nielsen Media Reserchによると、7月2日のコンサート当日の米国での視聴者数はテレビが400万人弱。これに対してAOLによると、AOL Musicのユニークユーザーのアクセス数は約500万だった。

    「無料で受信できるテレビ番組は売れないだろう」という指摘も、的はずれではない。実際、今日のケーブル会社が提供しているビデオオンデマンド・プログラムは、教育テレビの巨大データベースのようになっていて、人気の方はさっぱりだ。しかし、オンデマンド配信に適したコンテンツというのもある。それをうまく視聴者にアピールすれば、成功の可能性があることはスチュワート出演のCrossfireやLive 8が証明している。だから、GoogleやYahoo!などの検索企業はビデオコンテンツのインデックス化に力を入れている。同様に、膨大な楽曲の中からユーザーに音楽を買わせる術に長けているiTMSも、ビデオ配信で成功する可能性を秘めている。

    「Desperate Housewives」や「LOST」の放送時間は激戦区。普及帯のDVRは同時に2つの番組を録画できないので、裏番組対策でiTMSを利用する人もいるかもしれない

    ちなみにAppleが販売する「Desperate Housewives」と「LOST」は、2004-2005シーズンの視聴率ランキングでそれぞれ4位と15位。1位は人気オーディション番組の「American Idol」だった。「人気が今ひとつ…」と思うかもしれないが、TiVoが発表している「もっとも録画された番組ランキング」では先週、1位と2位である。またBitTorrentに関する様々な統計を見ても、この2つの番組は現在テレビ番組の上位にランクされている。もう一つ付け加えると、このように人気が視聴率に反映されない番組は、DVD化されると好成績を収める傾向がある。爆発的なAmerican Idolと息の長いDesperate HousewivesとLOST、どちらがオンデマンド配信向きなのかは言うまでもない。

    これらの番組がそろったのは偶然? いや、これらを獲得できたからこそAppleはビデオ販売にふみ切ったのだろう。となると、注目されるのは次の一手。スチュワート出演のCrossfireやLive 8のような、エポックメーキングなコンテンツを捕らえることができるか……である。

    関連記事

    関連サイト

    新着記事

    特設サイトの情報

      人気記事

      一覧

      イチオシ記事

      新着記事

      特別企画

      マイナビニュースマガジン