【コラム】
1999年にヒットした自主製作映画「The Blair Witch Project」の撮影では、製作費を抑えるために、使用したカメラの1台を家電チェーン店Circuit cityで購入し、終了後に返品してしまったそうだ。「動作音がうるさすぎる」とか、「思っていたよりもシャープに映らなかった」とか無茶苦茶な理由をつけたのだろう。しかし、これは米国の小売店ではよく見られる光景である。米国人は買ったものをとにかく気軽に返品する。しかも、気に入らなかったとか、思ったよりも良くなかったというようなレベルの理由でも、店側が返品に応じてくれたりするのだ(中には返品された製品をそのまま梱包し直して、新品として売っている店もあるので、米国の小売店で買い物する場合は注意が必要)。
米国で軽量・薄型な電化製品があまり登場しないのは、このお試しアリの買い物システムが影響しているのかもしれない。スリムな製品は扱いに注意が必要になるし、値段も高い。スリムなノートPCをA4ノートPCと同じように扱った挙げ句、「華奢だ」と文句を言われても困るし、返品された時に壊れていたらメーカーとしては大損害である。それなら丈夫に作っておいた方がまちがいない。たとえば初代Xbox。少々エレガントさに欠けるデザインだが、見た目はともかくとして、あのどっしり感を気に入っている人は意外と多いように思える。コントローラを無理に引っ張ったら、コードが抜けるギミックもあるし、粗く使われることを前提としたデザインは、対"米国の消費者"としては正解だったと思う。
さて、iPod nanoの発表会でApple CEOのSteve Jobs氏がジーンズのコインポケットから「iPod nano」を取り出したとき、コインポケットをケースにしてしまう演出に「さすがぁ~」と思うのと同時に一抹の不安も感じられた。"コインポケットに収まるiPod"というのはマーケティング的には効果的。だが、半分はしゃれである。ストーンウォッシュのジーンズなら、研磨用の軽石の粉末がポケットに残っていたりするし、そもそもLCDをガラス板だと思えば、びっちりとしたジーンズのポケットに押し込んで、座ったらどうなるかというのは容易に想像できる。ポケットに入れて持ち歩くにしても、それなりの気づかいが必要だ。それなのにいきなりコインポケットを印象づけたのには、少々危なっかしい印象を受けた。もちろんスリムな製品を扱う術を知っている人は大丈夫だろうが、一般的な米消費者に対しては誤解を招く恐れありだ……。
案の定、ここ数日の間に、iPod nanoの表面に簡単にキズがつく、LCDが割れたというトラブルが続々と報告されている。AppleやApple製品の情報サイトのフォーラムのほか、専門の個人サイトも登場、ニュース等でも取り上げられている。読んでみると、「新聞の上に置いてちょっと動かしただけで、表面が紙ヤスリをかけたようになった」という、いささか信じがたい内容もある。が、「ポケットの中にiPod nano以外には何も入れていなかったのに……」というケースが目立つ。
機能に直接影響しないキズはともかく(ウチの4台はnanoに限らずどれもキズだらけだ……)、気になるのは即昇天のLCD割れである。個人的にも購入前に耐久性が気になり、その時はArs Technicaのストレステストを参考にした。その内容を紹介すると、1.iPod nanoの上に座る、2.ジョギング中に落とす、3.自転車でゆっくりと走行しながら落とす、さらに全速力で落とす、4.車で約50キロ/時で走行中に落とす、さらに80キロ/時で落とす。
最初のテストでは木製の椅子を使って、ほぼゼロダメージ。2番目以降はアスファルトの歩道の上に落としている。ジョギング、自転車、さらには80キロ/時の自動車テストでもまだ正常に機能している(表面はボロボロになっているけど……)。さらに約9フィート(約2メートル70センチ)の高さからコンクリートの歩道に向けて落下テストを行ったところで、ディスプレイの表示に障害が見られるようになった。この後、車で轢いたり、上空に思いっきり投げたりという過酷なテストが続いて、完全に動かなくなったiPod nanoの検死(分解)が行われるのだが、ストレステストについて「もっと早い段階で機能しなくなると予想していたので、驚くべき結果」とまとめられている。
これを読む限りでは、iPod nanoが特に衝撃に弱いとは思えない。ただ、たとえばハードコンタクトレンズを考えると、落としただけではなんともなくても、ちょっと押しつぶすだけで割れてしまう。力のかけ方の違いでも結果は変わってくる。スリムな機器にとっては、落とすよりも、ポケットの中でゆっくりと圧力をかけられた方が故障につながる可能性は高そうだ。
すさまじい勢いで書き込みが増えるフォーラムの内容を大ざっぱにまとめると、「消費者の問題」、「デザインの問題」、「マーケティングの問題」の指摘に分けられる。あっちを立てれば、こっちが立たずという状態が、論争を迷宮に追い込み、対策を難しくしているように思える。
ただ、この問題はiPod nanoが初めてではない。大ヒットしているMotorolaの薄型携帯電話「Razr V3」でも一部の消費者からLCDの割れなど耐久性不足が指摘されている。この問題を扱ったフォーラムを読んでも、ポケットに無造作につっこんでLCDを割ったりしているのだ。
価格が高いのに売れているRazr V3、そしてiPod nanoと、これまでになくスリムなデザインが米国で受けている。それを事実として受け止めれば、"消費者の問題"を解決する"マーケティング"を講じるのが対策のステップになりそうだ。
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