【コラム】

シリコンバレー101

146 IBMのベテランエンジニアが数学・理科の先生に

    Yoichi Yamashita  [2005/09/20]

    カリフォルニア大学が、数学または科学を専門とするK-12(小中高)教師の育成を強化するプロジェクトを始動させた。2010年までに教員資格取得者数を、現在の年間約250人から、4倍にあたる年間1,000人に増員することを目標としている。

    シリコンバレーを擁するカリフォルニア州は、理系の教育環境が充実しているイメージを持たれることが多い。ところが実際は、K-12の理系教科のテストスコアは全米平均を下回っている。これはテクノロジ産業を重視する同州としては、見すごせない事実である。つまり、どんなに素晴らしいテクノロジ企業が集まっていても、自分の子供たちに優れた教育を受けさせられる学校がなければ、親である優秀な技術者から敬遠される。長い目で見ると、このままK-12が改善されなければ、シリコンバレー衰退の原因にもなりかねない。

    9月21日にSilicon Valley Leadership Groupが、シリコンバレー、ラーレイ/ダーハム、ボストン、オースチンなど、米国内でテクノロジ産業が発達している8都市のビジネス環境を比較したレポートを発表する。同団体には、Intel、AMD、IBM、Microsoft、Google、Apple Computerなど、シリコンバレーに拠点を置く主要企業が参加しており、そのレポートはビジネスサイドが各都市を採点した通信簿のような存在だ。公立学校のレベルも、ビジネスに対する税優遇プログラムや生活コストなどと共に評価材料として重視されている。

    ちなみにハイテク企業にとって現在最も魅力のある都市はノースカロライナ州のラーレイ・ダーハム。シリコンバレーはというと、「公立学校のレベルアップ、そして交通事情、住宅コスト、製造業に対する税優遇プログラムを改善しなければ、現在の地位を失うことになる」と指摘されて、最下位に沈んでいる。

    話をカリフォルニア大学に戻すと、シュワルツェネッガー州知事が昨年5月、数学・科学分野の人材を育成するために、同大学に対してカリフォルニア州立大学と連携した教師育成プログラムの実現を要請した。それに応えたのが「California Teach」というプログラムだ。学生たちは4年間の間に少なくとも数学、または科学分野の学位と1つの専門分野の教員資格を取得。早い段階から実際の教育現場を体験できる実習プログラムも用意される。また、長期的に公立学校で理系教科を教える教師に対する特別ローンの提供、成果に対する特別ボーナスの支給など、州による報奨制度も組み込まれている。

    ただ、これだけやっても学生が反応してくれるかどうかは疑問だ。現在の米国の大学生にとって、公立学校の理系教科の教師は魅力のある職業ではない。特にカリフォルニア州では財政赤字解消のために公立学校の予算が削られる中、1,000人の教師が誕生しても、それらを受け入れる職場が用意されるのか……という不安がある。そもそもアウトソーシングやネットバブル崩壊の影響で、優秀な学生はMBAや弁護士を目指す傾向が強まっている。「テクノロジ産業の長期的な発展のために、数学・科学分野の教師を」というカリフォルニア州の方針は間違っていないが、学生を惹きつけるのは難しい。

    そのような中、IBMが社員の教員資格取得を支援するという面白いプログラムを発表した。退職後の生活を考えている50代の社員を主なターゲットにしている。参加した社員は働きながら資格取得に必要な講義を受けられ、長期的な休暇が必要な実習期間中には有給休暇が認められる。さらに授業料や諸経費などへの援助として、1人当たり15,000ドルが支給される。

    優れたエンジニアが優れた教師になるとは限らないが、ベテランエンジニアが貴重な経験を持っているのは事実である。もし自分が小学生だったらこんな先生に習ってみたかったと思うし、大学の時に同級生にこんなベテランエンジニアがいたら、違う意味で頼もしかっただろう。子供たちのメンターになるだけではなく、これから同じ先生を目指す若い同級生に対してもメンターになってくれそうだ。IBMはニューヨーク州とノースカロライナ州を同プログラムの対象地域としている。優秀なエンジニアが集まるシリコンバレーでも、同様のプログラムの実現を期待したいところだ。

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