【コラム】
IntelのCPU採用というニュースを発表して以来、Appleの株価が下がっている。発表翌日の火曜日にガクンと落ちて、水・木で少しずつ持ち直してきたが、金曜日に火曜を下回るレベルまで落ちてしまった。Intel製CPU採用に対するアナリストの反応は悪くない。それでも株価が下がっているのは、消費者の買い控えを懸念しているのだろう。
1981年にAdam Osborne氏率いるOsborne Computerが「Osborne 1」というポータブルコンピュータをリリースした。ポータブルと言っても、本体はミシンぐらいのサイズである。しかも、ディスプレイは5インチという小ささだ。それでも底の方をパカッと外すとキーボードが現れるデザインは斬新で、Osborne 1はヒットし、Osborneに革新的なイメージを定着させた。そして82年に7インチ・ディスプレイを搭載した「Osborne Executive」を発表。そこまでは順調だった。ところがIBM PCとの競争を意識する余り、Executiveリリース直後に「Osborne Vixen」というモデルの開発計画を明らかにした。Osborneとしては、革新性の流れを強調したかったのだろうが、消費者は買い時に慎重になった。結果、Executiveの購入を見送る消費者が急増して、Osborneの台所事情がひっ迫。Vixenの製造が始まった直後に破産法の適用の申請に追い込まれた。
Jobs氏はOsborne氏と親交があった。当然、その失敗は脳裏に刻み込まれているだろう。それなのに、なぜIntel搭載Macが登場するまで長い時間が残されている段階で発表したのだろうか?
現実的な答えを探れば「Transition」という言葉にありそうだ。円滑な移行を実現するためのカギは2つ。PowerPCとIntel CPUの両方に対応できるバイナリ「ユニバーサルバイナリ」とIntel CPU搭載MacでPowerPCコードを実行させる技術「Rosetta」である。
まず必要なのは、少しでも早くユニバーサルバイナリのソフトウエアを増やすことである。両対応のソフトはスムースな移行の下地になる。実際にユニバーサルなソフトが出てくれば、PowerPC搭載Macもサポートされているという実感を持てる。すると今は買い控えが起こっても、まだ見ぬIntel搭載Macよりも、とりあえず成熟しているPowerPC搭載Macを手に入れておこうと考える人が出てくるだろう。
早めの発表は、早めに開発者そしてユーザーを巻き込もうとしているのだと思う。それだけ、移行プロセスに自信があるのだ。だから、個人的には次のPowerPC搭載の新製品にも期待している。おそらくAppleも、この買い控え感をある程度予想していただろうから、この雰囲気を払拭するようなインパクトが必要なのを判っているはずだ。
付け加えると、Intel搭載Macが出てくる時期になると、AppleはRosettaの性能をアピールし始めるだろう。Rosettaについては、Mercury Newsなどが報じている通り、TransitiveのQuickTransをベースにしていると思われる。Apple、Transitive共に公式には認めていないが、Appleがバイナリトランスレータと呼んでいること、QuickTransのこれまでの開発経緯などを考えると、その可能性が高い。ここで詳細を説明するスペースはないが、是非とも以前のレポートをご覧になって頂きたい。今回の基調講演では、その詳細についてほとんど説明されなかったが、QuickTransベースならば、そのパフォーマンスは期待できる。
さて、異なった視点で答えを探れば、Steve Jobs氏の人生観の変化である。12日に同氏はスタンフォード大学の卒業式にゲストスピーカーとして参加している。その内容が面白い。
同氏は経済的な理由などから大学を中退している。しかし、ドロップアウト後に取ったカリグラフィーのクラスが、その後のパソコンのタイプグラフィー開発に役立った。最初につまづいても、目標を失わず、それを糧に最後には成功をつかんできた。例えば、Appleを追い出されたことで、Pixarを設立する余裕が生まれた。それが3DCG映画を成功させただけではなく、その経験はiTunes Music Storeの成功にも役立った。「もしAppleを追い出されなければ、何も起こらなかったに違いない。その経験は口に苦い薬だったが、患者には必要なものだったのだと思う」と述べている。
さらに同氏は昨年のガン摘出手術にも触れている。一時は3カ月から6カ月の命であると覚悟していたそうだ。実際には治療できる病状だったのだが、その経験から死が誰にも平等に訪れることを実感したという。シリコンバレーの後輩達に「人生は限られている、その時間を無駄にせずに、自分の道をまっすぐに」というメッセージを送っている。
卒業式のスピーチとしては重い内容が含まれていたが、それが今のJobs氏である。「いつかは死が訪れることを意識するのは、何かを失うことを恐れずに行動するための最善の方法となる」という言葉は興味深い。WWDCの基調講演で、Intel製CPU採用の理由として「最高のパソコンを消費者に届けたい」と述べていた。そのときは、ほぼ聞き流していたのだが、今は本当に最高のパソコンを作るために邁進しているのだと思えてくる。
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