【コラム】

シリコンバレー101

122 サンノゼらしさが成功の秘訣、P2P技術を取り入れたインディ系映画祭

    Yoichi Yamashita  [2005/03/22]

    今年のアカデミー賞を観た人はご存知だと思うが、中盤にさしかかった頃に、司会のクリス・ロックが、大衆的な雰囲気のプンプンするショッピングモールで買い物客にインタビューをするというビデオが流された。

    最初は「今年のあなたのベスト映画は?」と聞いていたけど、なかなかアカデミー候補作品が出てこない。それで「Million Dollar Babyは観ましたか?」とダイレクトに聞き始めると、ほとんどがタイトルも知らない。で、「White Chicksは?」と聞くと、ほとんど全員が「観た!」と言う。中には昨年のベストに挙げる人も……。

    White Chicksは、黒人FBI捜査官がおとり捜査のためにウィルトン姉妹(ヒルトンではない……)という白人美人姉妹に変装するという2004年を代表するおバカ映画である。アカデミー候補作と違って、一片も心に残らないタイプの映画なのだが、この通り圧倒的な人気である。

    娯楽変装モノとアカデミー候補作を比べたのは、クリス・ロックが、大衆とズレているとも言われるアカデミーを皮肉ったという声がある。たしかにそうなのだが、逆の見方も当てはまる。

    White Chicks公開直後は、主演・脚本のウェイアンズ兄弟が毎晩のようにトークショーに登場していたし、TVCMや街頭の広告もものすごかった。White Chicksは配給会社の全面的な支援を受けて公開された娯楽映画であり、おかげで興行収入は大成功だった。一方、ここ数年のアカデミー候補作には、映画館で上映されていても上映期間が短すぎて気づかれず、ノミネートされたことでやっと知られるようになったという作品が目立つ。ビデオ・DVDというビジネスモデルが確立されて、製作される作品本数は増えているが、映画館の経営は厳しくなり、街の映画館が消え、複合映画館が増加している。そのような映画館は爆発的なヒットが期待できない重い作品を敬遠する傾向にある。それも大衆と賞候補作のズレを生み出しているように思える。

    地元情報誌Metroが作成した無料のCINEQUESTの作品ガイド。カフェや電化チェーンのFry'sなどに置かれているが、すぐに消えてしまう

    3月2日から13日にサンノゼでインディペンデント系映画を集めた映画祭「CINEQUEST」が開催された。今年で15回目。第1回開催時には3,000人しか訪れなかったそうだが、今年は1,777本の作品が集まり、6万人近くが参加した。今の米国で、この数字は大成功と言える。

    インディ系映画という世間から注目されない作品を取り上げながら、同映画祭が規模を拡大してこられたのは、シリコンバレーという土地柄の影響もある。まず脚本家やプロデューサーなど映画関係者を対象としたフォーラムが充実している。他の映画祭のようにクラシック映画の手法だけではなく、デジタル技術を活用した映画制作に早くから取り組むなど、実践的な講座が多い。インディでこつこつと作品を作っている人が、技術を取り入れて、より効率的に作品を製作し、作品を公開する方法を議論できる場となっている。

    そのような技術は、レビューのために作品をプレス関係者などに提供するのにも活用される。だから、映画祭が始まるころには、公式サイトや無料パンフレットだけではなく、地元の新聞・雑誌、オンライン媒体なども詳細なCINEQUESTガイドを一般の人に提供してくれる。このような環境が整えば、メジャー映画会社が配給する娯楽作品にはない面白さを発見できる。映画を楽しめるという点では、CINEQUEST 15は地方都市で開催される映画祭の理想の形に近づいているように思えた。

    だが、CINEQUESTはここで立ち止まらない。今年は「CINEQUEST Online」というKontikiのPtoP技術を利用した作品のダウンロード配信を開始した。映画館に行かなくても、自宅でDVD品質の映画を取り込んで映画祭に参加できる。Kontikiの技術は暗号化と署名技術によってプライバシーを守る仕組みを持ち、またMicrosoft DRMなど著作権保護技術の組み込みが可能だ。

    作品を世に作品を知らしめるために、インディ系映画こそ、どんどんこのような技術を取り入れるべきだと思う。今年は試験的な雰囲気だったが、CINEQUEST Onlineがベイエリアに住んでいない人にもCINEQUESTの雰囲気を伝えられるようになれば、オンライン配信の方が話題を集めるようになるかもしれない。

    ただ、うまく行き過ぎると、残り少ないインディ系映画を支援する映画館を潰すことにもなりかねない。新時代に突入したCINEQUESTには、旧スタイルの映画館と共存していける方法を見出してほしいところだ。

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