【コラム】

シリコンバレー101

98 「労働者の日」返上のハイパータスカーとデジタルオフィス

    Yoichi Yamashita  [2004/09/14]

    米国で9月の第1月曜日は「労働者の日」(Labor Day)の休日だった。昼間は家族を「エンド・オブ・サマー・セール」に連れていき、夜は夏の最後のバーベキューを楽しむというのが、ごく普通の米国のお父さんの典型的な一日……だった。ところが、今年は労働者の日に働く人が多かった。

    Kronosの調査によると、およそ3人にひとりが労働者の日の連休にも「仕事をする」と回答、さらに1割以上が「仕事をするかもしれない」と答えた。

    バーゲン巡りに付き合うのがイヤで仕事に逃げているわけではない。会社の厳しいコスト削減でクビを切られなかった代わりに、ひとり当たりに任せられる仕事量が増加し、休日が犠牲になっているのだ。Kronosの調査では、1,052人の対象者(18才以上のフルタイム社員)の62%が、過去6カ月の間に「自分が責任を持つべき仕事の範囲が増えた」と回答。32%が労働時間の大幅増を訴え、その内67%は週に5時間以上の増加となっている。

    「有能な人に仕事を集中させれば、効率的に仕事が処理される」と会社側は期待する。その結果、複数の仕事(マルチタスク)をスピーディーに次々とこなしていくハイパータスカーであることが、昨今のデキる社員には求められる。だが、このハイパータスカーの逆効果を指摘する声もチラホラと聞こえてきている。

    この分野では、ハーバード大学の心理学者Yuhong Jiang教授の研究がよく知られている。理系の名門マサチューセッツ工科大学の生徒を対象に、文字と色を「同時」または「別々」に見せて、認識にかかる時間を計測した。すると、文字と色を同時に示した場合、別々に見せた時の倍の時間がかかった。「人間の脳はふたつの仕事を同時に処理しようとすると、働きが鈍ってしまい、効率的な処理ができなくなる」と結論付けている。

    もちろん、人間の脳が同時にひとつのことしか処理できないという訳ではない。「障害物を避けながら通りを歩き、赤信号では止まる」というような行動は無意識に行える。人間の脳は、常に複数の仕事を次々と処理する優秀なハイパータスカーなのだ。ただ、仕事が複雑になると、ストレスが溜まり、その能力が低下する。

    例えば、道を歩くにしても、見知らぬ場所で地図を見ながらだと、信号を見落とす可能性が高まる。音楽を聴きながらジョギング……音楽ぐらいの刺激があった方が楽しめるけど、ペースは乱れやすい。車を運転しながらの携帯電話……これはマズい。事故につながりかねない。米国ではほとんどの州で罰金の対象となっている。日曜の昼下がり、NFLの開幕戦を横目で見ながら原稿書き……さっぱり進まない。

    脳の働きを鈍らせるぐらい複雑な作業を同時に処理しようとすると、時間がかかるだけではなく、余計に疲れてしまう。このような負担が続くと、精神的に不安定になったり、仕事に対する意欲の減退、燃えつき症候群、不眠症など、さまざまな問題が引き起こされる可能性がある。せっかくの有能な人材も、その実力を発揮できなくなる。

    さて、労働者の日の翌日から、サンフランシスコでIntel Developer Forumが開催された。注目はプロセッサのデュアルコア化。マルチタスクの効率化である。"ハイパータスカー"という言葉の登場と重ね合わせて考えると面白い。

    マシンの場合、単調なマルチタスクの連続にストレスを溜めるということはない。むしろ、飽きっぽいけど、集中すれば思わぬ実力を発揮する人間の脳をうまく補ってくれる存在になり得る。

    例えば、デジタルオフィス。ハイパータスカーにとってコミュニケーション・ツールの増加は大きな悩みである。電話にEメールにメッセンジャー、ポケットの中にはBlackBerry。ひとつひとつは便利だけど、すべてを完璧に管理するのは至難の業。処理に追われると、肝心の仕事に集中できなくなる。これらを連係させ、人間の脳がひらめきやすくなるように、シンプルな形にまとめるのはマシンの得意分野と言える。

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