【コラム】

シリコンバレー101

91 Googleの一行広告に込められた厳しいメッセージ

    Yoichi Yamashita  [2004/07/27]

    ロサンゼルスタイムスによると、カリフォルニア大学のコンピュータサイエンス課程に送られてくる願書数が急減しているそうだ。同大のシステムの中で最もエンジニアリング分野の規模が大きいサンディエゴ校では、2002年から2003年にかけて24%減少したという。

    この不人気ぶりの大きな原因のひとつが、長く続いたハイテク業界の低迷であるのは間違いない。1999年から2003年の間にコンピュータサイエンス課程の登録者数は、カリフォルニア大学バークレー校で41%減、マサチューセッツ工科大学で44%減、ジョージア工科大学で45%減と、全米のすべての地域で大きく減少している。

    ただ、今やシリコンバレーの景気も回復基調にあり、労働省の見通しでは2002年から2012年の間にソフトウエアエンジニアの職は46%増になる。それでも、低迷期を抜けてきた企業のコストダウン、海外へのプログラミング業務流出の傾向が影響しているのか、コンピュータサイエンス課程の人気に回復の兆しはないそうだ。

    一方、学生を迎える大学側にあわてた様子はない。9月から始まる新学年を前に、コンピュータサイエンスの不人気ぶりは至る所で取り上げられているが、現場の教授・講師たちは、むしろ大規模になりすぎたクラスがあるべき姿に戻りつつあることを喜んでいる。一攫千金を狙ってコンピュータサイエンスの道を選ぶ学生たちを減らし、純粋にプログラミングに興味を持つ学生だけを集めた質の高いクラスに戻したい様子である。

    シリコンバレーの101号線、サンマテオとレッドウッドシティの間に、実に奇妙な看板が立てられている。

    「{eの値で、最初に出てくる10桁の素数}.com」

    看板はGoogle本社とは、まったく関係のない街に設置されている

    けっこう目立つ場所に掲げられていたのだが、この一行以外に企業名や説明が書かれていなかったため、しばらくは誰からも無視されていた。ところが、つい最近、これがGoogleの求人広告だというのが明らかになった。

    さて、問題だが、e(ネイピア数)の値と10桁の素数表を見比べながら解いたのでは時間がいくらあっても答えは出てこない。だが、プログラミングすれば、短時間で答えを導き出せる。で、その答え「7427466391.com」に行くと、今度は「f(1)=7182818284、f(2)=8182845904、f(3)=8747135266、f(4)=7427466391、f(5)=__________」と表示されて、さらに「Linux.orgのサイトに行って、ログイン画面でパスワードにf(5)の値を入れろ」と記されている。

    最初の問題に比べると、2問目はクイズに近い。f(1)の値がeの小数点以下の最初の10桁であること、さらに各桁の数字を足すと「49」になるというパターンに気づけば、プログラミングの道が開ける。この答え(5966290435)をログイン画面のパスワードに入れると、Google Labsの求人情報画面が現れる。

    いかにもGoogleらしい、ユニークな求人方法である。この奇抜な求人方法はすぐに大きな話題となり、答えも瞬く間に知れ渡ったため、今や誰でも(僕を含めて……)問題を解かずして、この問題の裏に隠されたGoogleの求人メールアドレスを知ることができる。だが、解答のメールアドレスを知ることが評価される訳ではない。選考では、答えに至るまでの過程、そして解答をはじき出すためのプログラムが重視されるのは言うまでもない。ユニークだが、たった一行の問題に「優秀なプログラマのみ募集中」という厳しいメッセージが込められている。

    精鋭を求める傾向はGoogleだけではなく、ハイテク業界全体に広まっている。例えば、6月末にガゼット・タイムスで、オレゴンのMega Techという回路組み立ての下請け企業の成功例が紹介されていた。同社が昨年12月にScott Schroeder氏に買われたときは、下請け業務の海外への流出の影響で青息吐息だった。そこで従業員を最盛期の半分の35人に減らし、製造分野での海外工場との価格競争を止めて、ハイエンドのサービスを売り物にした。今では柔軟なスケジュール、優れたトラブル処理能力、資材調達から製造・組み立てまでのトータルソリューションを提供する企業として、独自のポジションを獲得しているという。

    シリコンバレーの景気が回復基調にあっても、雇用はなかなか厳しい状況から抜け出せない。その原因として、このような企業の少数精鋭化の影響は否めない。学生たちもそれを敏感に感じ取っているのだろう。労働省の楽観的な見通しに踊らされないのも、当然と言えば当然なのである。

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