【コラム】

シリコンバレー101

86 大手を圧倒するローカルサービス「クレイグスリスト」

    Yoichi Yamashita  [2004/06/22]

    米オークションサービスのeBayでは、まもなく地域を細かく設定した検索が可能になる。これまでも「近くにあるアイテム」という検索方法があったが、比較的規模の大きな都市単位でしか検索できなかった。新サービスでは郵便番号をベースに、出品者の場所をより正確に特定できる。これにより、買い手側は、どのような場所からでも5マイル単位で、例えば「我が家から半径10マイル以内」というように検索範囲を自在にコントロールできるようになる。さらに、導入が完了すれば、"価格"や"時間"に加えて、"距離"による検索結果のソートも実現するそうだ。

    eBayの他にも、Yahoo!やGoogleがローカルサービス強化に乗り出しており、今や"ローカルサービス"は次世代サービスのキーワードのひとつとなっている。だが、これらシリコンバレー企業がローカルサービスの開拓に熱心になるのを、不思議に思う人もいるのではないだろうか。意外と地元で「Craigslist」に惨敗しているという痛手の影響かもしれない。

    Craigslistは、ベイエリアを中心とした地域情報の交換サイトである。9年前に、サンフランシスコでEメールを使った求人情報サービスとして始まり、ユーザーが250人近くに増えた時にWebに移行した。サイトのデザインは個人運営のブログサイトかと思えるほどシンプルだ。扱っている情報は、求人・求職、売ります・買います、賃貸、イベントなどさまざま。地方新聞のクラシファイド・ページをそのままオンライン化したような内容である。

    Craigslistの魅力は地域性の高い情報の提供にある。また、同サービスでは情報提供の方法としてオンラインを利用しているが、実際に取引する段階では、ユーザー同士が直接交渉するケースが多い。eBayのように、キーボードとマウスの操作だけで落札・支払いを完了できるような便利さはない。面倒なサービスなのだが、逆に多くのユーザーにとっては、地元の人同士が"会う""電話する"という部分が安心感につながっている。

    その結果、ベイエリアの住人が何か探したり、売買したりするとき、Craigslistに該当するカテゴリーがあればとりあえず同サービスを試してみる。「それでもダメだったら、eBayやMatch.comを使ってみる」というぐらい同サービスは地元の人たちから絶大な支持を得ている。

    現在、Craigslistのページビュー数は月8億を超え、米国のランキングではトップ20の常連となっている。情報掲載は基本的に無料で、企業による求人情報だけが1件75ドルとなっている。それだけが収入源であるにも関わらず、Fortune誌は、同サービスの年間売上げ高は700万ドル近くと見積もっている。しかも、同サービスはCraig Newmark氏を中心にわずか15人のメンバーで運営されているのだ。

    当然、「Craigslistの成功例をあらゆる都市に適用して、もう少し他のサービスも有料化したら……」と考える企業が次々に登場する。だが、どうもうまくいかない。他のローカルサービスの問題点について、Newmark氏は「学力的にはインテリであっても、社交的なつきあいがろくにできない人に魅力がないのと同じだ」と自身のブログでコメントしている。

    先週NYで開催されていたInternet Planetの基調講演の中で、Attitude社長のJohn Patrick氏が「我々はインターネットの潜在価値の5%程度しか引き出していない」と苦言を呈していた。数々の企業が"Web上でのサービスの統合"を目標に掲げているが、本気ですべてのビジネスプロセスをオンラインに取り込もうとしている企業はほとんど存在しない。リスクのある部分では、電話やFAXなど既存の方法が使われている。どこかに"逃げ"があるから、逆にセキュリティやプライバシーの問題も本質的に解決できないと指摘する。

    Patrick氏に言わせれば、Craigslistは積極的に"逃げた"からこそ成功したズルいサービスとなるのかもしれない。この二人、オンラインサービスに対するアプローチでは相反している。だが、面白いことに"消費者のためのサービスの統合を……"という根の部分では同じ方向を向いている。ちなみにNewmark氏はプログラマー、Patrick氏は戦略立案という立場だが、二人ともIBM出身である。

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