【コラム】

シリコンバレー101

84 Gmailに満足できなくなった理由

    山下洋一  [2004/06/09]

    GmailSwapというサイトをご存じだろうか?

    Gmailへの招待状の売買を仲介するサイトである。この招待状というのは、Googleが4月末に初期テスターに与えた権利で、ひとりあたり3名をGmailに招待できる。もちろん無料なのだが、招待状の数は限られているし、入手希望者は逆に多すぎる。そこでGmail招待状の交換情報を効率的にやりとりできるようにするためにGmailSwapが立ち上げられた。

    GmailSwapの面白さは、あまりにも希望者が多すぎて、金額提示だけでは取引が成立しないところだ(もちろん破格の提示は即取引成立だが…)。キレのあるユーモアを盛り込んだ交換条件でなければ、Gmailアカウントにありつけない。例えば、今年のNHLのチャンピオンシップ「スタンリーカップ」は、カルガリー・フレームスとタンパベイ・ライトニングとの間で最終の第7戦までもつれこんだ。その大舞台の直前に「第7戦終了直後から3時間、カルガリー・ファンが繰り出す17番街で、俺はタンパベイのジャージを着て暴れ回り、その様子をカメラに収める」という提案があった。カルガリーが勝てば和気あいあいとした雰囲気になるかもしれないが、敵地でタンパベイが勝つようなことになれば、怒り絶頂のカルガリー・ファンを前に自殺行為である。ちなみについ先ほど終了した第7戦はタンパベイが勝利して、スタンリーカップを手にしている……。

    招待状がプラチナ化しているGmailだが、個人的にはメールサービスとしてのGmailの利用をあきらめてしまった。機能に不満はなかったが、Gmailアカウントへの返信に対して「Gmailを使っているのですか……」と、拒否しないまでも、かまえてしまう人が何人か出てきた。プライバシー侵害論争の影響である。これでは仕事のメールのやり取りには使えない。

    返信アドレスをGmailアカウント以外に設定して、Gmailを使っていないように見せかけることはできる。だが、送信メールや受信メールをGmailのメールボックスに貯めこんで利用してこそ、Gmailを使う価値がある。一度は、自分でGmailアカウントに転送しようかとも思ったが、さすがに面倒すぎてあきらめた。

    自分では「Googleは信頼できる企業だし、メールスキャンにプライバシー侵害の恐れはない」と判断したとしても、すべての人が同じように理解してくれるわけではない。メールは相手があってこそ成立する。それだけに、使えば使うほどに、メールサービスとしてのGmailの限界が顕著になった。

    同時に、使い続けてみて改めて実感したのは、Googleが検索を柱とする会社であるということだ。無造作に貯めこんだ大量のメールから、簡単に必要なメールを探し出せる検索機能はGoogleの本領発揮である。おそらく、これを経験したら誰もが「自分のためだけに使えるGoogleは便利!」と思うだろう。

    そこで、メールサービスとしてのGmailをお払い箱にした代わりに、今度は自分の原稿や資料などをGmailアカウントに送り込んでみた。1GBの容量は、テキストデータ主体なら余裕である。Webサービスなので、どこからでもアクセスできるし、HDDのトラブルでデータを失う心配もない。なによりもGoogleの検索技術を自分のデータ検索のためだけに利用できる。残念なのは、現時点では検索機能が日本語に対応していないため、英語のキーワード追加が必要なこと。今後の希望としては、添付ファイルの検索を実現してもらえると、より一層魅力的なサービスになりそうだ。

    と、このようにメールサービスなのに、今や資料の貯蔵スペースと化しているGmailである。だが、これこそGmailの本質を物語っていると思う。Googleが試みているのは同社の検索技術とパーソナルデータの結びつけにある。ビジネスモデルの一案としてメールサービスという形が示されたが、必ずしもメールサービスである必要はない。

    Gmailのベータテストの底辺には、「パーソナルデータを検索するために、どのようにGoogleの技術を利用したいか?」という問いが存在する。今はメールサービスとして注目されているが、実際に使ってみて、その問いかけの存在に気づいた人は、単なるメールサービスでは満足できなくなる。その不満こそがGoogleの次世代のサービスを推し進める原動力になるように思えるのだ。

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