【コラム】

シリコンバレー101

77 賞金1000万ドル、有人ロケット開発競争の行方は?

    山下洋一  [2004/04/13]

    4月7日、マウンテンビューのコンピュータ歴史博物館で、IBMのメインフレーム・コンピュータ「System/360(S/360)」の発売40周年を記念するイベントが開催された。

    1964年に発売されたS/360は、IBMの歴史の中で最も野心的なプロジェクトから誕生した。当時の同社の年間売上げは32億ドル。それにも関わらず研究開発・製造施設など総額50億ドル以上をS/360プロジェクトに費やした。もちろん、それだけの価値をS/360は備えていた。当時のコンピュータの多くは特定業務のためだけに作られた専用マシンだったが、S/360はソフトウエアを入れ替えることでさまざまな業務に対応できた。結果的に金融、保険、製造、通信などの主要産業、さらに政府機関のサービスや業務がメインフレーム・コンピュータのデータ/トランザクション処理能力に頼るようになった。

    今は安定の象徴とも言えるIBMだが、実はテクノロジーの転機を呼ぶ大きな「賭け」に挑んだ企業だった。

    同じ4月7日、偶然に過ぎないが、現在の野心的なプロジェクトにとっても記念日となった。米連邦航空局(FAA)がカリフォルニア州のScaled Compositesに対して、民間企業初の有人ロケットの商業飛行を認めるライセンスを交付したのだ。

    Scaled Compositesの「SpaceShipOne」

    Scaled Compositesの研究開発チームを率いるBurt Rutan氏は、無着陸・無給油で世界一周を達成した「Voyager」のデザイナーとして知られる。「SpaceShipOne」と呼ばれる同社のロケット飛行機がどのように飛行するかに興味がある方は、こちらの記事を参考にしてもらいたい。

    ライセンスの交付期間は1年で、更新の度に飛行テストの成果や安全性などが再確認される。現時点では開発をサポートするための仮免許のようなライセンスと言える。

    Scaled Compositesのライセンス獲得によって、がぜん注目され始めたのが「X PRIZE」である。X PRIZEは、商業宇宙旅行の実現を後押しするために96年に始まった競技会で、3人を乗せて高度100キロまで飛び、無事に帰還した最初のチームに1000万ドルの賞金を与える。条件は、民間・個人のチームであることと、同一の機体で2週間以内に再度飛行すること。支援者には、史上初の宇宙観光旅行者となったDennis Tito氏、ニューヨークからパリへの初単独飛行を成功させたCharles Lindberghの孫であるErik Lindbergh氏、宇宙飛行士で米上院議員のJohn Glenn氏、俳優のTom Hanks氏などが名を連ねている。

    現在、7カ国の27チームがエントリーしており、その中でScaled Compositesは賞金獲得の有力候補と言われていた。ただし、高度100キロを飛ぶ技術と機体があっても、有人ロケット飛行ライセンスが無ければX Prizeの審査員の前で飛ぶことができない。つまり、ライセンス獲得がX PRIZEに挑戦するための条件になっていた。これでScaled Compositesは賞金獲得に王手をかけた状態(スポンサーに対して飛行の90日前に通知するというルールがある)になる。

    Scaled Compositesは、X PRIZEをきっかけに有人ロケットを"未知の巨大ビジネス"に成長させようと狙う。今後10年のうちに一般の人が宇宙を旅できるようにしたいとしている。そんなScaled Compositesをドン・キホーテのように見る人も少なくない。確かに今はまだ想像しにくい。しかし、冒頭で紹介した40年前のIBMの大きな「賭け」も、社内外を問わず「大バクチだ」と評されたそうだ。その大バクチは、とてつもない成果をもたらした。

    ちなみにX PRIZE Foundationでは、X PRIZE終了後も開発支援を継続するために「X PRIZE Cup」という有人ロケットを集めた競技会を計画している。ニューメキシコ州とフロリダ州が最終候補地になっており、一般の人の見学も可能な年次イベントになるそうだ。先月開催された無人ロボットカーレース「Grand Challenge」同様、アメリカならではのレースになりそうだ。

    関連記事

    関連サイト

    新着記事

    特設サイトの情報

      人気記事

      一覧

      イチオシ記事

      新着記事

      特別企画

      マイナビニュースマガジン