【コラム】

シリコンバレー101

73 スーパーで買える手軽さが人気に、社員の身辺調査ソフト

    山下洋一  [2004/03/16]

    ウォルマート系列の会員制卸売スーパーSam's Clubで販売されているChoicePointの「Employee Background Check」というソフトウエアが話題になっている。その名が示す通り、従業員や求職者の身辺調査を行えるソフトウエアで、価格は39ドル。昨年末に販売開始され、口コミでユーザーを増やしている。

    ChoicePointは各種データを販売する業者である。従業員や求職者、学校の先生やベビーシッター、店子などを対象にした身辺調査の依頼は米国では珍しくはないが、一般的という程でもない。それがパッケージソフトという形で、小売店で販売され始めたことで、身近な存在になり始めた。

    Sam's Clubは、スモールビジネス・オーナーをターゲットにした卸売スーパーで、会社経営者や購買担当者しか会員になれない。そのため小売店と言っても、個人の買い物には利用できない。だから、ChoicePointは「Sam's Clubで販売することで、大企業が主なユーザーだった身辺調査をより多くのスモールビジネス・オーナーに利用してもらえるようになる」とアピールしている。

    だが、Sam's Clubが会社関係者限定というのは建前に過ぎない。一人で営業しているフリーランス・ライターでも、ねばれば会員になれるし、友人の名刺や社員証を借りて会員になったり、メンバーカードを借りて買い物したりと、個人的な買い物に頻繁に利用されているのが現状。それが知れ渡っているだけに、ChoicePointがなんと言い訳しようとも、Sam's Clubでの販売は"ほぼ一般販売"と受け取られており、手軽に入手できる身辺調査ソフトの販売はプライバシーの侵害につながると懸念されている。

    ただし、Employee Background Check自体は危険なソフトではない。身辺調査を行うには、対象となる人物の正確な名前と社会保障番号の入力が必要になる。また、それらの情報を持っていれば、Employee Background Checkを使わなくとも、政府機関などから同様の情報の入手が可能だ。ビジネスに携わっている人ならば誰もが知っていることである。

    手軽な身辺調査ソフトが悪用される可能性は否定しないが、個人情報に関する危険性はEmployee Background Checkがなくとも存在する。むしろ、自己診断サービスを利用する求職者や社会保障番号の取り扱いに慎重になる人が増えている点では、セキュリティ意識を高めるきっかけになっているようにも思える。

    カリフォルニア州では、UCLA医学部の献体プログラムで臓器売買が発覚して大騒ぎになっている。米国で初めて献体プログラムを導入した大学だけに衝撃は大きく、加えて逮捕されたプログラム・ディレクターの学歴詐称まで明らかになった。

    以来、米国でも学歴詐称がニュースで取り上げられている。と言っても、身辺調査を重視する方向に進んでいるのではない。逆に大学のデータベースにアクセスして、成績を書き換えたり、卒業生に名前を付け加えたりという商売の存在が浮き彫りになっているのだ。しかも、卒業証書や成績表の偽造、それを証明する人を紹介するサービスまで存在する。日本での一連の学歴詐称問題の報道では、米国の大学が情報管理を徹底しているような印象を受けたが、実はハッカーに狙われるスキだらけの大学が少なくないようだ。

    Employee Background Checkにはロゴの下に「採用時に適切な判断を行なうために」と書かれている。だが、身辺調査の過信が危険なのも事実。データは必要としない人をふるいにかけるためには役立つだろう。だが、求めている人を選び出すには、ソーシャル・ネットワーキングではないが、データに現れない部分を判断する必要がありそうだ。

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