【コラム】

シリコンバレー101

54 Alto誕生から30年、道具として未完成の道に迷い込んでいるパソコン

    山下洋一  [2003/10/14]

    11日土曜日、早朝からスタンフォード大学では、CRTモニターやパソコンを積んだ車の列が同大学スタジアムを取り囲んでいた。National Recycling Coalition(NRC)とDell主催によるリサイクリング・ワークショップがスタンフォード大学で開催され、同時に無料リサイクリング・サービスが行われたのだ。

    ほとんど宣伝は行われず、「知る人ぞ知る」という感じのリサイクリング・プログラムだったが、この日だけでおよそ45トン分の電子機器が回収されたそうだ。集まってきたパソコンをチェックしてみると、工夫次第ではまだまだ使えそうな3~4年ぐらい前の製品が多数含まれていていることに気づく。パソコンの価格が下がってきて手放しやすくなっているのだろう。製品サイクルが短くなっているのは、パソコン業界としては喜ばしいことかもしれない。ただ、積み上げられたパソコンからは、ユーザーの愛着というか、ユーザーの生活にとけ込んでいたような跡があまり感じられなかった。ブームの残骸を見ているようにも感じられたのだ。

    Apple従業員番号31番。「Macの父」として知られるJef Raskin氏

    翌日の日曜日には、コンピュータ・ヒストリー博物館でビンテージ・コンピュータ・フェスティバル(VCF)が開催された。VCFでは、ビンテージと呼べるような名機やそのパーツの展示・販売、さらには開発したエンジニアによる講演が行われる。今年はXerox Alto誕生から30年という節目の年である。Altoとは切っても切れない関係にあるMacのグラフィカルユーザーインタフェースをデザインしたJef Raskin氏が参加し、Mac開発を中心に、独自のユーザーインタフェース論を展開した。

    同氏がキーワードとしたのは「道具(ツール)」である。スコップの先端の金属部分をパソコンの"ハードウェア"、そして杖の部分を"インタフェース"に例えて説明する。スコップを穴掘りの道具として使うには、このふたつのバランスが肝要になる。だが、現在のコンピュータは、巨大な金属部分にか細い杖がついているような状態だという。これではどんなに金属部分が鋭く磨かれていても、満足に穴は掘れない。この傾向は強まるばかりで、道具としてのパソコンは、どんどん未完成の度合いを強めていると指摘する。

    「これでは穴は掘れない!!」。現在のパソコンは道具としてはアンバランス
    Raskin氏がひとつだけ行ったデモ。ユーザーが作業を視覚的に把握できるように、ワープロの画面内に実行しているコマンドが半透明で表示される

    「マイクロソフト製品がこれだけ普及した現状を変えるのは不可能だという人がいる。だが、コンピュータをユーザーにとって本当にすばらしいツールにできれば、状況は変わるはずだ。現にMacが登場したときも、今とそれほど変わらない状況だった」とRaskin氏。

    「OS9からOS Xへの変化をどのように評価しているか?」と質問したところ、「ヒューマン・インタフェースという点では、ほとんど変化していない。それはWindowsとMacの間でも同様のことが言える。スキンの違い程度でしかなく、赤が好きか、それとも青が好きかという選択に過ぎない」という厳しい答え。"人にやさしい"コンピュータに近づく努力は見られないという。

    その原因のひとつとして、同氏はツールがそろった現在のソフトウエア開発環境を揚げる。開発期間やコストの削減につながるかもしれないが、「レールの上を走っているようなものだ」と指摘。開発者には創造力を持って、自らレールを敷く開拓精神を求めていた。

    1982年、Apple共同設立者であるSteve Wozniakが企画したUS Festivalへの招待状を見せるBruce Damer氏(右)。データの入ったフロッピーを配布するのは画期的な試みだったそうだ

    Raskin氏の後には、DigiBarn Computer Museumを主催するBruce Damer氏が、ビンテージ・コンピュータ収集について講演を行った。同氏曰く「メディアがパソコンの歴史を取り上げる場合、必ず『1984年にMacが登場して、その頃Bill Gatesは……』というような説明になる。だが、それが誤解を生み出す原因となっている。歴史というのならば、そこに至るまでの、数々の試行錯誤、そして土台となった技術をしっかりと取り上げるべきだ」と、こちらの耳に痛い指摘を行った。

    20年前は、今のパソコンの歴史に語られる以上に、ユーザーが高揚するような様々な出来事が業界にはあったそうだ。ひるがえって、最近のパソコンは、急速なテクノロジの進歩に支えられているが、わくわくするような製品に出会うことが少なくなったという。ここ数年のパソコンについては、「10年後、20年後もユーザーの心にとどまっているパソコン。古くなっても価値があるビンテージと呼べるパソコンは少なくなりそうだ」とDamer氏。

    ただ、その言葉とは裏腹に、あきらめ口調ではない。Raskin氏同様に、かってのMac登場のような革新性が現れるのを心待ちにしているようだった。

    IBM PCに先立つこと約6年、1975年にリリースされた「IBM 5100」
    ズラリと並べられた初期Apple製品

    今回のVCFの主役。誕生から30年が経ったXerox「Alto」
    VCFの会場では、いたる所でビンテージ用のパーツ販売・交換が行われている

    安価に量産された最初のマイクロコンピュータシステムMITSの「Altair 8800」
    Appleの「Newton」やCasioの「Zoomer」などが並ぶビンテージPDA

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    http://pcweb.mycom.co.jp/column/svalley.html

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