【コラム】

シリコンバレー101

45 3年間で5テラバイト、大リーグのジャイアンツはIT野球で首位独走

    山下洋一  [2003/08/05]

    現阪神の伊良部投手がヤンキースで2シーズン目を迎えた年だったと思うが、同球団のGM(General Manager)であるブライアン・キャッシュマン氏にインタビューしたことがある。

    今やジョージ・スタインブレナー氏直属のタンパ派に対抗するニューヨーク派のリーダーとして知られているが、元々はインターンとしてヤンキースで働いていた。それがGMに抜擢されるきっかけとなったのが、パソコンの導入なのだと言う。「それはスゴイ!!」と興味津々になったのだが、「こうやって選手のプロフィールや成績、病歴、メモなどを記録しておくんだよ」と自慢気に見せてくれたのはごく普通のデータベース。とりあえず、「若くしてGMになった人は違いますな~~」みたいなことを言っておいたが、内心では「IT企業は営業に来てないのかい」と思っていた。

    しかし、やっているところはやっているのであり、今やITを導入しているか否かがチームの成績に大いに影響し始めている。その筆頭が、ベイエリアの球団で昨シーズンはワールドシリーズ出場を果たしたサンフランシスコ・ジャイアンツだ。

    ジャイアンツというと、1シーズン最多ホームラン記録を持つバリー・ボンズが有名だが、他に客を呼べそうなスター選手はいない。職人っぽい選手が多く、よく言えば通好み、一般的には地味な感じの球団である。そう言えば、巨人史上最強の助っ人クロマティは、東京のジャイアンツとは契約したくせに、サンフランシスコの気候が肌寒いという理由で大リーグのジャイアンツからの誘いは断っている。でも、同じ理由でジャイアンツを敬遠する大リーガーは意外と多いのだ……。

    今年のジャンアンツは、人気はともかく実力ではボンズに近かったジェフ・ケントがFAで離脱した。地味度は着実に増加。個人成績の方も地味ぶりをよく反映したそこそこの結果になっているのだが、チーム全体ではナ・リーグ西地区をぶっちぎりで独走中だ。ひとつの出塁がどのぐらい得点に結びついているかという指標があれば、ジャイアンツはかなりいい線を行っていると思う。このジャイアンツの効率性、そして躍進を支えているのが3年前に新球場と共に導入されたデータベース・システムである。

    こちらはファイルメーカーで作成できそうなキャッシュマン氏自慢のデータベースとはレベルが違う。新システム導入以来、ジャイアンツの試合はすべてデジタルで記録されており、1球ごとに球種/コース、バッターの対応、打ち返したボールの行方等々がリアルタイムでデータベース化されていくのだ。遠征先でもジャイアンツのスタッフはノートPCを持ち歩いてデジタル記録を取っている。こうして3年間で5TBのデータがたまった。コストもかかるが、それだけの価値があるのは昨年と今年のジャイアンツの成績が証明している。

    例えば、メッツ戦でストッパーのベニテス(現ヤンキース)が出てきた、キャッチャーはピアッツァ、ランナー2塁でカウントは2-3。これまでなら球種の予測はクセ盗みにかかっていたが、今はこういった状況を入力すれば、すぐに次に投げる可能性の高い球種やコースが弾き出される。試合の準備にも大活躍だ。簡単な操作で、翌日に対戦予定のピッチャーの過去3年間の投球を抜き出せるので、微妙なクセを盗む研究に活用できる。また、大胆にヤマを張って、カーブだけを集めて研究することも可能。もちろん、逆に投手陣も、これらの分析を投球術に活かせる。

    ちなみに現在、大リーグの球団でジャイアンツ以外に同様のシステムを導入しているのはトロント・ブルージェイズとLAドジャース。ブルージェイズも効率的な成果を上げている球団と言えるだろう。ドジャースはというと、投手陣が大健闘しているが、なぜあんなに打てないのだろう。最新システムを持っても、あれだけ投手陣の足をひっぱるのだから、よほど実力が……。

    しかし、予測されることで、逆に打てなくなる選手もいるそうだ。データベースの予想が意識に植えつけられるあまり、予想外の球が余計に効果を持ってしまう。それはチーム全体でも気をつけるべき点で、時間と共にデータが充実し、分析結果の正確性が増すにつれて、選手本来の運動神経を活かしたプレーを損なわないようにする努力が必要になりそうだ。

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