埼玉県の越谷市にあるホダカ株式会社は「マルキン自転車」や「KhodaaBloom(コーダーブルーム)」などのブランドを扱っている自転車メーカーです。

今回は数学と自転車との関わりについて、ホダカ株式会社でスポーツ自転車ブランド「KhodaaBloom」を担当されている、神谷俊介さんにお聞きしてきました。

―本日はよろしくお願いします。まずはホダカ株式会社という企業について教えていただけますか?
ホダカのスタートは総合的な輸入商社でしたが、これからは自転車だ、ということで現在の事業は自転車に絞っています。日本で企画した自転車を中国の工場で生産し、それを入荷して全国の取り扱い店に納品する、という形ですね。

―本社の入口に、箱詰めされた自転車がたくさん置かれていました。中国からの入荷は全部こちらに在庫されるんでしょうか?

九州や北海道にも倉庫はありますが、大部分はこちらに在庫しています。

―「マルキン自転車」がホダカ株式会社の主となるブランドですよね?

そうですね。マルキン自転車はもともと歴史あるブランドだったのですが、弊社が生産を引き継いだんです。手軽な価格で品質のよい自転車に乗れるということで、広く支持をいただいております。

―神谷さんが担当されている「KhodaaBloom」というブランドについて教えてください

「KhodaaBloom」は、品質と走る楽しさを追求する趣味性の高い本格的なスポーツ自転車ブランドとして6年ほど前に立ち上げました。現在、日本で流通しているスポーツ自転車は海外製のものが多いのですが、「KhodaaBloom」事業によって、日本の企画ならではの日本人に合ったブランドを育てていきたいと考えております。

―価格帯は10万円を超えるような本格的なものですね

今はアルミニウムや鉄製が中心ですが、これからはカーボン製の自転車など、さらに上級のラインアップも充実させていきたいと計画しています。

―このような本格的な自転車開発に携わる神谷さん、自転車と数学の関係について教えてください

開発にあたり、数学の大切さは日々感じています。ギア比のことを考えてみましょう。自転車のスピードというのは、前のギアと後ろのギア、そしてタイヤの大きさとペダルの回転数で決まります。車輪が小さい小径車だとたくさん足を回さなければいけないと思われる方もいらっしゃるのですが、ギア比の調整でペダルの回転数は変えられますよね。車輪が小さくても、たくさん足を回さないといけない、というわけではないんです。

なので、商品化の際にはギア比の調整で自転車の性格づけをするんです。街で乗る自転車なのか、競技で乗る自転車なのか、ギア比を計算して性格をつけていく必要があります。

―確かに計算が不可欠ですね。具体的にどのような計算式を使うのでしょう?

たとえばギア比と速度の計算式があります。前のギアの刃が52枚、後ろのギアの刃は21枚、車輪の径が700C(約70cm)のときに1分あたり90回転でペダルを回すと、必ず自転車の速度は28km/hくらいになるんです。このように以下の図のような計算によって速度が導き出せます。

―数学の問題としてすぐに応用できそうですね

本格的にロードバイクで走り込んでいる人は、走りながらこのような計算をしています。自分が走る路面状況やペースを考えて、ギアパーツを刃数の異なるものにつけ替えて、ギア比を変えたりもするんですよ。計算に基づきながらパーツを交換できるのも、ロードバイクのおもしろさですね。

―まさに計算と共に走る乗り物ですね

車輪を放射状に支えている針金がありますよね。これを「スポーク」と呼んでいます。車輪の真ん中の部分と車輪の円周の部分に穴があいていて、この穴と穴の間に「スポーク」を渡すのですが、この時も力がかかった際にねじれないよう、「スポーク長」の計算が必要なんです。これを計算して自分でホイールを組む方も多いんですよ。

―聞けば聞くほど数学が好きな人間にはもってこいの趣味ですね!

おっしゃる通り、たしかに自転車好きの方には理系が多いイメージがありますね。あと、自転車は長い時間ずっと有酸素運動ができるという利点があります。例えば何時間も歩いたり泳いだりするのは相当大変ですよね。でも自転車なら簡単ですし、ペースも調整できます。カロリーを消費するという意味ではベストなスポーツですね。

―なるほど、効率よくダイエットができるのも自転車人気の秘訣なんですね

効率という意味では移動におけるエネルギー効率も特筆できます。1人で車に乗って移動することを考えてみてください。車の重量やガソリンの消費量など、1人の移動のためにものすごいエネルギーを使ってしまいます。それに比べると自転車はとてもエネルギー効率がよい乗り物ですね。

―神谷さんご自身はこれまでどのように数学と関わってきましたか?

高校の初めまでは数学が得意だったんです。けれどもベクトルが出てきたあたりで、なぜか答えが合わなくなって嫌になっちゃいまして(笑)。だから文系で経済学部に行くことにしました。でも、物理は大好きでしたね。物理への興味が自転車への興味につながったのだろうと、今になって思います。

―たしかに自転車は物理法則が目に見える機械という感じがします。神谷さんはレースなどにも参加されるんですか?

参加していますよ。とくに「ヒルクライム」と呼ばれる上り坂だけのレースが好きなんです。コースの地図をみて、坂の斜度をみて、どのくらいの回転数を維持して…などと考えながら走るのはまさに数学ですね。

―上り坂だけのレースですか。過酷なレースも数学との関わりがあるんですね。本日はありがとうございました

私たちの日常の足として愛される自転車。こうして開発者のお話を聞いてみると、その構造がいかに数学的かわかります。また、チューニングやレースにおいては乗り手にも数学的な思考が要求されるということでした。自転車の開発者として、サイクリストとして、数学を生かす神谷さん。社会で生きる数学の貴重なお話をありがとうございました。

今回のインタビュイー

神谷 俊介(かみや しゅんすけ)
ホダカ株式会社Brand Business Unit KhodaaBloom Merchandiser。
横浜国立大学経済学部を卒業後、同社に入社。営業・直営店勤務等を経て、現在スポーツバイクブランド「KhodaaBloom」の企画を担当。趣味はヒルクライムレース。

ホダカ株式会社

このテキストは、(財)日本数学検定協会の運営する数学検定ファンサイトの「数学探偵が行く!」のコンテンツを再編集したものです。

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