フェラーリのV8(V型8気筒)モデルといえば、年代順に308、328、348、F355、360モデナ、F430とその系譜が続いている。これらのモデルのうち、筆者は348のエンジンを自分の手で下ろした経験がある。そしてそのボディ構造には衝撃を受けた。残念ながら悪い意味で。348のボディは前半分が普通のモノコック、後ろ半分がチューブラーフレームとなっている。それ自体かなり特殊な構造だが、驚くべきはその接合部の構造だ。

「あのクルマのボディは歪まないですか?」

(写真はイメージ)

モノコックとチューブラーフレームは溶接ではなくボルト(それもかなり細い)で固定されただけ。エンジンを下ろすときはこの接合部を切り離し、クルマの後ろ半分を下に下ろす。エンジンにトランスミッションからフレーム、リアサスペンションまで全部くっついているから、見た目の迫力はものすごい。ついでに重量もものすごく、下ろしたリアセクションが整備工場内でやたら場所を取ることにも閉口した。

逆に開いた口がふさがらなかったのが、外した接合部を改めて見たとき。何の工夫もない平らな面を合わせてボルトで固定するだけ。これで必要な強度が出せるのか疑問だった。

後日、フェラーリでレースに出場している人に会う機会があったので、率直に聞いてみた。「あのクルマのボディは歪まないですか?」と。返事は明瞭。「歪むよ。コーナリング中、クルマの前半分はコーナー出口のほうを向くけど、後ろ半分は客席に飛び込もうとする。つまりコーナリング中の348は、ボディが"く"の字型に曲がってる」とのことだった。

必要な強度など出ていなかった。実際、348のハンドリング面での評価は当時から芳しいものではなかったように思う。前後2分割のボディ構造はF355にも受け継がれたが、かなり改良されたようだ。そして360モデナでは完全にボディが刷新され、(やっと)普通のモノコックボディになった。

360モデナはいろいろな意味でフェラーリの新時代を感じさせるモデルだった。「これぞフェラーリ」というべき流麗なスタイリングはもちろん、エンジン、ハンドリング、内装、どれも一皮むけている。しかしそこはやはりフェラーリ。ある人がフェラーリの工場を見学した際、360モデナのエンジンルームが、その構造上の問題から雨の日にインテークに雨水が侵入しやすいことを指摘した。すると、フェラーリの広報担当者は非常に驚いた表情を浮かべ、こう言ったという。「あなたは雨の日にこの車を運転するのか!」

エンジニアも信頼性を認めるまでに「進化」したが…

しかし、その後もフェラーリの進化は続いた。それを実感したのが、F430がデビューしてしばらくした頃、フェラーリではなくポルシェの取材でレース業界のエンジニアに話を聞いたときだ。ポルシェのどこがすごいか問うと、「たとえば、世界中のあらゆるスポーツカーを、いっせいに、全開で、壊れるまで走らせたら、一番長く最後まで走っているのは間違いなくポルシェ」。なるほど、説得力のある言い方だ。

ここでちょっと気になって聞いてみた。「ちなみに2番目は?」。するとエンジニアはしばらく考えた後、「いまなら、フェラーリ、かな」。

この話の流れで、「フェラーリ」という言葉が出たのは本当に驚いた。フェラーリが最も不得意と思われていた信頼性の面で、国産勢やベンツより上だというのだ。これでフェラーリをフェラーリたらしめている魅力も顕在だとすれば(いや、実際顕在なのだが)、フェラーリはとてつもない境地に達した稀有なスポーツカーになったと言える。