連載コラム「人に聞けない相続の話」では、相続診断協会代表理事の小川実氏が、その豊富な実務経験をもとに、具体的な事例を挙げながら、相続の実際について考えていきます。


【ケース4】

長男 : 「父さんが亡くなった後、弟や妹たちと遺産相続で揉めたくないし、相続税が払えなくても困るから、父さんの財産をわかるようにしておいていただけますか?」

父 : 「縁起でもない事言うんじゃないよ。俺はまだまだ死なないし、財産を狙っているのか?」

「自分の父親にどうやって、相続の準備をさせたら良いか? 相続の話をすると不機嫌になって怒り出すんですよ」


【診断結果】この様な相談を良く受けます。前回のコラムに書いた相続が揉める原因「財産を平等に分けられない」に次いで、相続が揉める2番目の原因は、「家督相続」と「平等相続」のギャップだと思います。

明治31年の民法相続編は、江戸時代の武家相続を範型として、「家督相続」を規定していました。

「家督相続」は「戸主」の交替と観念されましたが、現実には戸主に属する一切の財産の承継を意味していました。

家督相続の相続順位は第5順位まで規定され、第1順位の家督相続人としては、被相続人の家族たる直系卑属があげられ、この直系卑属のうちでは、親等の遠い者より近い者を、女子より男子を、非嫡出子より嫡出子を、年少者より年長者を優先することになっていました。

これは、多くの場合、「長男の単独相続」を意味しました。

明治民法の「長男単独相続」は、社会的基盤として「家」制度の維持・存続をはかるものであったと言われています。

新憲法において「家督相続制度」は終焉

昭和22年5月3日に施行された新憲法において、「個人の尊厳と両性の本質的平等」が尊重され、武家時代から続いた「家督相続制度」は終焉を迎えました。

昭和23年1月1日施行された新民法においては、配偶者は常に相続人となり、第1順位直系卑属、第2順位直系尊属、第3順位兄弟姉妹とされました。

そして、同一順位の相続人が数人いる場合には、その相続分は相等しいものとされました。

昭和22年以前の相続においては、単独で全財産を承継した「家督相続人」か、ほとんど財産をもらえなかった「その他の人」という事になります。

新民法が施行された昭和23年生まれの方は、今年67歳になりますので、80歳を超える方は、旧民法相続の経験の可能性がある方と言えます。

昭和10年前後の生まれで「家督相続世代」と「平等相続世代」との境界

また今年80歳を迎える昭和10年生まれの方は、民法が改正された昭和23年までに小学校教育(尋常小学校又は国民学校初等科)を終えていますので、昭和10年前後の生まれで「家督相続世代」と「平等相続世代」との境界があります。

私の父は平成10年に亡くなっていますが、昭和3年生まれの「家督相続世代」の大変厳しくも優しい父でした。

母はいつも父を立て、家では絶対的な権限を持つ「家督相続制度」における「戸主」そのものでした。

「戸主」である父の考えが、我が家の判断基準で、他の家族の多種多様な意見は採用されない場合が多かったですが、それでもあまり不満は無かった気がします。

それは、「戸主」である父が、絶対的な権限を持っていましたが、家族に対する責任と深い愛情をしっかり持っていたからだと思います。

一方、昭和23年「個人の尊厳と両性の本質的平等」を尊重する新民法が施行されてから、絶対的権限を持つ「戸主」はいなくなり、すべての家族を平等に尊重する「平等家族制度」となりました。

「民法第900条第4項 子、直系尊属又は兄弟姉妹が数人あるときは、各自の相続分は、相等しいものとする。」

とされ、兄弟姉妹は平等に親の財産を相続する権利が与えられました。

「介護が必要になった親と同居をして親身に世話をした子供」も「たまにしか実家に帰って来なかった子供」も平等に財産を相続する権利があります。

親の面倒を看た貢献を「寄与分」として、財産を多く取得できる制度もありますが、金額的にはそれほど多く評価されません。

寄与分や配偶者の財産形成を相続時にもっと配慮するなどの民法改正が検討

先日、寄与分や配偶者の財産形成を相続時にもっと配慮するなどの民法改正を検討している事が法務大臣より発表されたところです。

現在、相続対策が必要な80歳以上の方は、「家督相続世代」で、家を継ぐ「戸主」がすべての財産を取得する事が「家」を守る事であり、財産を分割することは「家」を弱くする事であり、悪い事であると教育を受けた世代です。

幼いころから、「戸主」がすべての財産を引き継ぐ事が「善」で、分割をすることは「悪」であると教えられ育っているので、自分の相続においても「分割」を前提に準備をしようとはなかなかなりません。

「家督相続」と「平等相続」のギャップが、"争族"の2つ目の大きな原因

冒頭の相続の話をすると不機嫌になるお父さんは、このような心情だと思います。

一方、財産を引き継ぐ60歳より若い方は「平等相続世代」です。

平等にもらうのが当然であり、「家督相続は古き悪しき風習」と考える世代です。

ここに、生前に相続の準備をしない「家督相続世代」の親が亡くなり、「平等相続世代」の子供が平等の権利を主張し、遺産を巡って争いになるという構図があります。

「家督相続」と「平等相続」のギャップが、"争族"の2つ目の大きな原因です。

「家督相続世代」は、「会社」や「家」を守るため、財産を分割しすぎない為の「遺志を残す」。

「平等相続世代」は、自分たちの権利のみを主張せず、「果たす責任に見合った権利を主張する」。

これらにより、「家督相続」と「平等相続」のギャップが埋まり、無用な"争族"を減らすことが出来ます。

(参照:『基本法コンメンタール相続』(日本評論社))

(※写真画像は本文とは関係ありません)

執筆者プロフィール : 小川 実

一般社団法人相続診断協会代表理事。成城大学経済学部経営学科卒業後、河合康夫税理士事務所勤務、インベストメント・バンク勤務を経て、平成10年3月税理士登録、個人事務所開業。平成14年4月税理士法人HOP設立、平成19年4月成城大学非常勤講師。平成23年12月から現職。日本から"争族"を減らし、笑顔相続を増やす為相続診断士を通じて一般の方への問題啓発を促している。相続診断協会ホームページのURLは以下の通りとなっている。

http://souzokushindan.com/