この記事では、スマートフォンや音楽プレーヤーに付属するイヤホンからの買い換え対象になりやすい価格帯の製品について、使い勝手や音質などをチェックしていいる。前回に続き、オーディオテクニカのモニターヘッドホン「ATH-IM50」を取り上げているが、今回は、そのサウンドについて、どのような傾向なのか紹介していきたい。

「ATH-IM50」

まず断っておくが、現在の筆者の環境では、ヘッドホンのサウンドの定量的な測定を行うことはできない。何本かの手持ちのヘッドホンと、そのサウンドの傾向を比較するという形になってしまうことをご了承願いたい。

比較対象だが、1本目は同じオーディオテクニカの「ATH-CK6」だ。かなり前のモデルだが、特徴的なサウンドなので、比較対象に入れてみた。ATH-CK6のサウンドは低域重視タイプだ。ただし、少し前のモデルであり、最近の低域を重視したインナーイヤーヘッドホンのような低域のキレのよさは感じられない。単純に、低域の量が多いという感じになっている。中高域はオーディオテクニカらしいエネルギーの感じられるサウンドで、その結果、パワフルなドンシャリになっている。もう1本は、ソニーの「XBA-H1」だ。ダイナミック型ドライバーとBA(バランスド・アーマチュア)型ドライバーのハイブリッド機で、価格帯は離れてしまうがフラットなサウンドが楽しめるモデルなので、これも比較対象に入れてみたい。

3本のイヤホンで各周波数での音のバランスをチェック

まずは、全体的な音のバランスだ。各周波数のテストトーンを再生し、ほかの2本のヘッドホンと聞こえ方を比較してみた。1本を聞いて、次に別の1本となると、その間に前の音を忘れてしまうことがある。というわけで、ヘッドホン出力を2系統持ったヘッドホンアンプを使用し、2本のヘッドホンの左右チャンネルを同時に聞くという方法を採っている。2本のヘッドホンは効率もインピーダンスも異なるので、1kHzのときに左右のレベルが同じになるようにバランス調整を行い、その後、それ以外の周波数のテストトーンを聞き比べている。

ヘッドホン出力を2系統持つヘッドホンアンプで同時に試聴

1kHzのときに2本のレベルが同じになるようにバランス調整

ATH-CK6とATH-IM50を比較してみると、250Hzまでの低域では、CK6が大幅に強く感じられる。500HzではCK6がやや強く、1kHzではここでレベルを揃えているので当然だが同じ程度。2kHzでも同レベルか、ややATH-IM50のほうが強く感じられる。4kHzでは再びATH-CK6が少し強く感じられ、10kHzまではこの傾向が続き、12kHz以上になると、ATH-IM50側が少し強く感じられた。次に、20Hzから20kHzまでスイープする信号を再生してみると、低域ではATH-CK6、中域ではATH-IM50、高域ではATH-CK6、超高域ではATH-IM50側が強く感じられる。

続いて、XBA-H1とATH-CK6を比較してみた。31.5Hz~250Hzまでと8kHz以上ではXBA-H1のほうが強く感じられる。500Hz、1kHz、2kHz、4kHzではほぼ同レベルだ。ただし、2本の差は、ATH-CK6とATH-IM50の差ほどは大きくはない。

最後に、ATH-CK6とXBA-H1とを比べてみた。すると、31.5Hzと63HzではXBA-H1のほうが強く感じられ、250Hzと500HzではATH-CK6が強く感じられた。1kHzと2kHzはほぼ同レベルで、4kHzでは再びATH-CK6が少し強く感じられる。10kHzまではこの傾向が続き、12kHz以上になると、XBA-H1側が少し強く感じられた。

これらのことから、この3本のうちATH-CK6は、低域と高域に盛り上がりのあるサウンドバランスだということは分かる。ATH-IM50に比べると、XBA-H1も低域と高域に盛り上がりがあるように感じられるが、これはATH-IM50の中域に盛り上がりがあるためなのか、判断は難しい。

ボーカル中心のソースでは、ATH-IM50のリアルさが際立つ

続いて音楽を再生してみる。同じ音楽を再生していても、この3本では、まったく異なった印象を受ける。解像度や音の広がりはXBA-H1が、この3本でもっとも強く感じられる。帯域に関しては、どれも狭くはない。ただし、ATH-CK6はドンとした中低域の印象が強く、中低域よりのサウンドだ。

ATH-IM50は全体的には引き締まったモニター的なサウンドなのだが、その中でも中域の表現力の高さが非常に印象に残る。中域は、レベルの高さだけでなく情報量も多く感じられ、非常にリアルに聞こえる。特にボーカルの生っぽさは抜群で、これは、今回比較したほかの2本にはなかった音だ。

「ATH-IM50」は、リアルなボーカル表現が特徴的

スマートフォンやポータブル音楽プレーヤーに付属してくるイヤホンからのリプレースということを考えると、それまでのイヤホンとは違った傾向のものをチョイスしたほうが、満足度は高いだろう。ATH-IM50は、手ごろな価格ながらも、そういった意味での感動を味わえる1本だ。

次回に続く