スピーカーから発生した音は、ユーザーのいる方向だけでなく、周囲のあらゆる方向に向かう。壁や床、天井、家具などにぶつかった音は、そこで反射する。反射した音もスピーカーから発生した音と同じように、周囲に広がっていく。これは、音のエネルギーが減衰するまで繰り返される。

絵心がなくて申しわけないが、音は直接届くだけでなく、何回か反射して届く

残響は少ないほうが良い?

オーディオ関係で、リスニングルームを作るときに、壁や天井に吸音材を取り付けたりしているのを見たことはないだろうか。これは、吸音材に当たった音がそこで減衰し、反射する音のエネルギーを減らすためだ。部屋での反射が少なければ少ないほど、そのスピーカー本来の音に近いサウンドを引き出すことができる。もっともこれは、ごく一般的なスピーカーの話であって、反射音を意識的に利用する一部のバーチャルサラウンドシステムなどはその限りではない。

ただ、残響が少ないほうが良いというのは、あくまでも一般的なレベルでの話だ。オーディオ機器の測定のために使用される無響室は、この反射を極端に減らした部屋だ。こういった環境では、スピーカーから音を鳴らすと、ユーザーの耳に聞こえるのは直接音だけで、残響音はほぼゼロになる。こういった環境での音の聞こえ方は、普段我々が耳にしているものとは、かなり異なる。

我々のような一般ユーザーにとって、無響室そのものを体験するのは少々大変なのだが、これに近い環境は比較的簡単に体験することができる。最近のPCでは、オンボードでサウンド機能が搭載されていることが多い。これらのサウンド機能では、こういった無響室や、逆に残響の極端に大きい環境をシミュレートする機能が搭載されているのが一般的だ。もともとは、ゲームサウンド向けに開発された機能なのだが、実際に体験することが困難な環境の再現という意味で、興味深いものだ。

REALTEKのサウンドチップ用「サウンドマネージャー」画面

筆者のPCは、FOXCONNの激安マザーボードを使用したものだ。そこには、蟹のマークで有名なREALTEKのサウンドサウンドチップが搭載されている。低価格マザーボードのオンボード音源としては一般的なものだ。読者の皆さんも、REALTEKのチップが積まれているPCを使用されている人は多いのではないだろうか。上の画面は、REALTEKのオーディオマネージャーを起動したときのものだ。「環境」のプルダウンリストボックスを開くと、そこからさまざまな環境を選択することができる。この中の「防音室」を選ぶと、無響室に近いサウンドが体験できるわけだ。

「防音室」を選択

「防音室」を選んで、普段聞いている音楽を聴いてみて欲しい。スピーカーよりも、ヘッドホンで聴いたときのほうが、その部屋の環境の影響を受けないため、効果がはっきりと感じられるはずだ。直接音だけで残響をバッサリと削ぎ落としたサウンドは、サウンド的には正しいのかもしれないが、実際に聴くとなると物足りなさも感じる。逆に、残響の多い環境エフェクト、「石の回廊」あたりを利用してみると、これはこれで音楽再生にはまったく向いていないことがわかる。

残響の多い「石の回廊」は、やはり音楽再生には向かない

部屋の環境が音へ与える影響は大きい

上の例は極端なのだが、残響の多い部屋を"ライブな部屋"、残響の少ない部屋を"デッドな部屋"と呼ぶ。この記事はBluetoothスピーカーの置き方についての話なので、そこまでこだわったリスニング環境について追求する意味はないのだが、一般的な傾向としてオーディオ的には、"デッド"寄りのほうが好ましい。

環境で「部屋」を選ぶと、一般的な部屋でスピーカーを鳴らしたときの残響に近い特性がシミュレートされる。これは「防音室」に比べると残響は感じられるが、聞き苦しいほどではない。しかし、もう少し"デッド"なほうが、リスニング環境としては向いていると思われる。

読者の皆さんの中には、REALTEKのサウンドチップを積んでいない、という人も居ることだろう。しかし、例えばクリエイティブメディアのSoundBlaster系のサウンドカードなどでも、同様のサウンドエフェクトを利用できる。というよりもこちらのほうが元祖だ。

以上はPC上でのシミュレーションの話だが、実際の部屋でも、コンクリート打ちっ放しのデザイナーズマンションなどでは、かなり"ライブ"な環境になってしまう。そうでなくても、フローリングの部屋などではやはり"ライブ"な感じになる。しかし、部屋の環境は部屋の構造だけではなく、家具の有無によっても大きく変わる。家具の全くない部屋では残響が大きくなる一方、多くの家具が配置された部屋では、残響は少なくなる傾向がある。ガランとした生活感の少ない部屋は、"ライブ"な傾向になりがちだ。"ライブ"な部屋では、床にラグを敷くだけでもずいぶんと変わる。また、部屋の角部分にクッションを置いておくというのも一つの方法だ。

フローリングの床に直置きでは、スピーカー本来の性能は出しにくい

さて、部屋がサウンドに与える影響は大きいのだが、スピーカーを設置する設置面もやはりサウンドに大きな影響を与える。設置面がフローリングの床やコンクリートだったりすると、そこで音が反射する。これは、Bluetoothスピーカーのユーザーでも何とかできる範囲の話だ。というわけで次回は、実際にスピーカーを設置する設置面の話に移りたい。

次回に続く