スマートフォンなどと手軽に接続することができるBluetoothスピーカーは、2012年に大きく普及した製品ジャンルの一つだ。Bluetoothスピーカーは、使用時の手軽さだけでなく、再生機器とケーブルで接続されないため、設置の自由度が高いという特徴も持ち合わせている。

ただし、「設置場所を選ばない=どこに置いても構わない」ということではないという認識は、あまり浸透していないように思われる。置き方や置く場所が違えば、出てくる音も当然変わってくる。

もちろん、現状のBluetoothスピーカーは、徹底的に音質を追求して行くようなピュアオーディオ製品ではない。しかし、ちょっとした工夫で、そのサウンドをより引き立たせることは可能だ。そして、レイアウトフリーというBluetoothスピーカーのメリットは、こういったカットアンドトライにも非常に向いている特性だといえる。

Bluetoothスピーカーといっても、大きいものは薄型テレビ向けのバースピーカーのようなものから、小さいものでは手のひらに収まるものまでさまざまだ。また、構成も、2.1chからモノラルまであり、これらを全て同一に考えることはできない。ここでは、一般的(だと思われる)なワンボックスタイプのキャビネットにステレオスピーカーが搭載されたタイプの製品を想定している。

クリエイティブメディアのBluetoothスピーカー「D80」

写真の製品は、本コラムでも度々登場している、クリエイティブメディアの「Creative D80」だ。フルレンジユニットを2本使用したワンボックスタイプの製品で、キャビネットはリアバスレフ式だ。同社のBluetoothスピーカーのなかでもエントリークラスのモデルで、とくに凝った機構は採用されていない。

理想的なリスニングポイントは

ステレオスピーカーの場合、左右のユニット間の距離を一辺とした正三角形の頂点が、理想的なリスニングポイントだとされている。しかし、多くのワンボックスタイプのBluetoothスピーカーと同様に、D80の左右のスピーカーの間隔は狭い。実測値ではユニットのセンター間の距離はおよそ22cmだ。つまり、スピーカーから20cm弱程度の距離で聴くのが、正しい位置ということになる。これは、非現実的だ。

左右のスピーカーの間隔をユニットの中心から測ると、約22cmだった

距離が離れるとどうなるか。

人間の脳は、左右のスピーカーから発した個々の音が耳に音が届くまでの時間差や音量の差で、立体感を認識することができるのだが、スピーカーが離れた場所にあればあるほど、左右のスピーカーのリスナーからの角度に差がなくなってくる。そのため、立体感が感じられにくくなる。

実際に試してみると、D80の場合、50cmくらいまでは立体感を明確に感じられるが、1mぐらいからはだんだん立体感がなくなり、1.5mを超えるとほとんど認識できなくなる。

もっとも、Bluetoothスピーカーの場合、常にスピーカーに正対して音楽を聴くわけではない。名にらかの作業をしているときに、BGM再生用として使用するといったケースも多いだろう。そういった場合、立体感にはそれほどこだわる必要はないのかもしれない。

一方、あまり現実的ではないのだが、距離が近すぎた場合にはどうなるだろうか。スピーカーには、指向性がある。低域では指向性は弱く、高域になればなるほど強くなる。スピーカーからの角度が大きくなりすぎると、高域が減衰して聞こえてしまうことがある。もっとも、今回使用しているD80は指向性があまり強くはないため、これが問題になるケースは少ない。

距離が近くなっても音質に大きな変化がないということは、スピーカーからの角度が変わっても、あまり大きな変化がないということになる。

縦方向の指向性

さて、指向性は、左右だけでなくて上下に対しても存在している。同社のスピーカーでは、かつて上下の指向性がややシビアな製品が存在していた。D80はそこまで極端ではないながらも、やはり上下方向の指向性は存在する。バッフル面から上下に45度程度離れた角度で聴くと、正面から聴いていたときに比べて中高域が減衰しているのが感じられる。

シングルユニットのスピーカーシステムでは、スピーカーユニットをリスナーの耳の位置に揃えるとよいとされている。また、2Wayシステムではツイーター、3Wayシステムではミッドレンジあるいはスコーカーが耳の位置に来るように設置する。

ただし、これはバッフル面が垂直の場合だ。ハイエンドなスピーカーシステムでは、各スピーカーユニットからリスナーまでの距離や方向が等しくなるようにバッフル板を曲面にしたり、特殊なスタンドによってスピーカーを傾け、各スピーカーからリスナーからの距離を等しくできるようにしたモデルも存在する。Bluetoothスピーカーに、そこまでの工夫をした製品は存在しないが、バッフル板が斜め上を向いているケースは少なくない。D80もそのタイプだ。これは、耳よりも下にスピーカーを設置した際に、スピーカーがリスナーの方に向かうための構造で、コンパクトスピーカーにはよく見られる。D80ではバッフル面が約10度傾いている。

バッフル板は約10度上に傾いている。コンパクトスピーカーではよく見られるスタイルだ

天井近くに設置したり床に直置きしたりして、バッフル板の延長線上からあまり外れると、音域が狭く感じられることがあるかもしれない、もっとも床に直置きした場合には、指向性の問題よりも、床面からの反射のほうが大きな問題になる。これについては、次回以降で話を進めるつもりだ。

ここまでは比較的指向性の少ない、D80というスピーカーを例に上げて話を進めてきたが、読者の方が使用しているBluetoothスピーカーが指向性の強いものだった場合、設置の際には、より左右の向きと高さについて配慮する必要があるだろう。

次回は、スピーカーが設置される環境について、さらに話を進めていきたい。

次回に続く