「インターネットラジオ」という言葉を聞いたことはあるという人は多いようだが、日常的に利用しているという人はどのくらいいるのだろうか。今回から数回、インターネットラジオという単語自体は耳にしたことがあるが……という人向けに、その世界の一部を紹介していこうと思う。

インターネットラジオは、使っている人は非常に詳しいが、そうでない人は興味すら持っていないという傾向が強いサービスだ(大抵のものがそうかもしれないが……)。いわゆる情報の偏りが激しい分野だといえるだろう。今回から数回の記事では、既にインターネットラジオを使用している人向けではなく、全く使ったことのない人に「こういった世界もあるんだ」と感じてもらえる内容にしていこうと思う。そういう人は、興味すらないような気もするので、先行き不安ではある。

まず、インターネットラジオについて語る前に、そもそものラジオについて、ある程度のことを書いておかなければならないだろう。言うまでもなく、ラジオ放送を受信するには、受信のためのラジオとアンテナが必要だ。中でもアンテナは、良好な受信環境を構築するには重要なポイントとなる。

一般的な中波ラジオでは、放送を受信するのに本体内蔵のバーアンテナを使用している。バーアンテナは、フェライトコアに細い被覆電線を巻き付けたもので、バーの垂直方向への指向性と、サイズの割に高い"利得"(入力と出力の比、「ゲイン」ともいう)を特徴としている。普通に近隣の中波ラジオ放送を受信するにはこれで十分なのだが、残念ながら最近の家屋内での電波環境は、控えめに言っても最悪だ。特に、集合住宅の多くでは、鉄筋コンクリートが使用されているため、完全ではないがシールド効果があり、外からの電波が減衰することになる。また、家庭内に雑音発生源が多数存在することも大きな問題だ。

バーアンテナの例

これらの原因により、都市部を中心として、外に出れば放送を受信できる地域であるにもかかわらず、昼間の室内ではほとんど放送を受信できない、あるいは強力な1~2局しか受信できないというケースが多く生じている。筆者は以前、ソニーのラジオレコーダー「ICZ-R50」のレビューを行った。大きめのバーアンテナを内蔵するなど、なかなか高性能な製品なのだが、それでも、室内では上記のような状態で、普及タイプのラジオとあまり変わりがない状況だった。電波の届かないところでは、何をやっても受信できないものだ。

以前レビューを行った、ソニーの「ICZ-R50」

では、屋外に立てた外部アンテナでもつなげば?……という話になるのだが、中波用のアンテナは、かなりかさ張る。中波放送に使われている電波は、波長でいうと565m~187mで、もちろんそんなサイズのダイポールを張るわけには行かないので(ダイポールだと1/2長だが)、一般的には、ループアンテナが使われる。

ループアンテナは、ループ面の垂直方向に強い指向性を持つため、混信にもある程度効果がある。しかし、普通は一から自分で作らなくてはならないため、めんどうだ。ちなみに、既製品としては、受注生産だが、ミズホ通信の製品が存在している。

現在主流となっているポータブルラジオの多くは、外部アンテナ端子を持っていないが(前述したICZ-R50は、付属のループアンテナ用のアンテナ端子を装備している)、アンテナ端子を持っていなくても、下の写真のようにすれば、外部アンテナを接続することは可能だ。

写真はラジオにアンテナコードを巻き付けたところ。これでも受信できる

ループアンテナ以外の手軽な方法としては、電灯線アンテナというものも存在する。家庭に電気を送っている電線をアンテナとして使用するという方法だ。一般的には、コンセントプラグの片方だけを使用して、そこにコードを接続。コードとプラグの端子との間に100pF程度のセラミックコンデンサを入れておく。セラミックコンデンサは安全のために入れておくもので、耐圧は、人によって意見が違うが(200V以上という人もいれば1kV以上という人もいる)、筆者は500Vのものを使用している。これで、今のところ特に問題は出ていない(ただし、もしこれを用いる場合は自己責任で)。

電灯線アンテナ

耐圧500Vで容量100pFのセラミックコンデンサ

ただし、電灯線アンテナは、自分が受信したい目的の電波だけでなく、空中を飛び回っているありとあらゆる電磁波を拾ってくる。屋内に雑音源がある場合や、電波が弱くて受信できない場合には効果があるが、他の放送局からの電波が強くて目的の放送局が受信できないという場合は効果的ではない。

以上は中波放送の話だが、FM放送もかなり厳しい状態だ。FMラジオには、一般的にはロッドアンテナが使用されている。それよりも簡易なものでは、イヤホンのコードをアンテナ線として使用するもの、被覆電線がアンテナとして本体より出ているものなどがある。こういったアンテナを使用した場合の室内での受信状況の悪さは、雑音源に対する強さを除けば、基本的に中波と同様だ。

2素子のFMアンテナの例。写真は八木アンテナ製の「F-P2B-B」。ベランダや手すりなどにも取り付けることができる

さらに、FMにはFM特有の問題が存在している。それがテレビ地上波のデジタル化だ。これまで、FM放送を受信するのに、同じVHFの電波を使用するテレビ用のアンテナに接続するという方法がよく使われてきた。もちろん、FMの放送局がテレビの放送局と同じ方向にある必要がある。さらに、テレビアンテナは、FM専用のアンテナに比べると効率は落ちるが、それでも強電界地域ならば問題なく受信できる。しかし、テレビがデジタル化でUHFに移行してしまったため、新築の物件でVHFアンテナが取り付けられる例は少なくなっている。ベランダや窓の手すりに2素子ぐらいのアンテナでも取り付けようかという感じだ。いずれにせよ、外部アンテナが必須のオーディオ用FMチューナーは、存亡の危機だといえるだろう。

このような感じで、現在のラジオの受信環境は、かなり悪い。そこで、こういう電波の状況に左右されずにラジオを聞くことができる手段としても注目(?)されているのが、インターネットラジオだ。国内でメジャーなインターネットラジオサービスである「radiko.jp」も、その目的として、都市部を中心にした受信環境悪化の解消をあげている。

--次回に続く--