今回は、デジタルオーディオプレーヤーで使用する、音楽ファイルのフォーマットを聴き比べる方法についての話です(聴き比べた結果についての話ではないのです)。

皆さんは、普段、デジタルオーディオプレーヤーで、どのようなフォーマットの音楽ファイルを使用しているでしょうか。音楽配信サービスから入手したファイルのように、もともと非可逆圧縮されているものの場合、そこから再エンコードするメリットは、あまりないので、そのままという人が多いでしょう。一方、音楽CDなどから取り込む場合には、自分でフォーマットを選ぶということになります(もちろん、リッピング/エンコードツールの既定値のまま、といった選択肢も当然あるわけですが)。

圧縮音楽ファイルでは、ビットレートによって、音質が大きく変化するといわれています。また、圧縮の方式によって、音質の違いがかなりあるという意見もよく耳にします。いずれにせよ、なるべく少ない容量で、かつ、高音質でというのが、デジタルオーディオプレーヤーなどに入れておく音楽ファイルとしては望ましいところでしょう。しかし、なるべく小さい容量で、という部分に関しては、最近は、以前よりも条件が緩くなって来てはいます。少し前までは、4GBもあれば大容量といわれていたデジタルオーディオプレーヤーも、現在では、低価格なものでも8GB程度、普通は、16~32GBといったメモリーを搭載しています。そうなってくると、リニアPCMファイルや可逆圧縮ファイルなどを日常的に利用するということも、決して非現実的ではありません(もちろん、プレーヤー側が対応している必要がありますが)。というわけで、以前に比べて、高ビットレートのファイルを持ち歩く人が多くなってきているのではと思うのですがどうでしょうか。筆者の場合、以前は、128kbpsのMP3形式を利用していたのですが、容量に余裕ができた最近では、ビットレートを192kbpsに上げています。しかし、とくに聴き比べて192kbpsにしているというわけではなく、なんとなくそうしているだけでしかありません。ここは、実際に聴き比べてみようと思うのですが、果たして、ビットレートの低い音楽ファイルと、高い音楽ファイル、そして圧縮の方式の違うファイルを聴き比べた場合、どのくらい違いが認識できるものなのでしょうか。ただ、大掛かりなことは、できるだけ避けたいところで、なるべく、誰にでも試せる方法で比較してみたいと思います。

簡単に思いつく方法は、普通に、ビットレートや圧縮方法の違うファイルを作成して、それをプレーヤーで聴き比べるというものです。CDからリッピングしたリニアPCMファイルと、そこからエンコードしたファイルを用意し(エンコードしたファイルは方式やビットレートごとに、いくつか作っておくとよいでしょう)、作成したファイルを(プレーヤーが対応していれば、リニアPCMファイルも)プレーヤーに転送して、聴き比べます。ところが、これを実際にやってみたところ、ビットレートが高いほうが、よいといえばよいのですが、それほど決定的な差があるようには聞こえません。この原因となっているのは、おそらく、1本目を聴いてから、2本目を聴くという、その手順にあるのではないでしょうか。1本目を聴いてから、2本目を聴くまでには、いくらか時間が空きます。人間の記憶力は、それほど信用できるものではありません。とくに、音質などというように感覚や印象といった要素が強い分野に関しては、相当に当てにはなりません(なかには、とてつもない記憶力の持ち主もいるのかもしれませんが、少なくとも、筆者のそれは、まったく当てになりません)。これを解決するには、同時に聴いてしまえばよいわけです。

もっと手軽な方法もきっとあるのでしょうが、今回は、元のリニアPCMファイルと、非可逆圧縮されたファイルを再びリニアPCMにコンバートしたものの、同じチャンネル(両方とも左チャンネルといった具合に)を、1つのファイルの左右チャンネルに割り当てて、それを聴いてみることにします。圧縮ファイルからリニアPCMへのコンバートは、いろいろとツールがあるので、問題ないでしょう。左右チャンネルへの割り当てには、DULL氏の公開している「DARU/CHANNEL-MASTER!」というソフトウェアを使用しました。マルチチャンネルを含むリニアPCMファイルの、チャンネル単位での分割/結合といった処理を簡単な操作で実行できる、非常に便利なソフトウェアです。

まず、リニアPCMにコンバートされた、ビットレートごとの(元)非可逆圧縮音楽ファイルを、左右のチャンネルごとのモノラルのファイルに分割します。手順は、DARU/CHANNEL-MASTER!を起動して「分割」タブを選び、「開く」ボタンを押してファイルを選択するか、ドラッグアンドドロップします。ここで「分割」ボタンを押すと、入力したファイルと同じフォルダに、「[元のファイル名]01.wav」、「[元のファイル名]02.wav」という2つのファイルが作成されるはずです(これは、元のファイルがステレオの場合。5,1chといったファイルの場合には、チャンネル数分のファイルに分割される)。

ここでは、いったん192kbpsのMP3形式にエンコードしたファイルをリニアPCM形式にコンバートした「test192.wav」を、左右のチャンネルごとのファイルに分割している

このようにして作ったファイルを、今度は、1つのファイルに結合します。「結合」タブを選び、比較したいファイルの同じチャンネルどうしを、「FL」「FR」のそれぞれに指定します。これで「結合」ボタンを押すと、標準では、「out.wav」というファイル名で、結合されたファイルが出力されます。また、「変更」ボタンを押すと、ファイル名や場所を変更することが可能です。

左チャンネルに、元は192kbpsのMP3形式だったファイルを、右チャンネルには元は320kbpsのMP3形式だったファイルの、同じ方のチャンネルを割り当てている

こちらは、同じビットレートのMP3形式のファイルとWMA形式のファイルを割り当てている

このようにして作ったファイルを再生すると、例えば、左チャンネルは元のCDの音質で、右チャンネルは、いったんMP3の96kbpsにエンコードした音質で、といったサウンドを聴くことができます。もちろん、これは、プレーヤーが、リニアPCMファイルか、または可逆圧縮方式をサポートしている場合の話で、そうでない場合、PCで聴くことになりますが、それでもある程度の目安にはなるでしょう。

上で作成した、同じビットレートのMP3ファイルとWMAファイルを結合したものを、WindowsMediaPlayerで再生