現在、デジタルオーディオプレーヤーは、低価格なエントリーモデルと、機能を詰め込んだ、ハイグレードモデルに2極化しています。ZEN X-Fiシリーズは、高音質化技術の採用や、多くの動画再生フォーマットのサポートなどを特徴とする、後者に分類されるモデルです。

低価格な高機能プレーヤーZEN X-Fi Style

ZEN X-Fi Styleは、ZEN X-Fi2の機能をコンパクトなサイズに凝縮し、さらに低価格化を計った製品。高機能プレーヤーであるZEN X-Fiシリーズのなかでは、異色のモデルということになります。とくに価格については、32GBのメモリーを搭載したモデルで1万5,800円、8GBモデルに至っては8,800円という、エントリーモデルに若干プラスした程度の価格がつけられています。また、高機能タイプのプレーヤーの多くが、おもに動画再生の際の表示能力を高めるために、大型化(大画面化)しているのに対して、ZEN X-Fi Styleは、83.6mm(W)×48.7mm(H)×11.7mm(D)というコンパクトなサイズ。数字的には、初代のZEN X-Fiよりも、わずかに小さいといった程度ですが、実際に、外出時に持ち歩いてみると(初代ZEN Z-Fiのユーザーである筆者は)、ポケットの中などでのかさばり方が、かなり違うという印象を受けました。

左から、ZEN X-Fi、ZEN X-Fi2、ZEN X-Fi Style。ZEN X-Fi Styleのサイズは、ZEn X-Fiとさほど変わらないはずだが、数値で見るよりも、実際には小さく感じられる

本体の厚みも、3機種のなかで最小

ZEN X-Fi Styleに搭載されている機能は、マイク(ボイス録音)、フォト(静止画表示)、ミュージック(音楽再生)、RSS、ビデオ、FMラジオ、オーガナイザー(スケジュール管理)と、ZEN X-Fiシリーズとしてはおなじみのものです。初代ZEN X-Fiに搭載されていた無線LAN機能は、ZEN X-Fi2以降からは省略されています。無線LAN機能は、ストリーミング再生以外に、PCに保存された音楽ファイルを無線で転送できたりと、なかなか便利な機能だったのだが、どうも一般受けはしなかったようです。

再生できる音声ファイルのフォーマットは、320kbpsまでのMP3/WMA/AACと1MbpsまでのFLAC。AACは非プロテクトM4Aファイルへの対応なので、iTunesで購入した楽曲を転送して聞くことはできません。FLACは、可逆圧縮方式で、ファイルサイズは大きくなるのですが、原理的には、CDと同じ音質を実現できます(FLACに付いては後ほど)。WMAはDRM9対応。動画は、WMV、MPEG4-SP、DivX 4/5、XviDに対応しますが、例えば、MPEG-2といった、これら以外の形式でも、PC側で再生可能で、かつプロテクトがかけられていないものに関しては、プレーヤーに付属するメディア管理ソフトの「Creative Centrale」で、ZEN Styleが再生可能な形式にコンバートすることが可能です。もちろん、Creative Centraleを使わずに、自分でStyleの再生能力に合わせたファイルにコンバートしてもOKです。いずれにせよ、非プロテクトファイルの再生に関しては、ほかのメジャーなプレーヤーよりも、自由度が高いというのが、同シリーズの特徴の1つでもあります。

ボイス録音機能は、X-Fiよりも前の同社のプレーヤーが搭載していたものに比べると、マイクの感度が向上しているように思えます。ただし、ICレコーダー専用機が備えている、ノイズカット機能や、再生時に範囲指定してリピートしたり、速度を変えて再生といった機能は、搭載されていません。あくまでも、簡易的なものだと考えておいた方がよいでしょう。録音形式はZEN X-Fiシリーズ共通で、ADPCM4ビット/16kHz/モノラル。Windows環境ならば、MediaPlayerなどで普通に再生が可能です。FMラジオは、ワールドバンド対応、76MHz~108MHzの受信が可能です(FMラジオからの録音には非対応)。ただし、これは切り替え式で、FM地域設定を日本にすると、76MHz~90MHzの受信となります。RSSは、ZEN X-Fi StyleがRSSを受け取るのではなく、PC側で受け取ったRSSをZEN X-Fi Styleで読むというものです。また、スピーカーも内蔵しています。ただし、これは高音質で音楽を再生するという目的のものではありません。スピーカーのオン/オフは、メニューから設定できます。

X-Fi機能については、音声ファイルが圧縮されるときに失われた成分を補間する「X-Fi Crystalizer」と、立体感を向上させる「X-Fi Expand」の2つの効果を利用でき、この両方の効果の強さを個別に調整することが可能です。実際に、X-Fi Crystalizerをオンにすると、曲にもよるのでしょうが、音に躍動感が出るような感じとなります。ただ、あまり効果を強くかけすぎると高域がうるさくなり、不自然になります。一方のX-Fi Expandは、立体感を際だたせるというものですが、音楽用としては、ちょっと効果が微妙な感じではあります。こちらは、補正を大きくすると、高域が割れたような感じになります。X-Fi Crystalizerを1/2ぐらいでかけて、X-Fi Expandは1~2ステップというのが、筆者の場合、バランスがとれているように感じられます。

Z-Fi機能の設定。効果の強さをスライダーで指定できる

本体の操作は、最近主流となりつつあるタッチパッド式ではなく、方向キーなどのいくつかのキーでの操作という方法が採用されています。あまり小さい画面でのタッチパネルによる操作は、やはり現実的ではないのでしょう。また、操作自体は、初代のZEN X-Fiに近いものとなっているのですが、初代ZEN X-Fiのように、むやみに多くのボタンがあるというわけではないので、初めて使用する人でも面食らうことはないでしょう。

上面にあるのが電源/ロック/ロック解除ボタン。初代のX-Fiでは、背面にある電源ボタンを使った、ロック機構でしたが、Styleでは、長押しすると、電源が入り、電源が入った状態で、このボタンを押すとロック、再び押すとロック解除のメニューが表示されます。ボタンだけではロックが解除されないので、ポケットやかばんの中などで、自分の意思とは関係なく、ロックが解除されるという心配はありません。

電源ボタンは、上面に配置されている

プレーヤーのメニューはツリー構造で、上に配置された右ボタンで、階層を1段降り、左ボタンで戻るという感じで操作を行います。上下の移動には、センターにある方向キーの上下を使用します。方向キーで階層移動も行った方が分かりやすそうな気もしますが、押し間違いなどを考えると、物理的に別の場所にあるというのも、理解できる処理でしょう。初代ZEN X-Fiでは、左下のボタンを押すと、リストが1画面分スクロールするという仕様になっており、収録されている曲数が増えてくるとなかなか便利だったのですが、今回はその機能は、見当たらないようです。センターにある方向キーは、演奏中は、上下がボリューム、左右がトラック送り/戻し機能に割り当てられます。左右ボタンを押し続けることで、早送り/巻き戻しを行うことも可能です。右下のボタンは、再生/一時停止ボタン、左下は、出荷時にはヘッドホン/スピーカーの切り替えに割り当てられていますが、このボタンは、マイショートカットとなっており、自由に機能の割り当てが可能です。割り当てる機能は、「システム」→「プレーヤー設定」→「マイショートカット」で、ほかのものに変更できます。

リスト上では、上下キーで移動

「システム」→「プレーヤー設定」→「マイショートカット」を選び

マイショートカットに設定する機能を割り当てる

X-Fi Styleでは、コンパクト化、低価格化ということで、従来のX-Fi/X-Fi2から、省かれている部分も存在します。そのもっとも大きな部分が、従来のX-Fiシリーズの特徴の1つだった、拡張メモリースロットを装備していないという点でしょう。しかし、筆者は初代X-Fiの16GBモデルを、発売当初から使用していますが、正直なところ、外部メモリーを使用したことは、ほとんどありません。音楽をメインとした使い方では、本体にある程度のメモリーを積んでさえいれば、拡張メモリーはそれほど必要にならないというのが、一番の理由です。ただ、これは初代ZEN X-Fiだからだともいえる話です。ZEN X-Fi2以降では(もちろんZEN X-Fi Styleも)、利用できる音声ファイルの形式に、FLACが加えられています。FLACは、可逆圧縮形式で、MP3やWMAなどの非可逆圧縮形式よりもファイルサイズは大きくなるのですが、元の音質をそのままに、圧縮することが可能です。気になるのが、どのくらいのファイルサイズになるかという点ですが、CDからリッピングした768MBのWAVEファイルを、192kbpsのMP3ファイルにしてみたところ、サイズは76.8MB。128kbpsにした場合には、51.2MB。同じものを、FLACで圧縮率のレベル8を選んだ場合、304MBとなりました。192kbpsのMP3形式の約4倍、128kbpsのMP3形式の約6倍です。つまり、192kbpsのMP3形式でエンコードした場合の1/4程度の曲数しかプレーヤーに入らないことになります。16GBのモデルでは、192kbpsではアルバム200枚程度、FLACでは、50枚強といったところでしょう。相当、音に違いがあるので、できればFLACをメインに使用したいところですが、そうなってくると、やはりメモリースロットがないという点は、制約になるかもしれません。まぁ、最初から32GBモデルを選択しておけば、それほど気にはならないのでしょうが。ただ、動画を使う比率が高いという場合には、メモリーの容量だけでなく画面サイズも大きなZEN Z-Fi2を選択した方がよいでしょう。同社でも、動画を重視した、メディアプレーヤー的な使い方をするユーザーや、大量のFLACファイルを持ち歩きたいといったユーザーには、フラッグシップモデルのX-Fi2を、というスタンスを取っているようです。

付属するメディア管理ソフトの「Creative Centrale」では、可逆圧縮のFLACも利用可能

全体的に、ZEN X-Fi Styleは、音楽をメインとしたプレーヤーにはそれほど重要ではないと思われる要素を削り(画面のサイズや、メディアスロットの搭載など)、その分小型化、低価格化することで、音楽を中心としたプレーヤーとしての使いやすいスタイルを実現したモデルだといえるでしょう。音質面では、フラッグシップのZEN X-Fi2と変わるところはないし、他のプレーヤーからの乗り換え用のモデルとして、さらには、初めて購入するプレーヤーとしても、バランスの取れた1台として、仕上がっていると思えます(筆者がZEN X-Fiユーザーだというバイアスはある程度存在するにしても)。