ということで、12回に渡って2005年11月に行ったインタビューの内容をお届けした。いささか時期が遅い、というか3年近くも遅れた理由は一重に筆者にあり、折角の機会を設けていただいたIPFlexの佐藤氏や関係者の皆様にまずはお詫びを申し上げたい。

さて、インタビューを通して、たしかにいくらか古くなった部分があるのは事実だ。冒頭にもちょっと触れたが、既にIPFlexはDAPDNA-IMXを発表している。こちらはDAPDNA-2を画像処理などに特化させたもので、扱えるデータサイズを16bit(内部の演算は32bitが可能)に抑えた分、PEの数を大幅に増やしており、理論上並列度を高められる画像処理でより効果的に動作するようになっている。以前の同社のロードマップは、この画像処理向けプロセッサに関しては比較的守られており、2006年9月にはDAPDNA-IMSが発表されており、DAPDNA-IMXはその後継となっている。ただしプロセスはDAPDNA-IMXは当初65nmの予定であったが、90nmで製造という点だけがやや異なるあたりか。

ちなみにDAPDNA-IMSは既に販売されていない模様だ。例えばこちらを見ると、「DAPDNA-2およびDAPDNA-IMXの2種類のデバイス販売」とあり、既にDAPDNA-IMSはDAPDNA-IMXで置き換えられてしまっていると受け取れる。実際両者の仕様を比較してみると、差はDAPが1個(DAPDNA-IMS)か2個(DAPDNA-IMX)かだけしかない。またDAPDNA-IMXの評価ボードであるDAPDNA-EB6が、かつてはDAPDNA-IMSの評価ボードであったことを考えると、両者はパッケージ互換であると考えて良さそうだ。

その一方、2007年に登場を予定していたらしい新アーキテクチャのDAPDNA-3に関するアナウンスは現時点でもなく、当然これの派生型であるDAPDNA-CE/WL/AXといった製品もまだ無い。その代わり、上のプレスリリースにもあるように今年7月から同社はDRP-ASIC事業に乗り出した。端的に言えば、従来はディスクリート品としてDAPDNAを提供してきたが、ASICなど向けにIPの販売を開始するというものだ。DNAというアーキテクチャを広めるという意味では悪くない選択肢だとは思うが、インタビューのその5とかその6あたりの話を聞いていると、これがSoft coreで提供できるとは到底思えない(か、Soft coreにすると著しく性能が落ちる)ので、現実問題としてはHard coreでの提供になると思われる。そうなると今度はファウンダリを選ぶ事になってしまう訳だ。その意味ではIPを提供するといっても、ASICというよりはStructured ASICに近いポジションにあるわけで、このあたりがビジネス的に成立し得るのかどうかは非常に微妙に感じる。特に最近FPGAの高性能化が著しい事を考えると、更に微妙さが引き立つ感は否めない。

このあたりは前回のインタビュー以降で大幅に環境が変わった部分であるが、その一方でその3とかその4の内容は今読んでも古さを感じない、というか今読んでも斬新過ぎる内容であり、世の中のCPU Architectと呼ばれる人達がどの位先の事を考えているかが伺える内容になっている。筆者なんぞは単なるソフトとハードのエンジニアあがりだから、ここまで発想が飛躍することはない。良い意味でも悪い意味でもコンサバティブな発想しか出来ない人だから、佐藤氏の繰り出すビジョンには正直圧倒された。

勿論こうした先のビジョンだけでは会社は成立してゆかないわけで、その辺りの苦労はその1その2、あるいはその12における『「殿、ご乱心~!」』という一言に集約されている訳だが、これも無事立ち上がったからこそ言える言葉であって、笑い話にできるようになるまでには大変な苦労があっただろうとは推察される。逆になぜそこまで苦労してでも立ち上げたかったのか、という動機はその2の冒頭にまとめられていると思う。「(そのモノを作る事で)尊敬される様なモノを作りたい」という意思は、エンジニアならば誰でも思うことであろうが、それを(多大な困難を乗り越えつつ)実現させたIPFlexという会社には、やはり敬意を表したいと思う。

さて、次回からはそのIP FlexのCompetitorとも言えるメーカーのインタビューをやはりお届けしたいと思う。