【コラム】
日本への帰国は突如決まってしまった。
1983年3月初旬、インテルジャパンでお会いした加茂代表取締役社長(当時)がIntel本社に来られた際、昼食に誘ってもらった。楽しい談話の後、加茂社長から予期せぬ言葉が飛び出した。
"川上さん、日本に戻って来て営業をやってみないか?"。私は思わず、"はい。では来年4月からお願いします"と嬉しさを隠しきれず、即答してしまうと、加茂社長は笑みを浮かべながら"川上さん、何を言っているの。来月4月1日から一緒にやろう"と一方的に押し切られてしまった。
その日の夕方、マーケティング部長から意向を打診され、渋々首を縦に振る結果となった。突発的にそれも1日でIntel本社を去り、日本への帰国が決定し、Intel本社の仲間との別れがとても忍びなく思えた。
日本へ荷物を総て送り出した翌日、インテルジャパン熊谷営業所所長、K氏から電話があり、インテルジャパンの新しい組織変更により、私の所属先は当初予定の世田谷営業所から熊谷営業所へ変更になったと一方的に告げられた。全く想定外の事に、只々呆然と聞き入るしかなかった。その日の夜、自宅に戻り、妻に状況を説明し始めると、彼女の両目から大粒の涙が溢れ出た。妻を励ます言葉がなく、無言のまま彼女をじっと見つめるしかなかった。妻は1年3カ月の米国での生活が急に閉ざされることに対し、困惑していた。
1983年4月1日付けで、インテルジャパン熊谷営業所FSE (Field Sales Engineer)として勤務に就いた。営業としての最初のチャレンジは、Intel主力製品名や特徴を理解する事であった。
幸いな事に、強い味方が傍にいて支えてくれた。インテルジャパン当時の販売代理店であった東京エレクトロン熊谷営業所の中村英美 営業課長である。彼は親切丁寧にコーチ役を務めてくれた。彼に導かれOJT(On the Job Training)を兼ね顧客同行訪問を開始したほぼ毎週、埼玉県、栃木県、宮城県にある顧客を2人で訪ねた。彼から"営業のイロハ"を教授してもらった。
日本に赴任して1カ月後、本社の指示に従い、東京エレクトロンの主要顧客である東京三洋をインテルジャパン直販の顧客に切り替える任務を遂行した。そして、中村氏を始め関係者に多大なる迷惑をお掛けした。幸いながら、中村氏とは過去30年に渡り、親友としてお付き合いをさせてもらっている。
日本に帰ってきて私がカルチャーショックを受けたのは、インテルジャパンの営業幹部の方々がIntel Core Valesを十分に理解しておらず、英語によるコミュニケーション能力も著しく欠如していたという点であった。効率を常に考え、生産性を重んじるIntel本社のスタッフと違い、営業所の仲間たちは、長時間会社にいることだけで満足しているように思え、就業中にも雑談が多かった。
やがて熊谷営業所の営業担当が続々と退職してしまう状況が発生し、私は4人の営業マンの仕事を代行することとなり、数カ月の間一人で奮闘することとなった。その間、全社売り上げの約30%強を確保する為、納期や品質問題のフォローに追われる毎日となり、新規案件獲得に向け拡販活動が後手に回ってしまい、悔む結果となった。
やがて日々、目先の日常の業務に追われ、受け身の仕事に終始している自分を見つめなおす時間を設けた。冷静に自分の行動を振り返りながら、能動的に活動する自分をイメージした。
営業の神髄はDesign In 活動、つまり新規案件発掘である事を後になって悟った。既存ビジネスを維持するだけでは、営業は真の満足感や達成感は得られない。
私は29歳の時、インテルジャパン熊谷営業所所長に就任した。昇進を知らされた夜は、妻と一緒に自宅近くの寿司屋で祝杯をあげた。興奮が収まらない自分に妻は優しく微笑んでくれたのを今でも忘れない。男性は、最初に"長"が付くタイトルを得た時、社会人として一番の喜びを覚えるのかもしれない。
熊谷営業所に所属1カ月後、ほぼ毎日300km以上の走行に追われた。練馬の自宅マンションからインテルジャパン熊谷営業所への往復に加えて、営業所から群馬県大泉にあった東京三洋や沖電気の高崎事業所への顧客訪問の日々が続いたためである。そのおかげと言っては悪いが、1年間で10万km以上の走行距離を突破し、社内規定に従って1年で新車に乗り替られる特典に預かった。
(次回は7月5日に掲載予定です)
著者紹介
川上誠
サンダーバード国際経営大学院修士課程修了。1979年 Intel本社入社。1988年ザイコ―ジャパン設立以降、23年間ザイログ、ザイリンクス、チャータードセミコンダクター、リアルテックセミコンダクターなどの外資半導体メーカーの日本法人代表取締役社長を歴任。そして2012年ハーバード大学特別研究員に就任
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