前回は、SDN(Software Defined Network)がどういった背景から誕生した技術なのかを解説した。サーバ仮想化で運用の効率化が図られたものの、ネットワーク側が追随できておらず、そうした問題を解消するべく登場した技術であることがご理解いただけたと思う。

では、この技術によってどういった世界が実現されるのか。今回はその部分を解き明かしていきたい。

SDNで実現できること

まずは、SDN(概念としてのネットワークの仮想化・抽象化)がもたらすメリットについて、その主な特色を4つにわけて考えていきたい。

(1) ネットワーク管理の一元化・効率化

SDNでネットワークそのものを仮想化することで、機器それぞれに対して設定を行うといった従来の手法に頼らずに、ネットワーク全体の一元的な運用管理が可能となる。また、ネットワーク全体の可視化が可能となることで、運用管理面の向上やOPEX削減効果が期待できる。

(2) サービス連携・外部ツールとの連携

SDNでは、ネットワーク機器を一元的に設定管理する役割を担うコントローラーと呼ばれる構成要素がAPIを持つことで、他のツールやサービスとシームレスな連携が可能となる。

例えば、クラウドオーケストレーションツールのような外部ツールと連携することで、仮想化されたサーバやストレージなどの他リソースと共にオンデマンドで柔軟なネットワークが利用可能となる。また、APIを外部公開することで、運用やプロビジョニングの方法自体も柔軟になる。

図1 : SDNにより他のツールやサービスとシームレスな関係になる

(3) 俊敏で柔軟な構成変更

SDNでは、物理ネットワークにとらわれずに論理的なネットワークが構築可能となる。これにより、よりきめ細かい制御ポリシーなどを設定することが可能だ。

また、それらのポリシーを即座に構築・作成・修正するということもできる。例えば、データセンターのマルチテナント環境で、特定のユーザーのみ特定の時間だけFWの機能を使用させるといったことも実現できるようになる。

図2 : 物理ネットワークにとらわれない論理的なネットワークを構築することができる

(4) 容易な機能追加(プログラマビリティー):

SDNにより仮想化されたネットワークでは、コントローラー(ネットワークOS)上からソフトウェア的に機能を追加することで、物理ネットワーク側の機能に依存しない機能追加も可能となる。

例えば、仮想ネットワークによるドメイン分割やアクセスリストのようなネットワークの機能を追加した場合でも各スイッチ側の設定方法等を意識することもなく、ネットワーク上の任意の場所で即座にその機能が利用可能となる。 また、全体のトポロジーなども把握しているため機能追加や削除時のシュミレーションなども可能となる。

SDNのユースケース

SDNは、海外ではGoogleやVerizonに加えて、国内でも大手キャリアによる商用サービスへの適用等が始まっている。ここでは、実例及び想定される主なユースケースについてまとめてみた。

(1) クラウドネットワーク プロビジョニング

クラウド環境ではサーバやストレージが仮想化されたが、それにネットワークが追随できておらずボトルネックとなっていた。SDNによるネットワークの仮想化により柔軟性の高いネットワークが構築でき、それをOpenStackやCloudStackに代表されるようなクラウドオーケストレーションツールと連携させることでネットワーク側もシームレスにマルチテナントが実現可能なクラウド環境のネットワークが構築できる。

既存のようにVLANでテナントを分割する必要がなくなるため、管理も容易になり、かつ、VLANタグの上限も撤廃可能となる。またトンネル技術と組み合わせることでL2ドメインの延伸も可能となりインターデータセンターでの活用も進んでいる。

(2) トラフィック ステアリング

従来の方法として、ネットワークの帯域状況を見て最適な経路を選択するにはMPLS-TEのような高価で複雑なデバイスを用いる必要があった。しかし、SDNでネットワーク全体の状態把握が容易になったことにより、効率の高いサービスオリエンテッドなネットワーク制御が可能となる。また、アプリケーション毎に最適なネットワークを使用することもできる。

(3) ネットワークの統合

企業の合併等で、ポリシーの違うネットワークやアドレスの重複が発生しうるような環境を、ひとつのネットワークとして運用管理したい場合がある。また、部署毎にサイロ化されていたネットワークを統合し、一元的に構成管理をしたいケースなども考えられる。

このようなケースに対しては、SDNを導入することで異なるネットワークに対して同一のポリシーを割り当て、ドメイン分割などを設計することが有効な策となる。

(4) スケーラブル・タッピング 

SDNを応用した少し変わった利用方法として、特別なモニタリング用スイッチを必要とせず、モニタリングツールの負荷を抑えることのできるネットワークを安価に構築できる。

複数のモニタリング用スイッチがあるような環境下では一元的に設定変更やポリシー適用が可能になるため、特定のトラフィックのみを特定の時間だけモニターするということも容易に実現できる。

他にも、クラウドバーストと呼ばれるハイブリッドクラウド連携を実現するネットワーク、IPv4アドレスの割り振りを容易にしたことによるアドレス有効活用、更にはモバイル網でのダイナミックリソース割り当てなどさまざまなユースケースが考えられる。SDNの特徴を活かしたユースケースはこれらに限らず、今後も様々な使われ方が開発されていくことが予想される。

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今回はSDNがもたらす効果について、具体例を交えながら紹介した。SDN導入後のシステム運用がどういったかたちになるのかご理解いただけたと思う。

次回は、「Open Flow」をはじめとするSDNの基盤技術について詳しく解説していこう。

著者プロフィール

ネットワンシステムズ


ネットワンシステムズは、常に国内外の最先端技術動向を見極め、ネットワーク領域とプラットフォーム領域において、自ら検証した製品に高品質な技術サービスを付加することによって、お客様のビジネス成功を目的として、生産性を高め、簡便に利活用できるIT基盤ならびにコミュニケーションシステムを提供しています。

SDNにおいては、先進な仮想データセンター向け製品群とオープンなSDN製品群を組み合わせることによってSDNの連携範囲をクラウド基盤全体に拡大し、構成変更や運用を自動化し、運用コストを大幅に削減するとともにビジネスの俊敏性を大きく向上するソリューションを提供しています。