ICTに対するニーズが多様化する中で、企業や組織は、その重要性や戦略性といった観点から、採用すべき技術やコンセプトも定期的な見直しや更新が必要となってくる。

いつの時代にも新しい技術やコンセプトは登場してくるが、重要となるのはその新しい技術やコンセプトありきで捉えることではなく、それを用いてどのようなことが実現できるのか、或いはそれがどのような課題を解決してくれるのかといった視点だ。

本連載では、ネットワーク業界に久々にあらわれた新しい潮流ともいえる「SDN(Software Defined Network)」をテーマとしてとりあげ、SDNの生い立ちからはじまり、関連する技術やベンダー動向などを解説し、それを踏まえた上でのネットワンシステムズの考えや取組みを紹介・解説することで、「SDNが全てに処方可能な万能薬となるのか?」といった問いに対して考察を加えていきたい。

SDNとは

多くのネットワーク担当者が夢見るであろう、「管理が簡単で個別の機器設定が不要なネットワーク」や「ハードウェアに依存せず自由にリソース配置や機能追加が可能なネットワーク」。これをソフトウェアによって実現するのが、SDN(Software Defined Network)と呼ばれる概念だ。

実は、仮想化で一足先行したサーバ・ストレージでは既に常識となっているこのような概念も、既存のネットワーク技術で実現することは難しかった。SDNによってこの壁が取り払われ、サーバやストレージの仮想化と同じような「変幻自在なネットワーク」を構築することが可能となった。これにより、ネットワークの管理・運用性が向上し、ハードウェアも減らすことが可能となるので、当然TCOの削減にも直結する。このような多くのメリットをもたらすSDNの考え方が、既に市場で多くの賛同を得ているのは当然といえよう。

SDNは単なる夢物語に留まらず、既に多くのベンダーが 実装しつつある現実的な技術でもある。この数カ月の話題としては、ネットワーク最大手Cisco社が同社の新しいSDN戦略である「Cisco ONE」を発表したことが挙げられる。また、仮想化最大手のVMware社がSDN関連ベンチャー企業のNicira社を約1000億円と高値で買収したことが大きな話題となるなど、枚挙に暇がない。

SDN(実際にはその要素技術であるOpenFlow)が米国シリコンバレーのスタンフォード大学発ということもあり、同地域のベンチャー企業が活発だ。現在、多くのSDNベンチャーがしのぎを削っている状況であり、今後も新しいイノベーションが発信されることが期待される。

図1 : 「サーバ仮想化」と「SDNによるネットワーク仮想化」

このように、一見いいことずくめに見えるSDNも、一方では話題性のみ先行している感もあり、「そもそもSDNを導入して何を解決できるのか」、「現時点で実現できることは何なのか」、といった基本的な問いに対しては、答えに窮する方も多いのではないだろうか。

また、SDNをみていく上での混乱を招く要因の一つとして、多くの場合にSDN概念そのものと、OpenFlowといったSDNの要素技術が混在していることが挙げられる。最近では、SDNから派生する形で、SDNP(Software Driven Network Protocol)、 SDDC(Software Defined Data Center)やSDS(Software Defined Storage)などといった類似キーワードが登場していることも、混乱に拍車をかけているように思われる。本連載ではSDNの定義を一次的に整理することを目的に、以下のように「概念」*1と「手法」*2をわけて考えていきたい。

*1 概念 : SDNとはソフトウェアを用いたネットワークを仮想化(抽象化)するための概念の総称。

*2 手法・技術要素 : 多くの場合、SDNとセットで用いられる要素技術であるOpenFlowは、SDNを実現する技術要素のひとつとして、SDNの概念そのものとは使いわけるようにする。

SDNの生い立ち

SDNが誕生した背景には諸説あるが、前項でも触れた通り、仮想化で一足先行したコンピューティングの進化と絡めて考えていくことで理解が深まりそうだ。

クラウド・コンピューティング(またそれを支えるインフラやデータセンターなど)が普及するにつれ、インフラの柔軟性や俊敏性に対する要求も高まりを見せた。このような要求に対して大きな役割を果たしたのが、コンピューティングの仮想化技術だ。コンピューティングにおける仮想化技術はVMware, Citrix, Microsoft等のサーバ・クライアント仮想化製品により著しい進歩を遂げ、現在出荷されている物理サーバの約20%が仮想化されているといわれるまでに普及した。

コンピューティングの世界に仮想化技術が普及したことで、運用管理の柔軟性やリソース活用の最適化といった数々のメリットをもたらしたが、その最たる意義について考えていくと、「ソフトウェアの仮想化技術によってソフトウェアとハードウェアを分離させて柔軟性を高めたこと」にあるといえる。

つまりは、ハイパーバイザという抽象化された「ソフトウェアのレイヤ」を「物理ハードウェアレイヤ」の上で形成することによって「個々の物理サーバの構成を平滑化」し、プラットフォームとしての汎用性を飛躍的に高めたことにその意義があるといえよう。

一方で、ネットワークの世界に目を向けると、仮想化の技術自体はVLAN(Virtual LAN)などといった形で過去より存在し、実際にも多く導入されてはいるが、拡張性や柔軟性の面では課題も残り、それらに対応するためにはネットワーク機器ベンダーの拡張実装に依存する部分が多かった。

また、過去にはネットワーキングの世界でもソフトウェア(コントロールプレーン)とハードウェア(フォワーディングプレーン)を分離しようとするアプローチは、ATM技術をベースにしたLANE(LAN Emulation)やオプティカル・ネットワーキングにおけるGMPLS(Generalized Multi-Protocol Label Switching)などといった幾つかの試みが存在したものの、いずれも相互接続性やベンダー間の連携で足並みが揃わないなどの問題で本格的な普及には至らなかった。

つまるところ、現在のネットワークは構成含めて益々複雑化が進んでいるが、運用や管理面では追従することができない状況に陥っている。また、仮想化の面ではコンピューティングに後れをとり、それが理由でネットワーク部のボトルネックが指摘されるようにもなってきた。

このような状況下で、コンピューティングと同レベルの仮想化・抽象化がネットワークに求められるようになったのは、ある意味当然の帰結と言える。

言うなれば、SDNはサーバ・ストレージで先行した仮想化の技術コンセプトをネットワーク分野にも取り入れたものであり、本質的にはICTインフラの 「TCOの削減」や「柔軟性・俊敏性の強化」といった命題に対して、ネットワークの切り口からも解決しようとするアプローチとも言えよう。

以上、今回はSDNの登場背景について、簡単にご紹介した。次回は、SDNによって運用の現場がどう変わっていくのか、解説していく。

著者プロフィール

ネットワンシステムズ


ネットワンシステムズは、常に国内外の最先端技術動向を見極め、ネットワーク領域とプラットフォーム領域において、自ら検証した製品に高品質な技術サービスを付加することによって、お客様のビジネス成功を目的として、生産性を高め、簡便に利活用できるIT基盤ならびにコミュニケーションシステムを提供しています。

SDNにおいては、先進な仮想データセンター向け製品群とオープンなSDN製品群を組み合わせることによってSDNの連携範囲をクラウド基盤全体に拡大し、構成変更や運用を自動化し、運用コストを大幅に削減するとともにビジネスの俊敏性を大きく向上するソリューションを提供しています。