連載『「老後破産」を回避せよ! - アラサーから始めるマネー対策』では、FPの馬養雅子氏が、貧困により老後の生活が破綻する「老後破産」をどのように回避すればよいのか、アラサーのうちからできる対策法をご紹介します。


アラサー世代とアラサーの親の世代とでは経済の環境が違うので、親と同じようなお金の使い方をしていると老後破産するかもしれない、ということを前回書きました。親世代と同じだとNGなのはお金の使い方だけではありません。お金の増やし方も変える必要があります。

バブル期の定期預金金利は6~7%、今では0.01%に

最近、バブル時代をネタにするお笑い芸人がいるようですが、それがネタになるほど、この30年あまりで世の中が大きく変わったということですよね。今年60歳の人が30歳だったのが1987年で、ちょうどバブル経済の真っ最中でした。このころ銀行の定期預金の金利は6~7%もありました。

「72の法則」というのを聞いたことがありますか? 72を利回りで割ると、資産が2倍になる年数がわかるというものです。金利が6%だと「72÷6%=12」となります。銀行に12年間預けっぱなしにしておくだけでお金が2倍になったのです。金利が高かった時代は預金するだけでお金が増えました。だから、値下がりリスクのある預金以外の金融商品にあえて投資する必要はなかったわけです。

バブル期には預金するだけでお金がどんどん増えていった

その後、預金金利は急激に下がり、90年代半ばには1%を切りました。2016年にはマイナス金利が導入されて、おもな銀行の定期預金金利は0.01%にまで下がっています。72の法則を当てはめると「72÷0.01%=7,200」。お金を2倍にするのに何と7,200年(!)もかかるのです。

この金利だと、100万円を1年預けても受け取れる利息は100円。税金が差し引かれるので手取り額は約80円にしかなりません。これではお金を増やすどころか、ATMの手数料1回で元本割れしてしまいます。

更にこれから、物価上昇率が預金金利を上回ることがあれば、預金したお金の価値は目減することになります。今や預金の機能は、文字通り「お金を預かる」だけになっているのです。

この30年でお金に関する環境は激変

一方で、サラリーマンのお給料は昔のようには上がらなくなっています。その中で、家計にゆとりをもたせるためにお金を増やそうと思っても、預金は役に立ちません。となると、預金以外の金融商品に投資して資産を運用する必要があります。

この30年で、お金に関する環境は大きく変わりました。金融が自由化されて個人が利用できる金融商品の種類が増え、売買にかかる手数料が下がりました。運用にかかる税金を優遇する制度もできていて、投資のための環境は整っています。

ただし、預けっぱなしでよい預金と違って、投資には多少の知識が必要です。残念ながら日本ではそれを学校で教えてくれないし、親も知らないことが多いのが現状。いざ運用を始めようと思ってもやり方がわからず、わからないから始められないという人も多いようです。

親世代には預金金利が高かった時代の記憶があって、「お金は銀行に預けておけばよい」という感覚が体にしみついています。中には「投資なんてギャンブル」「働かずにお金を儲けるのはよくないこと」と、投資が悪いことであるかのように考えている人もいます。また、「値下がりする可能性のある金融商品を買うのは怖い」「元本割れなんてとんでもない」と思っている人もいて「投資なんて危ないからやめなさい」と言ったりします。

でも、そういう言葉に耳を貸してはいけません。親世代が若いころには必要なかった投資が、今は必須だからです。もちろん、貯蓄と投資のどちらを優先すべきかといえば、貯蓄です。これまで何度もご説明してきたとおり、老後破産を回避するためには、計画的な貯蓄が一番大切です。でも、それだけではお金のゆとりは生まれません。

投資は少ない金額でも始められる

よく「お金がたまったら投資を始めます」という人がいるのですが、それではいつ始められるかわかりませんよね。投資はまとまったお金がないとできないと思っている人が多いのですが、そんなことはありません。投資も貯蓄と同じように、少ない金額でコツコツと積み立てでできるのです。ですから、貯蓄と併行して投資していけばよいのです。

投資未経験だと、何となく怖いと思うかもしれません。誰でも未知のものには警戒心が働きますよね。でも、それを乗り越えて第一歩を踏み出した人とそうでない人とは、10年後、20年後に大きな差が出てくるはずです。

アラサー世代は、ただお金を貯めるだけではダメ。投資の必要性を理解して実践していくことが、老後破産のリスクを小さくすることにつながります。では具体的にどうしたらよいのでしょう。それを次回以降にご紹介します。

執筆者プロフィール : 馬養雅子(まがい まさこ)

ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、一級ファイナンシャルプランニング技能士。金融商品や資産運用などに関する記事を新聞・雑誌等に多数執筆しているほか、マネーに関する講演や個人向けコンサルティングを行っている。「図解 初めての人の株入門」(西東社)、「キチンとわかる外国為替と外貨取引」(TAC出版)、『明日が心配になったら読むお金の話』(中経出版)など著書多数。オフィシャルホームページ「あなたのお金のアドバイザー」。