連載『「老後破産」を回避せよ! - アラサーから始めるマネー対策』では、FPの馬養雅子氏が、貧困により老後の生活が破綻する「老後破産」をどのように回避すればよいのか、アラサーのうちからできる対策法をご紹介します。
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「国の年金は死ぬまで受け取れるとしても、重い病気にかかって医療費がかさんだら老後破産するかもしれない」と不安に思う人もいるかもしれませんね。今回は、病気になったときのお金について見てみましょう。

病気や怪我は公的保険でほぼまかなえる!

ご存じのとおり、病気やケガで病院に行って治療を受けると、窓口で支払うのはかかった医療費の3割です(年齢によっては1割や2割の場合もあります)。これは、公的な健康保険に加入しているからです。

会社員なら健康保険組合、自営業者なら国民健康保険など、日本ではすべての人が何らかの公的な健康保険に加入することになっていて、健康保険証があれば日本中どこの病院や診療所へ行っても治療を受けることができます。そのときかかった医療費のうち本人が負担するのは最大3割で、残りは健康保険から支払われます。

病気やケガで老後破産しないために(画像はイメージ)

「自己負担が3割だとしても、もし医療費が100万円かかったら30万円払わなきゃならないからキツいよね」という声も聞こえてきそうです。でも、そういうことにはなりません。なぜなら、公的健康保険には、1カ月の医療費の自己負担額に上限が設けられているからです。

上限額はその人の収入によって違い、年収370万~770万円程度だと約9万円です。仮に1カ月に医療費が100万円かかっても、自己負担額の上限は約8万7,000円。窓口で30万円払っていたら、差額の約21万3,000円は"高額療養費"として返してもらえます。さらに、上限額に達する月が1年間に3カ月以上あったら、4カ月目以降は上限額が4万4,400円に下がります。

健康保険組合によっては、上限額がもっと低いケースもあります。自分の加入している健康保険組合ではどうなっているのか、ぜひ一度確認しておきましょう。

病気や怪我で働けなくなったときも「傷病手当金」がある

このように、病気やケガに関しては、自分の判断で健康保険の対象とならない高額な治療を受けるといったケースを除けば、医療費の負担がものすごく大きくなるということはないと考えられます。

「でも、病気やケガで働けなくなったら収入が途絶えて老後破産するかもしれない」という心配はありますよね。これについては、"傷病(しょうびょう)手当金"という制度があります。会社員など健康保険組合に加入している人が入院や自宅療養で仕事を休み、それによってお給料が支払われなかった場合、最長で1年6カ月間、お給料の3分の2に当たる額が支払われるという仕組みです。

このほか、難病にかかったときは医療費が無料になりますし、高度障害状態になったら障害年金が受け取れるなど、医療に関する公的な仕組みはかなり手厚いといえます。

もちろん、それで100%安心というわけではありませんが、こうした制度があることを知っておくことは大切です。知らないでいると、受け取れるはずのお金が受け取れず、それによって老後破産してしまうかもしれません。また、病気やケガが心配で必要以上に民間の保険に入ってしまい、保険料の負担が重くてお金が貯められないということもありえます。

制度の細かい内容は覚えなくても大丈夫。病気やケガで入院費がかさんだときや仕事を休んでお給料が入ってこないときに、こうした制度があることが思い出せればよいのです。そうすれば、自分で調べたり役所の窓口に問い合わせたりできますよね。公的な制度を知っていること、調べること、制度を活用すること――それが老後破産を回避することにつながります。

執筆者プロフィール : 馬養雅子(まがい まさこ)

ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、一級ファイナンシャルプランニング技能士。金融商品や資産運用などに関する記事を新聞・雑誌等に多数執筆しているほか、マネーに関する講演や個人向けコンサルティングを行っている。「図解 初めての人の株入門」(西東社)、「キチンとわかる外国為替と外貨取引」(TAC出版)、『明日が心配になったら読むお金の話』(中経出版)など著書多数。オフィシャルホームページ「あなたのお金のアドバイザー」。

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