連載『「老後破産」を回避せよ! - アラサーから始めるマネー対策』では、FPの馬養雅子氏が、貧困により老後の生活が破綻する「老後破産」をどのように回避すればよいのか、アラサーのうちからできる対策法をご紹介します。
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日本はかつて"1億総中流"といわれていました。所得の格差が小さく、大多数の人が同じようなライフスタイルだったのです。それはこんな感じです。

学校を卒業してサラリーマンになり、結婚して妻は専業主婦となり、最初は賃貸のアパート住まいですが、団地に引っ越し、やがて住宅ローンを借りて郊外に一戸建ての家を購入。その間、子どもが2人か3人生まれます。会社員はいったん入社すれば年齢が上がるにつれて給与は右肩上がりに増え、定年まで勤め上げればそれなりの退職金がもらえて、老後は夫婦で趣味や旅行を楽しむ……

これが"ふつう"の人生でした。

消費についても、1950年代はどの世帯でも冷蔵庫、洗濯機、白黒テレビを買いそろえ、1960年代は、みんながカラーテレビ、クーラー、自動車を買うというように「みんなと同じ」が成り立っていたのです。

かつては「みんなと同じ」が成り立っていた

「当たり前」が「当たり前」でなくなる時代

でも今、会社員は最初に入った会社にずっといるのが当たり前ではなくなっています。大会社でも破たんしたり、業績悪化で社員をリストラしたりすることが珍しくありません。給与は年齢とともに上がっていくとは限らず、サラリーマンでも会社や職種、能力などによって収入に格差が生まれているのが実情です。

家族の形も変わってきています。1997年以降、共働き世帯が専業主婦世帯を上回っており、昔のように「サラリーマンと専業主婦と子ども二人」はもはや"モデル世帯"でありません。それに加えて、価値観の多様化で「結婚しない」「子どもを持たない」「家を買わない」という選択をする人も増えており、この点でも「みんなと同じ」というのは成り立たなくなっています。

そういう世の中では、お金に関しても「みんなと同じ」というわけにはいきません。収入もライフスタイルもさまざまだからです。でも、いまだに「みんなと同じ」から抜け出せない人を見かけます。

例えば、結婚式は「みんなと同じようなホテルでしたい」、新婚旅行は「みんなが行くハワイに行きたい」「みんながマイホームを買うから買いたい」「みんなが私立中学に行くかせるから自分の子も行かせたい」「みんなが家族で海外旅行に行くからうちも行きたい」等々。

実際には今、"みんな"というのは存在せず、ある意味、幻想にしかすぎません。それなのに、たまたま自分のまわりにいる人やネットなどで目にする情報から、自分で"みんな"という基準を作って、それと同じでないと安心できない、というのは困ったことです。

というのは、まわりに合わせてお金を使っていくと、自分が支出できる金額を越えてしまうことが出てくるからです。身の丈に合わない支出が増えれば、十分な貯蓄ができず、老後破産につながることもあるかもしれません。

人生を決めるのは「みんな」ではなく「自分」

大切なのは、すべてに対して、自分はいくら使うことができるのか考えて、その範囲で支出していくこと。そして、もし使えるお金が足りないなら、優先順位を決めて、何にお金をかけて何にかけないかを考えることです。

質素でも心のこもった結婚式はあるし、ハワイでなくても思い出に残る新婚旅行はできます。子どもにはその子にあった教育を受けさせるべきだし、賃貸住宅に住み続ければ住宅ローンに縛られずにすみます。昔よりも選択肢は増えているのですから、その中から自分のお金の状況や考え方にあったものを選んでいけばよいのです。

「みんなと同じ」ということは、人生を人まかせにするということ。それでは自分の人生といえません。何にお金を使うのか、あるいは使わないのか、使うとしたらいくらなのか--それを決めるのは"みんな"ではなくて自分です。

幻想でしかない"みんな"に振り回されず、人生やお金の使い方を自分で選択していくことは、老後破産を回避するためにできることの一つといえるでしょう。

執筆者プロフィール : 馬養雅子(まがい まさこ)

ファイナンシャルプランナー(CFP認定者)、一級ファイナンシャルプランニング技能士。金融商品や資産運用などに関する記事を新聞・雑誌等に多数執筆しているほか、マネーに関する講演や個人向けコンサルティングを行っている。「図解 初めての人の株入門」(西東社)、「キチンとわかる外国為替と外貨取引」(TAC出版)、『明日が心配になったら読むお金の話』(中経出版)など著書多数。オフィシャルホームページ「あなたのお金のアドバイザー」。