──なにかの活動に参加してみるのは確かにアリかもなあと思いますが、そのあとまた、気になる女性に向かって行くタイミングが……。

酒井 ええと、私が自分がオバサンになって、若い子たちを見ていて気づいたことがあるんです。今の時代でも女の子は、まだ「待ち」の状態の子が多いよね?

浅田 多いと思います。

酒井 明らかにその男子に好意はあるんだけど、「来てくれないと行けない」みたいな女の子がいる。「それ、明らかに行っていいじゃん」と思うのに、絶対に行かないの。「この時代に?」って。

浅田 時代で考えると難しいんです。いまの私たち20代の世代でも、育った家庭環境は、専業主婦のお母さんと外で働くお父さんというタイプなので、無意識にそれはすり込まれているような気はします。だから、女の子は「お母さんとは違って働きたい」と当然に思いつつも、「誰かに引っ張って行ってもらいたい」という思いもある。男の子も、自分が家庭を引っ張って行きたい気持ちはあるけど、でも「奥さんも働いてね」と。そのへん矛盾しているかもしれません。

酒井 そうねえ。「男は働き、女が家を守る」というスタイルを、今の20代の世代で崩さなきゃいけないとなると、それは初めてのことだから勇気がいることですよね。だって、やらなきゃいけないってかわいそうだもん。初めてのことには風当たりも強いし。でも、今の20代はたぶん、やっていかなければならない世代になっちゃうからね。30代はなんとか誤魔化せてこれたけど(笑)、これをガラッと変えようとすると、みんな戸惑っちゃったり、勇気が出なかったりするのもしょうがないよね。

浅田 気になる相手に「行っていいのか、悪いのか」ということになると、基本的には男の子だったら、勇気を出して行ったほうがいいし、女の子もそうしたほうがいいのかもしれません。でも、お互いに踏みとどまった感があって。

酒井 両方が踏みとどまって、どっちもどんどん草食化しちゃったりして(笑)。

浅田 どっちも食べません(笑)。

酒井 私の息子の世代を見ていても思うんです。たぶん自分も親世代として子どもに対する要求が高いから、「それができたら、次、次」ってなっちゃう。理系の頭のいい人なんて、器用にこなしてしまってほめてももらえない。それが当たり前で、自信を持たずに育ってきているかもしれない。

浅田 そもそも根拠のない自信を持つタイプの人たちじゃない、というのもあるかもしれません。

酒井 たまにいるけど(笑)、基本的には頭がいいと、根拠のない自信は持てないよね。

浅田 自分に厳しいというか、自分を過小評価で見ているから、自信になってこないというのはたぶんある。「謙虚さがいい」という人もいますけど、あまりに自信なさすぎだと、女性から見ても「大丈夫かな?」って思います。

酒井 そこが難しいところで、恋愛して彼女ができれば、唯一、彼女だけはほめてくれるじゃない? 絶対。それだけでも恋愛する意味ってあると思う。はじめて自分をまるごと受け入れて、「すごいね、すごいね」って言ってくれて、認めてくれる人ができたらとても幸せですよね。だから、「恋愛したほうがいいんじゃない?」って言うんだけど、そこに自信がないから、ジレンマみたいなものがある。

浅田 ほめられたり、認めてくれたりする関係があると、それだけでがんばったりできます。モチベーションになるから、恋愛は絶対にしたほうがいい。傷つくのがこわいという思いもわかるんですけどね。

酒井 日本のお父さんがね、息子のことを「おまえは最高の息子だ、すごいな」と言って育てることってあまり想像つかないじゃないですか。「おまえは、まだまだダメだ」って言って育てたり。息子を否定しつつも「おれの背中を見ろ」なんてね。たいした背中でもないのに……とも思ったり(笑)。そのへんの改革は必要だと思うんですけど。

浅田 日本は減点主義というか、マイナス面を見てそれをどう治そうというところがあるんでしょうかね。加算していこうという発想とか、少なくても小さくてもいいから、良いところを最大限に認めて伸ばそうという発想が比較的少ない気がします。

酒井 そういう意味でいうと、男友達同士って、けっこう友達の良いところを見て、欠点を許してあげちゃうやさしさがすごいある。だから、男友達でいるほうがラクなんだと思う。女の子同士の場合、ダメなことには黙っちゃうでしょ。それで「言ってくれないけど、私に不満なんでしょ?」ってなるじゃない? こわいけどさ(笑)。男の子同士ってそういうのないから。でもね、対女子になると「恋愛が怖い」ってなる。うまくいったときはすごく楽しいはずなのに。

浅田 恋愛が怖いなら、「こうかも、ああかも」と考える前に練習をして、本番に挑むときは勇気を持ってほしいですね。練習の中でだって出会いがあるかもしれませんし。

──ええと、"練習"って考えると、「練習である以上、ハードルの高いところに行かねば」と思って、「そうだ、キャバクラに挑戦してみよう」というのは間違ってますか……?

酒井 キャバクラに行くのは、逆のほうが勉強になると思う。私みたいに女兄姉でノホホンと生きてきた女が、オトコ心を知るためにキャバクラで働くのはアリと思う。でも、お金を払って行くお店の対応というのは、そこから先は見せてもらえないし、そもそも楽しむための場所に精神的に無理して行くのはね。

──男のほうもわかっちゃいるんだとは思いますけどね……。

酒井 何度も言いますけど、やっぱり慣れだと思うの。「飾らなくてもやっていけるんだ」っていうことがわかるには、多少の経験と慣れがないと。がんばってうまくいかなくても、「いいよオレ、飾ったりできないし」という開き直れるところまでがんばらないとね。

『ティファニーのテーブルマナー』という本があって、ナイフとフォークの使い方とかね、絵本みたいな形でテーブルマナーを教えてくれるんです。それで最後は、「これであなたはテーブルマナーを全部覚えましたね、だから破ることもできます」というような終わりになってるんです。破るためには色々な経験が必要で、恋愛も同じだと思う。

「女の子ってこういうものだから、こういうふうにしてあげよう」と学んでいくのは大事。でも、セオリーとかマニュアルを破ってでも「自分はこうしたい」というところまで来るには、ある程度の経験が大事ですよね。「この場面ではこう、あの場面ではこうしないと」と考えながらというのはまだ自分を飾っている状態。「自分は間違ってないだろうか」という不安だけに囚われちゃう自分を脱却したときのようなものが、恋愛にも来ないとね。それには多少つらい思いとか恥ずかしい思いとか、「こんな店きたことねーよ、どうしよう?」みたいなことを経験していかなきゃいけないわけです。女の子はそういうものを経験させてくれる。男子ってとても大変ねって思うけれど(笑)。

浅田 "すべての言葉をプラスに置き換えてみる"練習もいいですよ。神経質という言葉を几帳面、おっちょこちょいなら、なんでもやってみようと思うチャレンジ精神があるとか。まじめな人、草食系の人は自分をマイナス評価にしてしまいがち。自分の一部をプラスに表現してみることも、ひとつの自信を持つきっかけになると思います。そして、練習の中で小さな成功体験を積み重ねていく。ステップを踏みつつ、自分の行きたいところを目指してみるといいでしょうね。

酒井 クヨクヨしないってこともね(笑)。「自分は生きていけないほどの恥をかいてしまった!」ということはあると思う。でも、それってみんなが経験していたりすることだしね。若い人ほど、「失敗を恥ずかしい」って強く感じちゃうみたいで。ちょっとした間違いでも、「オレなんか……」となっちゃう。そういう意味では、女の子のほうが強いよね。

──『理系のための恋愛論』が、女性とのコミュニケーションが苦手な男子のための、テーブルマナー本になるといいのですが……。

酒井 読んで安心しちゃう面もあると思うけど、いつかは読者の方から、「結婚しました! 『理系のための恋愛論』を卒業します!」なんて報告があったらうれしいですね。

(写真:石森亨 撮影場所:オメガスイーツ 神保町プレスルーム)