【コラム】

理系のための恋愛論

313 考えすぎちゃって、相手の目を見られない

    酒井冬雪  [2009/03/27]

    人と話をするときは、相手の目をしっかり見て話をしましょう……と、小さいときに言われた人は多いはずです。

    しかし、内向的でシャイで人見知りで、口ベタな人ほど「人の目を見て話す」というのは、むずかしい課題になりがちです。私も若い頃は、相手の目を見て話をしない、と親や身近な大人からよく注意されたものでした。けれど、目上の人や大人、異性と話をすると、それぞれ相手の立場や視点からこちらを人物評価していたり、品定めをされたりしているような気がして、なかなか緊張してしまうわけです。

    しかも、人物評価をする側の感想(落胆や敵意、失望)が、思いっきり顔に書いてあったりすると、こちらとしては非常にいたたまれない気持ちになります。

    そうなってくると、若さゆえの自意識過剰と、シャイさ、あまのじゃくな性格がヘンな相乗効果を発揮して、ますます相手の顔を見ずに無表情を貫いてしまったりして、悪循環に陥るのでした。

    今にして思えば、そんなに相手からの評価や品定めを気にするのなら、好意を持ってもらえるように、愛想をよくしてみたり、笑顔を見せて、相手の目を見てハキハキと受け答えをしたりすればいいものを、なぜか反対の道をいってしまうという……。

    そういうわけで、現在ではどうなったのかというと、生まれつき愛想がいいわけでも、笑顔がかわいいわけでも、打てば響くようなハキハキした性格でもないので、そんな自分でもいいんだ! と思うことにして、会社勤めをせずに、フリーランスで働くという道を進んでいます。

    とはいえ、少なからず社会にかかわって生きているわけですし、相手の目を見て話すことはできるようになったつもりです。


    さて、私の友人Fくん(音響機器メーカー勤務、34才)は、本当に相手の目を見て話ができない男性でした。初めて、彼と会ったのは、彼が29才のとき、某雑誌の取材で彼の仕事について詳しくインタビューする、というものだったのですが、仕事柄、一日中スタジオにこもって「音」と向かい合っているせいか、彼はとても人見知りな男性でした。

    まず、はじめて会ったときは1時間ほど話していたのですが、その間、こちらをまったく見ようともしません……。

    かといって、落ち着きなくキョロキョロするわけでもなく、ずっと手に持っている書類をながめたまま、淡々と話をつづけるのでした。というわけで、私は彼の横顔をアタマに刻み込んで帰ってきたのでした。

    それから、何度かFくんと会ったのですが、相変わらず彼がこちらを見る気配はなく、頑なに横を向いたまましゃべっていました。ただ、ときどき、私が彼を見ていないと思うときに、チラッとこちらを見ているような気配はありましたが、こちらとしてはそれに気づかないようにしていました。

    こんなふうに書いていると、彼と私の間には何の共通点もなく、まったく気が合わない、話がかみ合わないように見えるかもしれません。が、私たちはたぶん、何か同じ匂い……人見知りで内向的な性格ゆえの安心みたいなものを感じていました。

    というわけで、仕事とは関係なく親しくなったのですが、気が付いたら彼は、私の後輩で、帰国子女で超社交的なSちゃんと結婚していたのです。

    ……気が付いたらというか、彼の会社でアルバイト求人を出していたので、私がそのときプラプラしていたSちゃんを紹介したという。

    結婚後、Fくんがどのように変わったかというと、人の目を見て話をするようになりました。本来、とてもギャグセンスがあるのですが、シャイすぎてそれを表に出すことができなかったのに、誰にでも冗談を言うようになりました。

    また、マジメで感動屋さんなので、南極に住むペンギンの子育て番組というようなTVを見ても、すぐにホロホロと涙を流してしまうのですが、昔はそういうことがバレると不機嫌になっていたのに、そんな自分を笑えるくらいになっていました。

    聞くところによると、そんな自分の変わりようは、もちろん周囲もすぐに勘付いたようで、Sちゃんの友人たちから、よってたかって、

    「なんだー、人の目を見てちゃんと話せるんじゃない。ホッとしちゃった」

    とからかわれたのだそうです。Fくんとしては、奥さんの友人から「この人、大丈夫?」と思われていたことがショックでもあったそうですが、けれど「ホッとした、と思ってもらえたなら、よかったということにしよう」と自分に言い聞かせたそうです。


    人の目を見て話す……というのは、なかなかむずかしいことです。私もいまだにむずかしいな、ずーっと相手の目を見続けるわけにもいかないし、と困ったりすることもあります。 ですが、こちらが相手をちゃんと見ることによって、話をする相手が、

    「あっ、この人は自分に興味を持ってくれている。話を聞いてくれているんだ」

    と安心することができるかもしれない。

    自分のためでなく、相手のために、がんばって「相手の目を見て話」をしてみてはどうでしょう。

    自分がほんの少し、がんばってみたことで、相手を少しだけでも安心させたり、幸せな気持ちになってもらえたりするなら、それは自分にとってもとてもよろこばしいことだと思います。

    春に、新しい出会いや別れがあるのなら、メールで「さよなら」や「ありがとう」を済ませるのではなく、相手の目を見てひと言を言ってあげてほしい、そんなふうに願ってしまう私です。


    こんにちは、酒井冬雪です。とはいえ、ジーッと見つめてばかりいるのもなんだし、たまには目線を外し、また見る、というワザのようなものも必要です。では、またね。

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