【コラム】

理系のための恋愛論

312 無関心でいることのデメリット

    酒井冬雪  [2009/03/07]

    ケンカをしたときに、友人の放ったひと言ひと言が、後々まで忘れられず、クヨクヨと悩み落ち込んでしまう人もいれば、都合の悪いことはすぐに忘れて(いるらしく)、翌日にはケロッとしている人、2つのタイプの人がいます。

    私はあからさまに前者で、自分でも難儀な性格だなぁとタメ息をつくこともしばしば。

    くよくよ悩んだり、後悔したりしてしまう人は、トラブルやもめごと、すれ違い(それが、本当に些細なことでも)が起きるたびに、人とコミュニケーションを取ることがどんどん苦手になってしまうような気がします。

    ですが、コミュニケーションを取るのが苦手だから、なるべく人と話さないようにしたり、新しい出会いを遠ざけたりしていると、それはそれで困ったことにもなりかねないものです。


    某電機メーカーの研究所で働くUくん(30才)は、ひとりっ子のせいか小さいころから一人上手で内向的な性格でした。その上、そこいらへんの女の子よりも、よっぽど気がききますし、やさしい性格をしているため、周囲の人に気を遣いすぎて疲れてしまうことが多く、ついつい、

    (面倒だからひとりでいいや)

    と思ってしまうのでした。

    そのため、会社勤めをはじめてからも、お昼ごはんはひとりコンビニ弁当。たまの飲み会の誘いもことごとく断る(お酒も飲めないので)。常時、5~6冊の本を持ち歩き、通勤時間はもちろんのこと、少しでも空き時間があれば、本を読んでいるという状態です。

    たまに何か話しかけられて、困ったときは、口角を上に引き上げて笑顔をつくり、ひたすら相づちを打つ……という、親に対して使ってきた戦法でやりすごすというテクニックも身につけていました。

    そんなUくんがある日、会社へ行くカバンを新しくしたことと、寝不足がつづいていてたまたま寝坊したことが重なって、いつも数冊以上持ち歩いている本をカバンに入れるのを忘れて出勤してしまいました。

    落ち着かない気持ちにはなりましたが、何とか、いつものようにひとりの昼休みもやりすごし、仕事を終えてエレベーターに乗り込むと、後から、

    「ごめんなさい」

    と息を切らして、子会社からきている受付の女性、Tさん(28才)が乗り込んできたのです。Tさんは、いつも笑顔で、声を発することの少ないUくんにも、こりずに、「おはようございます」「お疲れ様です」と声をかけてくる女性でした。

    そんな彼女が、同じエレベーターに乗り合わせたUくんを見ると、突然、

    「あああ! Uさんの顔、初めてちゃんと見ちゃった。いつも下半分は本で隠れてるし」なんて言うのです。Uくんは、恥ずかしいやら困ったやらで、顔がカーッと赤くなってしまいました。

    「どうしたんですか、今日は?」
    「え、いや、その……バッグを替えたら、本を入れ忘れてしまって」
    「そうだったんですか。……やだぁ、Uさんの声、はじめて聞いちゃったかもしれない。なんだ、ちゃんとしゃべれるんですね」
    「えっ、あっ」
    「受付の女子の間で、けっこう話題になってたんですよ。Uさんの声を聞いたことがあるかどうかって。だって、アイサツしても笑って、ペコッてアタマはさげてくれるけど『おはよう』は言ってくれないじゃないですか」
    「あっ、えっ」
    「うちの先輩は、アイサツしても返事が聞こえないから悲しいよね。あの笑顔にはだまされない、どんな声をしてるのか知りたいって言ってますよ。飲み会とかにも絶対来てくれないし」
    「あっ、す、すみません」

    ふたりでエレベーターを降りて、気が付くと駅までの道を一緒に歩いていました。

    「実は私、いつかUさんの『おはようございます』を聞いてやろう、それを聞くまではどんなにスルーされてもアイサツしつづけるんだ! みたいな気持ちになってたんですよ。よかった、声聞いちゃった。先輩に自慢しよう」
    「……すみません」
    「そうですよ、ホント、失礼ですよ。アイサツされて、返さないのって。私たちは私たちで、朝からみんなに元気にアイサツして、気持ちよく仕事してもらえたら、とか思ってるんです。Uさんみたいに、こちらにまったく無関心ってけっこうショックなんですよ。うちの会社の飲み会のメール送っても、一度も来てくれないし」
    「いや、その、ホントに……すみません」
    「ホント、受付を業務委託してる子会社の飲み会なんて、出るヒマないかもしれないですけど、出られなくてごめんぐらい、言ってくれてもいいと思うな」
    「そうですか、それは、すみませんでした」
    「じゃ、来週の飲み会、参加してくれます?」
    「えええっ?」
    「メール送ってるのに、そういえばUさんから返事も来てなかったかも。あーあ、今回は私が幹事で、イロイロとタイヘンなのに」
    「すみません、わかりました。出席します」
    「やったー!」

    というわけでUくん、その翌日、職場に出社して受付を通る際、勇気を出して、

    「おはようございます」

    とアイサツをしてみたそうです。それから、飲み会のお知らせにも「出席」で返信したのでした。


    Uくん的には「相手にまったく無関心というのもショックなものですよ」っていうひと言に、自分自身もショックを受けたそうです。

    コミュニケーションを取るのが苦手と思っているから、なるべく誰とも話さないようにしていたら、ますます人とかかわるのが億劫になって……。時間の経過とともに、人とまじわらないことにも慣れて、周囲からは人に無関心と思われてしまうところまできていた。

    自分に対して無関心……という人に、声をかけても、ムシされるか、誘いを断られるかもしれない。だったら、何もしなければキズつかずに済む。

    というわけで、こちらが相手に無関心だと、いつの間にか相手からも無関心な対応をされてしまうことになりかねません。

    そうなると、どんどん悪循環をたどって、誰ともコミュニケーションを取らない、取りにくい状態になっていってしまうかもしれません。

    自分も、人に無関心かも? と思い当たるフシのある人は、まず、相手に関心を持ってみるところからはじめてみましょう。

    「おもしろそうだな」
    「こういうところがいいな」

    と、相手のいいところを探して、興味を持つことができれば、自然と相手の心も開いてくるものです。

    それで、新しい人間関係ができて、もしキズつくことがあっても、何もなかったときよりはいいかな、無関心で相手をキズつけるよりはいいかな、と考えてみる。最終的に、そんな気持ちになれたらいいんじゃないかと思います。ぜひ、新しい季節の新しい出会いを、ひとつひとつ大切にしていってほしいです。


    こんにちは、酒井冬雪です。私も、新しい出会いを大切にするよう……………できる限り、できる範囲で、がんばってみたいと思います。いえ、がんばります。では、またね。

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