二人で出かけたことのある女の子、彼女なのか彼女じゃないのか微妙な女の子との関係に、彼女の会話の方向に「困惑」を覚えた……という経験をお持ちの方は多いかと思います。

彼女はさっきまで、自分の失恋話をしていたのに、気が付いたら昨日観た映画の話になっていて、なんとかアタマを切り替えたら、また先ほどの元彼との恋愛の話……しかも、さっきまで、いい恋愛だったように聞こえた元彼との関係がどんなにひどかったかグチっている。

どうしよう、これってオレに失恋のつらい経験について悩みを打ち明けてるってことかな? 何か、うまいことを言ってなぐさめてあげないといけないかも! と考えて、やさしいことばやアドヴァイスを口にすると、おもむろにイヤな顔をされてしまった。

おまけに、

「○○くんって、いつもそう。自分はアタマがいいから、そんなくだらない悩みなんてあるわけがないみたいな……。人を見下してるっていうか、冷たいところがあるよね。みんながみんな、○○くんみたいにいつも冷静で強くいられるってわけじゃないんだよ。私の気持ち、わかんないよね」

と、怒られてしまったり。

自分はいったい、彼女に何と言えばよかったのか? というか、彼女は自分にどうしてほしくてこういう話をするのか? それがわからなくて困惑してしまう男性はきっと多いと思います。

もちろん「困惑」などせず、思ったまま、ありのままをすぐ口にできる剛毅な男性もいるかもしれませんが、そういった方は少数派であるはずです。


某飲料品メーカーで働くIくん(32才)は、最近、職場の後輩のSちゃん(27才)が、彼氏と別れた……というウワサを耳にしました。Iくんは、以前からSちゃんに好意を持っていましたが、いくら彼氏と別れたからといって、急接近するのも彼女の弱みにつけこむような気がします。

ですので、彼にできることといえば、落ち込んでいるようすの彼女を、ちょっとした仕事上のミスをさりげなくフォローするくらいのことしかできませんでした。

しかし、SちゃんはそんなIくんのやさしさに気づいたようで、あるとき、仕事の合い間に二人でランチを食べた際、

「プライベートな話をしてもいいですか……」
「いいけど……」
「実は私、学生時代から付き合ってた彼氏と別れたんです」

と言い出したのです。

つらいことを打ち明けてくれていると嬉しくなった反面、彼女と付き合っていた男の話をじっと聞くことができるだろうか嫉妬心も感じるIくん。ところが、Sちゃんは、

「それで、けっこう気持ちが滅入ってたんですけど……。Iさん、私の仕事を何気なく手伝ってくれてましたよね。なんか、Iさんのそういう行動に気が付いたら、落ち込んでる場合じゃないなって思えて……。ありがとうございました」

と、元彼の詳しい話などはせず、Iくんにお礼を言ってその話を終わりにしてしまったのでした。ほっとしたIくんは、自分でも驚いたことに、

「それは、前からSさんのこと、いいなって思ってたから」

とポロリと本音を言ってしまったのです。

赤面してうつむくSちゃん……。それから、SちゃんとIくんは、プライベートで二人で出かけるようになっていったのでした。二人で映画も観に行ったし、ドライヴにも出かけたし、土日は必ずどこかへ行くようになっているし、Iくん的には(ボクたち、付き合ってるよね)と考えるようになったある日のことです。

仕事帰りに、二人でお酒を飲みに行くと、少し酔ったSちゃんが、突然、

「彼のこと、やっぱりすごく好きだったみたい。他に好きな人ができたって言われてふられちゃったから、私は彼をキライになれなかったんですよね。向こうは私に対する気持ちがなくなって別れたんだろうけど、私はいきなり関係を断ち切られただけで……。私の中の彼を好きっていう気持ちは、変わってないような気がして」

なんていいだしたのです。

Iくんの中では、以前、彼女が、

(仕事のフォローをしてくれるIさんに気が付いたら、落ち込んでる場合じゃないなって思えて……)

と、ボクに言ったあのときから、元彼への彼女の気持ちは吹っ切れていると思っていたのでした。

ところが彼女は「他に好きな女の子ができた」と言ってSちゃんをふった元彼を忘れることができない。自分が他の人を好きになったり、彼を嫌いになって別れたわけではないから……と言う。

いったい、何が言いたいんだ。元彼の話をして、ボクを嫉妬させようとしているのか。(二人は付き合っている)とすっかり思い込んでいたボクに対して、暗に(私たちは付き合ってるわけじゃないのよ)と知らせようとしているということなのか。元彼を忘れられないという彼女に、いったい、どんな返答をすればいいだ。

すっかり困惑してしまったIくんでしたが、考えれば考えるほど、元彼の話をハッキリ聞かなかった自分にも、元彼を忘れられないと言いながら自分と会っている彼女にもハラが立ってきました。なので、

「そうなんだ。じゃあ、もう会わないほうがいいよ。ボクはSちゃんのことが好きだから、二人で会っているとどうしても期待を持ってしまうから」

と懸命に冷静を装って彼女に言いました。するとSちゃんは、

「そういうつもりで言ったわけじゃないのに。Iくんといると嬉しいし、私は一緒にいたいのに、どうしてわかってくれないの? Iくんは、自分の気持ちを押し付けてるだけなんじゃない?」

と、なんだかIくんが悪いことをしたかのように言って涙をポロリと流すのでした。

そんなこんながありましたが、けっきょく後日「やっぱりSちゃんが好きだから」とIくんが言うと、

「また今までどおりに会ってくれる?」とSちゃんは言い……ふたりはまた元の状態に戻ったそうです。しかし、いまだにIくんは、ボクたちは付き合っているのかどうか……肝心なポイントではお茶を濁されているような気がするのでした。


自分で自分の気持ちがわからない……ということはよくあるものです。とくに恋愛問題で……それまでノーマークだった男性が、自分のところにきてくれたというような状況のときは

(私は彼を好きなんだろうか)

と自問自答する女性は多いものです。女性の場合、苦手なタイプとは何度も二人きりで会ったりしないことが多いので、会ってもいいなと思う時点で、彼のことが嫌いではない可能性は高い。

けれど、その好きが、友人としての好きなのか、きょうだいのような好きなのか、同志としての好きなのか、男としての好きなのかは、なかなか判断がむずかしいところです。

男性としては、恋愛では早くシロクロハッキリさせたいところかと思いますが、そんな困った女性とのやりとりに悩んだりする。困った女の子のかわいさも「あり」かなと考えてみる。彼女の気持ちが固まるのを待ってみる。そんなふうに考えてくれると、女性としてはとても嬉しいなぁと思います。微妙でハッキリしない関係というのも、またおもしろいと思う私です。


酒井冬雪です。恋愛に限らず、何事においても、わりとシロクロハッキリさせたい性格です。しかし、年齢とともに「こういう考え方もあるだろうなぁ」とか「もう少し時間をおいてみよう」とか、悠長に考えるようになってきました。優柔不断になったのか、待てる時間が長くなったのか……。それがいいことなのか、よくないことなのかもわかりません。困ったものです。では、またね。