【コラム】

理系のための恋愛論

226 やさしさの配分

    酒井冬雪  [2006/10/20]

    女の子はよく男性に向かって「やさしい人が好き」とか「あなたからはやさしさが感じられない」ということを口にします。考えてみると、私もよく「やさしさがない」「あの人はやさしい」といっていることに気がつきました。

    彼女にだけやさしくしていれば「やさしい」男なのか? だれにでもやさしくしていれば「やさしい」と評価されるのか? 彼女にも他の世界中のだれにでも「やさしく」しなければいけないのか? 女の人の要求は、はかりしれない部分があります。

    どうやったら世界中のだれにでもやさしくできるのか? そう聞かれたら、私も何といって答えればいいのかわかりません。しかし、女の子は時々、そのようなむずかしい要求をぶつけてくる。ただ、そこで女の子のいうことを、すべて真に受けていてはいけないのです。大事なのは「配分」です。やさしさをどのように配分するか? そのあたりがわかっていれば「やさしくない」といわれることはなくなってくるような気がします。

    某製薬メーカーで働くHくん(29才)には妹がふたりいます。ひとりは昨年、社会人になったばかりで、いちばん下の妹はまだ大学生です。ふたりともお兄ちゃん子で、Hくんが学生のときから、デートの尾行をしたり、彼女といるときに、
    「飲み会の帰りだから、今すぐ六本木まで迎えにきて」
    とじゃまをしてきたりとやりたい放題。せっかく彼女ができても、
    「妹さんたちと私とどっちが大切なの?」
    「妹じゃなくて、私にやさしくするべきでしょう?」
    とケンカになり、うまくいかなくなる……ということが何度もありました。

    そんなHくんに、久しぶりに彼女ができました。お相手はAちゃん(25才)といって、取引先の病院の受付で働いている、とてもかわいい女の子です。

    Hくんの妹たちは、いつも兄に内緒で、こっそりケータイメールをチェックしているため、すぐにお兄ちゃんに彼女ができたことを察知しました。

    そこで、いつものように、ふたりでデートの待ち合わせ場所にこっそりと行って、お兄ちゃんの彼女がどんな人か見てみることに(気に食わない相手だったらじゃますることに)したのです。

    待ち合わせの場所で、Hくんが笑顔を向けたその相手、Aちゃんを見ると、ふたりの妹はがくぜんとしました。これまで、兄の彼女といえば、気が強くてワガママそうで、外見的にはあまりかわいいとはいえないタイプばかりだったのです……。

    ところが、Aちゃんはいつもと違い、小柄で美人でとてもおとなしそうなタイプです。

    ふたりは面食らってしまい、今日はこのあたりで退散しようとしましたが、いつも妹たちに尾行されてきたHくんは、キョロキョロと辺りを見回して妹たちをみつけると、
    「ほら、オマエたちもいっしょにメシ食いにいこう」
    と声をかけてきたのです。Aちゃんもうれしそうにニコニコして、
    「はじめまして、Aです」
    とアイサツなどしてくるので、調子を狂わされたふたりはイソイソと後をついていくことしかできませんでした。

    Hくんが予約をしていたらしいワインバーに入ると、Aちゃんは「○○○が飲みたい」とかわいい顔をHくんに見せて、ワインをパカパカと飲みはじめました。Hくんは、そんなAちゃんを見て、いかにも「かわいい」という顔をしてデレデレするばかりです。妹たちは(この人、もしかして、私たちよりぜんぜんウワテ?)と直感しましたが、案の定、その予感は当たっていました。その日は、Aちゃんがひとりでずーっとしゃべり、その場を仕切っておわったからです。

    「いいですよね。女の姉妹がいて。私は兄がふたりなんで、兄に甘えちゃう気持ちはよくわかります。Hさんの妹さんたちも、いつもデートの現場にあらわれちゃうって聞いてたんですけど、別にビックリしませんでした。お兄さんがどんな人を連れてくるか心配ですよね」
    「うちの兄ももちろん、私にやさしいんですけど、彼女にやさしくしてるのをみるとハラが立っちゃって。兄をとられたみたいな気持ち? 彼女と私とどっちのワガママを聞いてくれるのか試してみたくなって、ワガママ合戦したこともあったりして」
    「だから、Hさんみたいに妹さんのいるお兄さんタイプの人といるとホッとするんですよね。Hさんの気持ちもわかるし、妹さんたちの気持ちもわかるから。これからも、デートにいっしょに来てくださいね。仲良くしたいんです」

    などとAちゃんに先手、先手を取られ、すっかり毒気を抜かれてしまった妹たちでした。 ふたりは、家に帰ってから、兄であるHくんに、
    「お兄ちゃん。あの彼女は、きっと私たち以上に兄にやさしくされ、甘やかされてきてタイヘンな人だと思う……。もう、私たちはじゃましないから、気が済むまで彼女にやさしくしてあげて」
    といったのでした。

    Hくんはこれまで、本来なら彼女に向けなければいけなかったやさしさまでも、妹たちに向けていた(吸い取られていたともいう)ため、彼女との付き合いがうまくいかなかったわけです。たぶん、彼女7 : 妹3くらいの配分にすればいいところを、彼女2 : 妹8ぐらいにしていたのでしょう。

    ところが、新しい彼女Aちゃんに関しては、妹たちもあきらめの姿勢をみせてくれたため、今度は彼女にやさしさを向けることが可能となり、何とかうまくいきそうである……という。

    男性はたいてい、やさしさにみちあふれている人が多いもの。けれど、その「配分」をわかっておらず、母親と女姉妹、彼女に平等にやさしさを分けてしまったり、どこかに傾いてやさしさを注いだりしてしまいがちです。彼女に「やさしくない」と怒られてばかりいる人は、やさしさをあたえる配分をちょっと変えさえすれば、イロイロなことがうまくいくはずです。

    また、実はやさしさの配分はかえていないんだけれど、ことばで「いちばん大事なのは○○ちゃんだよ」「母さんはわかってくれるよね」などとフォローを入れることで、配分をかえたようにみせるという方法もありますので、ぜひともうまく立ち回って、女性全般から「やさしい人」といわれる男になってほしいと思います。


    酒井冬雪です。私は誰にでもやさしいタイプの男性が好きです。それで、誰にでもやさしいことを責めたりしてみるのが好き。要するに、意地悪なのかもしれません。この私の意地悪ぶりをどのようにかわしてくれるのか? 男性の対処の仕方をみるのが好き……。女って怖いですね。では、また来週。

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