【コラム】

理系のための恋愛論

200 連載200回達成記念スペシャル企画「対談・土屋賢二」(1)

    酒井冬雪  [2006/02/18]

    いったいどうなっているんだ? という感じですが、「理系のための恋愛論」は連載200回を迎えてしまいました(心の中でひとり拍手)。このコラムも、何人かの編集者さんが担当してくれましたが、現在は「若くてかわいい女の子がいい」という私の希望(オヤジか?)がかなって、Kちゃんが編集をしてくれています。

    さすが、若い娘さんだけあって大胆で「200回記念はパーッとやりましょう」といって、平松昭子さんにイラストを描いてもらい、その上、大好きな土屋賢二先生との対談をセッティング。私とKちゃんが趣味に走っただけではないか? こんなことがゆるされるのか? と密かに心配になった私ですが、すべての提案が編集部に受け入れられたので、とにかく特大スペシャルでお送りいたします。

    ではさっそく、土屋賢二先生にお越しいただいて、恋愛ってしたほうがいいのか? なぜ恋愛をしたほうがいいのか? それでは結婚は? などなど、恋愛のすすめをテーマにあれこれ、ざっくばらんにお話ししていきたいと思います。

    「自分っていう存在は、ものすごく重大だ」と思うオトコ

    [プロフィール]
    土屋賢二 1944年岡山県生まれ。"笑う哲学者"と呼ばれる、お茶の水女子大学名物教授。主な著書に『われ笑う、ゆえにわれあり』(文藝春秋)、『哲学者かく笑えり』(講談社)、『ツチヤ教授の哲学講義』(岩波書店)、『ソクラテスの口説き方』(文藝春秋)、『ツチヤの口車』(文藝春秋)など。

    土屋)女の人って、外見が優しい感じがするんですよ。どうしてなのかは知らないですけれども。だから、そこなんかものすごく汚いな、と思うんですよ(笑)。

    酒井)ええー(笑)。いきなりですか。

    土屋)きれいな花を咲かせておいて、虫をおびき寄せるとかね。そんな花、ありますよね。そういう感じがするんですよ。

    酒井)すごいトゲがあったり。

    土屋)そうですね。ものすごく誤解を与えるようにできていますよね。男はけっこう、見るからに強そうなんですが、本当は全然強くないですよね。それはもう十分おわかりだと思いますけれど。

    酒井)だから男性は、きれいな花だったはずの妻が怖くなったり、仕事が早く終わっても、外で飲んで帰宅を遅らせたりするんですよね。

    ---ウチの読者も、そういう人がすごく多いんですよ。クリスマスにやることがない、とか。

    土屋)なんか寂しいなあ。

    酒井)2005年のクリスマスも連載は休みじゃなかったんですけれど、「サカイさんも仕事してるんだ、仲間だ」とか喜ばれましたね。

    ---喜んでますね。「どうやったら彼女ができるんですか?」、なんて問いかけも多いです。具体的な方法を示してもらわないと、自分では考えられないっていう。

    土屋)やっぱり彼女はいたほうがいいと思うんですよね。彼女のいない男の人生って、"健康にいいタバコ"みたいなもので。スリルも何にもないというか、悪いところもなく、何かつまらないというか……。

    酒井)悪いところって(笑)。

    土屋)不幸も何もないのは、つまらないような気がするんです。

    酒井)なんで私の顔を見て笑うんですか(笑)?

    土屋)何か、まともに話をするのがバカらしくなってきたから(笑)。「恋愛のすすめ」なんて言ってても、実際は「不幸になれ」みたいな感じで(笑)。けれどもまあ、人間はね、不幸も味わわなきゃいけないと思うんですよ。

    酒井)たぶん、ほとんどの女の人が、最初は美しい女の子でいてくれますよね。

    土屋)それも幻想ですよね。とにかく僕が思うに男って、理系の人もそうだと思いますけれど、幻想が多すぎて、自分の世界に入り込みすぎてますよね。だから、僕は恋愛をしたほうがいいと思います。なぜ恋愛ができないかというと、その人の人間性のようなものと関係があるんじゃないかと思うんです。男は、「自分っていう存在がものすごく重大だ」みたいに考えていて、そして「自分は尊敬されて当然だ」みたいに思ってるんですよ。男ってすごくプライドがありますから、それはどんな人でも、少しはそういうふうに思ってるんですよ。

    酒井)そうですね。なんか自意識過剰? とか思いますね。

    土屋)だけど、実際に女は男を重大には扱わないでしょ。それで傷ついてしまうことがあるんじゃないかな。特に僕、日本の男はそれが大きいんじゃないかと思うんですよ。僕はちょっとの間、イギリスに行っていたことがあるんですね。イギリスに行くと、日本の女性はみんな「イギリスの男はいい」って言うんですよ。「とくに中年の男がいい」って。「どこがいいんだ?」と言ったら、みんな「謙虚だし優しい」って言うんですよね。

    酒井)海外旅行に行くと、「欧米の男性はやさしいー」と思いますね。

    土屋)僕、イギリス人に「日本の男と、日本の女をどう思うか?」って聞いたんです。そしたら、「日本の女はすごい感じがいい」って言うんですよ。「本当によく気がつくし、かわいいし」って。でも「日本の男は最低だ」って言うんです。「どういうふうに最低なんですか?」って聞いたら、日本にいたイギリス人なんかも「とにかく日本の男は女に対して威張りすぎだ」って言うんです。「たいして威張る材料もないくせに威張っている」って。で、「自分の荷物なんかでも女房に持たせたりとか、いろんなことをしてもらったりするのに、わけもなく威張っているからすごく腹が立つ」って言うんですよ。

    酒井)そうそう。

    土屋)例えば、日本人を家に呼んで、ホストが「こういうことについてはどうなんですか?」と話を振ったとしても、日本の男は腕組みをしたまま、「イエス」とかなんとか言って、終わってしまうんだそうです。だからもう、「日本人の男は本当に腹立たしい」と言うんです。それは、僕が会ったイギリス人みんなが、口をそろえて言っていましたよ。「それは違う」って僕は抗議したんですけれどね、「日本の女にもひどい人はいる」なんて言って(笑)。

    酒井)私みたいな(笑)。

    日本の男は"モテない仕様"で育てられている?

    土屋)やっぱりね、日本の男って、親が大事に育てすぎるんじゃないかと思うんです。だから自分を客観的に見ることができなくて、自分の思い込みで生きていて……。例えば、親が息子をどういうふうに育てるのかというと、たぶん、学校の成績がいいとほめる。けれども、対人関係で人に優しくするとか、「こういうときには、こういうふうに思いやりを見せないといけない」とか、そういう教育をあんまりしてないんじゃないかと思うんですね。ただ、「成績さえよければいい」っていうような……。

    酒井)それは、私の息子に対する態度でも思い当たるフシがあります。どうしても、男の子ってこう、「勉強ができればいいわ」とか、「スポーツができればいいわ」、となってしまいがちです。「あ、この子勉強できる」となったら、もう塾にガーッと入れて、「サッカーをしたい」と言われたら、それならスクールに入れて7時まで帰ってこないわね、みたいな。男の子は何かができればそれでOK、なんて考えて、家にいる時間を減らして、ほったらかしちゃうんですよね。

    土屋)そうそうそう。

    酒井)周りをみても、男の子の育て方に関しては、勝手にやってもらおう! と放任するか、送り迎えまでして追いかけまわして過干渉になるか、どちらかのような気がします。勉強やスポーツは、塾やスクールで勝手に習ってくるからいいけれど、「家事をしろ」とか、「女の子にはこういう言葉遣いをしちゃいけない」とか、「お年寄りには親切に」とか、そういうことを一から教えるのは面倒なんですよ。だって、女の子は教えなくても「手伝うね?」って気が付いてくれるんだから。

    土屋)そうそう、女の子は気がつくんですよ。

    酒井)でも男の子って、なんでそうしなきゃいけないかのか、っていうところから説明しなきゃ、わからないんですよね。それってすごく面倒くさいし、「なんでここまで言わせるんだ」、なんて腹も立ちます。でも、一応私は、息子ができたときに、「モテる男に育てよう」という目標をたてたんです。彼が自分の足で立つようになると、オムツを入れたリュックを背負わせて、「荷物は自分で持て」と。あとは、息子と一緒に信号待ちをしていたときの話なんですが、横にOLさんとサラリーマンがいたんです。送別会か何かがあったんでしょうね、花束や荷物を女の子がたくさん持っているのに、同年代っぽい男の子が、平気で手ぶらで立っていたんですよ。そういうときは、すかさず息子に「見てごらんなさい。女の子に平気で荷物を持たせて、みっともない男たちがいっぱいいるから。あなたはあんな男になっちゃダメよ」「うん、ママ」みたいな(笑)。

    土屋)(笑)。でも、それは本当に正しい意見ですよね。そういうことをみっともないと思う感覚がないといけないんですよ。

    酒井)電車でも、子どもを抱っこしてフラフラしている女性がいるのに、席を譲ってくれない元気そうな男の人がいっぱいいますよね。そういうときには、「あなたは困ってる人を見ても何とも思わない、バカで無神経な男にだけはならないでね」って息子に言いきかせるんです。そうすると、みんなガーッとタヌキ寝入り(笑)。逆にギャルっぽい女の子や、若い男の子のほうが、親切にさっと席をゆずってくれますね。

    土屋)酒井さんは、ものすごいスパルタ教育ですね(笑)。でもたぶんね、欧米でもそういう教育の仕方はしていると思いますよ。やっぱり、日本だけが特別なんだと思います。男はもう仕事さえできればいい、みたいな。だから、理系で人付き合いが苦手だという人は、だいたいがそういう育てられ方をされているんじゃないでしょうか。欧米では、ものすごく仕事ができる人や、大スターが、ちょっとでもおかしなことをすると、普通の人よりも、ものすごくバカにされるんですよね。

    酒井)はい。

    土屋)だから彼らは、常に社会意識をちゃんと持っていて、どんなに大スターで人気があっても、ボランティアや、それに近いことをやっていますよね。やらないと許されないというか、みんなの視線が怖いというか。欧米は、そういう社会じゃないかと思うんですよ。だから、そこへ日本の男が入っていくと、「なんだあれは」とか、「なんて無神経なのか」とか、「なんて思いやりのない奴なんだ」とか(笑)、そういうふうに思われると思う。やっぱり人として、「ちゃんとした人間に育てる」のが大事ですよね。

    酒井)本当ですよね。でも、塾に行って、中学から受験をして……なんていう子どもは、「勉強をこれだけやったんだから俺は偉いんだ」って、そう思っちゃうほど勉強させられてますよね。

    土屋)そうですよね。

    酒井)読者の方でも、「あれ、僕は中高一貫の××校から、○○大学の□□学部を出て、△△会社で働いているのに、なんで彼女できないのかな?」と、フシギに思っている人が、中にはいるんじゃないかと思います。

    土屋)社会全体がそういう感じになってますよね。とにかく仕事ができればいいとされていて、歌手でも芸能人でも、とにかく何かができれば、さほど人間性は問われないんですよね。だから、基本的なことができていない人が多いんであって。でもやっぱりそれは、世界の中では通用しないと思うんですよ。育ち方もそうですけれど、社会に出て、会社で評価されるのは、まあ人間性よりも仕事の能力、なんてそういう社会だから、なかなか自分の欠点に気づかないことが多いと思うんですよね。それに唯一気づけるチャンスが、恋愛じゃないかと思うんですよ。

    酒井)そうなんです。だから恋愛したほうがいいんですよね。

    「カッコよく見えてるかな、オレ?」症候群

    土屋)恋愛をすると、女っていうのは、ものすごく批判をする能力が発達しますよね……(笑)。

    酒井)(大爆笑)。

    土屋)もう本当に、頭から男をバカにしますからね。一人の男として、人間としてどうなのかを評価する。思いやりがないと、「なんだこの男は」ってなる。だけど、男のほうは全くわかってないんですよね。だから「どうすればモテるのか」と思って男の雑誌を見ても、ものすごくくだらないことしか書いてないんですよ。「服装はこういうふうにして」とか、「こういうときはこういうしゃべり方をして」とか、「プレゼントにはこういうものを贈って」とか。そんなようなことしか書いてないんですけど。また女の気持ちに関してもね、「髪をこうやってかき上げてると……」。

    酒井)気のある証拠だとか(笑)。

    土屋)「足をこう組み替えると気がある」、とかね。そんなことしか書いてないんですよ。そんなの信じるほうがバカげてると思うんですけれど。

    酒井)でも、彼女とデートをするときに「何を参考にしてますか?」と聞くと、「雑誌」と答える人がとても多いですね。

    土屋)理系の人は、とくにマニュアルに頼る傾向があるんじゃないですかね。それだけ、人間というものをわかってないんですよね。自分をふくめて、女の子が何を求めているのか、それから、今どういう気持ちでいるのか、考える習慣がないんですよ。まあ、考えてもよくわからないんですけれど、女の人の気持ちはね(笑)。

    酒井)結構多いですよ。「批判されて、もう耐えられない。つらすぎるから恋愛はもういい」っていう人。私はやっぱり、「女の子の気持ちを考えても無駄なんだな」ということを、恋愛をする上で男の子に学んでほしいと思っているんです。「この人は何を考えているんだろうか」とか、「なんで怒っちゃったんだろうか」とか、考えてもわからないし、本人に聞いてもよくわからないから、もうつらすぎるっていう気持ちはわかります。でも、そういった批判や拒絶を体験しないと、「何を考えているのかわからないから、気にするのはやめよう」って、「悟る瞬間」がやってこないと思うんです。

    土屋)それはそうですよね。

    酒井)そうしないと、「なんで怒られちゃったの?」とずっと考え続けて、本人に何度も聞き続けちゃう、とかね(笑)。「もう、それは一番やっちゃいけないのに」と思うのに、「でも納得のいく論理的な答えが返ってこないから。だから女の人はいやだ……」みたいな。

    土屋)僕も、何度痛い目に会ったことかと思いますけれどね(笑)。でも今にして思うと、こうだと思うんですよ。女の人を好きになると、まず最初にね、その女の人を喜ばせたいとか、この女の人はどうやったら幸せになるのかとか、その女の人のために何かしてやろうと思うわけですよね。

    酒井)まあ、ステキです。

    土屋)自分のことよりも、女の人がどうしてほしいのか、そっちを考えるべきじゃないかと思うんですよ。でも、若いうちはどうしても、自分のほうに目が向かってしまう。例えば「フラれたらどうしようか」、とかね。自分がどうなるのか、ということしか考えられないんですよ。相手の気持ちになる、思いやりを持つということが、根本的に欠けている。だから、なかなか女の人とも話せない状態になるんじゃないかと思うんですよね。

    酒井)自分をどうアピールするか、自分をどう守るか。そんなことばかり心配しちゃう男の子は多いですよね。

    土屋)自然に考えたら、自分の好きな人に「愛してます!」、なんて激烈な調子で最初から言っても、引かれるだろうなとか、迷惑するだろうなとか、わかりますよね。

    酒井)でも、「カッコよく見えてるかな、オレ?」みたいなほうに行っちゃう。

    土屋)そうですね。好意を持ってこういうことを言えば、別に悪い気はしないだろうな、ということはたぶんわかる。だからその人のことを大事にしたいと思ったら、大事にすればいいんじゃないかな、と思うんですけれど。

    酒井)それから、最近まわりの女性を見てても思うんですけれど、"男の子に求めるもの"が変わってきましたよね。例えば男の子が、「自分はこんな会社に勤めてて、大学はどこ出身で、お父さんはこんなにえらい。これ以上何がほしいわけ?」と思っているとします。でも女の子は、「そうじゃない。いかに私を面白くしてくれるの?」みたいな、これまた難しい要求をするんです。

    土屋)そうそう。女も悪いですよね(笑)。女性も相当賢いんだから、男が何を考えているのか、すぐにわかると思うんですよ。だから、もうちょっと寛容にというか、哀れみの目を持って、なんて思います。プレゼントは何万円以上のものじゃなきゃいけないとか、そんな難しいことをいわなくてもね?

    酒井)私なんかは、「自分を面白くしてくれる男より、面白い方向に持っていきやすい、いじりやすい男の子のほうがいいんじゃないの」と思っています。「私の人生を面白くしてくれないの? 一緒にいてもつまらない」と文句をいうより、自分で彼をいじって、面白いヤツにしてしまえばいい、みたいな。だから、読者の方に「どうせ女の人が求めているのは、お金とか学歴ですよね」といわれても、今は違うんだよね、そういうものよりも、もっと難しくなってきちゃっている……と思います。

    土屋)そうですね。高いプレゼントだけじゃなくて、それをどういうふうに効果的に贈るかとか、面白いことを言わなければいけないかとか。だいたいモテる男を見ると、だいたい面白いことを言うか、かっこいいか、どっちかなんですよ。まあ、若いうちはね。

    酒井)(笑)。

    (イラスト=平松昭子、撮影=中村浩二)


    話が盛り上がっているところで何なのですが、盛り上がりすぎて長くなってしまったので、また来週につづきます。次回まで待ち切れない! とソワソワした気持ちになったあなた、ぜひ土屋先生の著書を読んで、一週間を楽しくすごしてください。

    ところで、私事で恐縮ですが、OCNさんとMYCOM PC WEBの編集長、デザイナーの岡さんのご協力により、2月14日からブログ「No Milk Today by Sakai Fuyuki」をはじめました。恋愛とは関係のない話ばかりですが、ご興味のある方は、ぜひ見にいってください。ただし、今後、男子禁制の日というのが出てくる予定なので、男子の方はその日は立ち入り禁止になります。ご了承ください。それでは、またね。

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