【コラム】

理系のための恋愛論

4 ぼくは理想が高いんです

    酒井冬雪  [2000/08/04]

    ずいぶん長い時間彼女がいない男性。いわゆる結婚適齢期をだいぶすぎていて、本人的にも結婚したいなあと思ってお見合いしたりもしているのに、なかなか結婚しない男性に、「どうして、出会いの機会があっても、試しにおつきあいしてみないの?」と聞いてみると、みなさんそれぞれに、イロイロな意見を教えてくれるのですが、最後に必ず、
    「けっきょく、ぼくは理想が高すぎるのかもしれませんね」
    とタメ息まじりでいうのです。

    今回は「理想が高い」って、いったいどうことなのか考えてみたいと思います。

    Uちゃんは、某アパレルメーカーの総務部で働く29歳。彼女の会社には、定期的にパソコンのシステムを組んでくれるシステムエンジニアさんが出入りしていました。エンジニアのDくん(28歳)は、とりたててハンサムというわけではいけれど、物腰やわらかで清潔感のある好青年です。

    Uちゃんは総務部という仕事がら社内の後輩たちに、
    「Dくんっていいですよね。彼女いるとかUさん知ってます?」
    と聞かれることもたびたびです。

    けれど、社外の人にいきなりそんなプライベイトな話を聞くのも失礼だしなあ…と考えるUちゃんは、Dくんとはほとんど仕事に関する話しかしたことがなかったのでした。そんなある日、Uちゃんは同じ総務部の後輩の女のコからこんな話を聞きました。

    「Uさん、知ってました? うちの会社の女のコ、3人くらい、Dくんのことデートに誘ったりして『好き』とか『つきあって』とか言い寄ったみたいなんですけど、みんなフラれまくってるらしいんですよーっ」
    「えーっ? ウソでしょ? 彼ってそんなに人気あるわけ?」
    「だって、わかるような気しませんか。うちの会社の男のコたちって、みんなたしかにおしゃれだけど、ちょっとヘンだったりナル入ってたりするし。紺のスーツ着て、ネクタイをピシッとしめたさわやかなフツウの男の人は、そういう中では目立って新鮮に見えちゃうみたいな」
    「ふーん、そういうもんかな?」
    「絶対そうですよ。しかも、ここだけの話ですけど、彼にふられたのって、○○ちゃんと△△ちゃんと、◇◇さんなんですよ」
    「ウソっっ? 彼女たちが?」

    Uちゃんは驚きました。Dくんがふった女性たちは社内でも、顔がかわいいこと、おしゃれなこと、本当かどうかは知らないけれど、男性問題に関してやり手と評判が高いことで有名な女性陣だったのです。
    「ホントですって。あたし、△△ちゃんから直接聞いたんですよ。Uさん、今度仕事のことでDくんと打ち合わせするとき、絶対彼に聞いてみてくださいよ。彼女いるかどうか」
    というようなことがあってからしばらくしたとき、UちゃんはDくんと、仕事の件で夕方打ち合わせをする機会に恵まれました。

    打ち合わせが簡単に終わると、驚いたことに、Dくんのほうから、
    「Uさん、すみません、今日これから何か用事がありますか?」
    と聞かれました。
    「ううん、今日は特に何もないけど」
    「もし都合がよろしければ、いっしょにメシでも食いませんか?」これは彼のプライベイトをイロイロ聞き出すチャンスと思ったUちゃんは、Dくんとともに会社を後にしました。こじんまりとした静かな和風居酒屋に入って、すこしお酒を飲んでから、Uちゃんは話を切り出しました。
    「ねえ、Dさんって彼女いるんですか?」
    Dくんはいっしゅん困った顔をしましたが「いえ、今はいないんです」
    と正直に教えてくれました。そして、
    「もしかして、Uさん、何かお聞きになりました?」
    「うん、ちらっとね、何だか、うちの会社でモテてるみたいなことをね」
    「そんな、モテてるなんて、そんなことありませんよっ」
    それからは、彼の独壇場でした。
    「試しにつきあって、相手がぼくを好きになってくれたのに、自分は彼女を好きになれないと申し訳なくなって」
    だとか、
    「女性とつきあって、仕事とわたしとどっちが大切なの? なんてくだらないことをいわれると面倒になってしまうんです」
    だとか、
    「彼女いない歴3年近いんですけど、長いこと何でもひとりでやってると、突然、だれかに意見を求めたり、取り入れたりすることがどんどん億劫になっちゃうんですよね」
    だとか、いったあげく、Dくんもけっきょく、
    「ぼくって、理想が高いんですかね?」
    と、いったのだそうです。

    「理想が高いのかな?」
    というのは、実は男性だけではなく女性もよくつかうことばです。
    「理想が高いから、なかなか運命の人に出会えない。まだ出会っていない」

    けれどわたしは、理想が高いっていうのはだれかと深くかかわるつもりがない自分を守るための言い訳のような気がしています。だから「理想が高い」という主張にはあまり注目したくありません。

    ただ、Dくんの、何でもひとりでやってると、だれかに意見を求めたり、取り入れたりすることがどんどん億劫になる、この意見には自分自身を振り返りつつ、非常に注目したいところです。

    だれかといっしょにいるというのは、たとえばお茶をいっぱい飲むだけのことでも、「おいしいね」「この湯のみ、いいでしょう? 会社の帰りに買っちゃったんだ」というような会話を生むことになります。

    ところが、ひとりだとそういった会話も発生しなければ、ひとつの湯のみを見て、「こういうの好き」「ぼくもそういうのわりと好き」といったやりとりもない。ただ、自分の好きなものを選んで淡々と楽しむだけ。

    若いときには、あるていどそういう時間も必要(今はそれすらしない人もいっぱいいますしね)な気がするのですが、ある時期をこえたら、今度はだれかといっしょに好きなものを選んだり考えたりする時間も必要なのではないか、それがけっこう大事なことなのではないでしょうか。

    恋愛することの楽しさというのは、ひとりの人と小さなことで意見のやりとりをする、それの積み重ねで生まれるものじゃないかしら。

    ですから「理想が高い」といえる自分に満足して、そこでとどまらないでほしいなって思います。試しにデイトに出かけてみようかな、と決意して、シャツやネクタイまで吟味する、そういう行動を起こすことこそが、あなたをもっともっとステキな男にする要因になるのではないかとわたしは考えるのです。

    こんにちは、酒井冬雪です。暑いのは苦手、でもクーラーも苦手なので、エアコンもつけずに家で仕事をしています。あんまり暑すぎるのって、パソコンによくないのかな? もうすぐ、お盆。楽しい夏休みをすごしてくださいね。楽しい夏休みがない方、いっしょに仕事をがんばりましょう!

    酒井冬雪
    fuyukies@pc.mycom.co.jp

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