オールドレンズを利用できるのは、RD-1の醍醐味

マイクロフォーサーズやソニー「NEXシリーズ」といったミラーレスデジタル一眼が発売されてから、アダプタを利用してオールドレンズを使う撮影もポピュラーになってきた。しかし、ライカのビンテージレンズやオールドレンズも含めたライカマウントのレンズをデジタルの世界に蘇らせるきっかけとなったのは、2004年にエプソンから発売されたレンジファインダカメラ初代R-D1だ。その後、ライカからライカM8、そしてフルサイズイメージセンサのライカM9が発売となり、過去70年以上に及ぶ魅力的なレンズ群が利用できるようになった。そして、R-D1も初代からブラッシュアップを繰り返し、現行のR-D1xGまで3代に渡り進化してきた。

しかし、そもそもキヤノンやニコンのような生粋のカメラメーカーではないエプソンはレンズを発売しておらず、R-D1には標準レンズやセットレンズというものがない(フォクトレンダーとのセットは限定で発売されたことはある)。従って、レンズを新品で買うとなると、ライカかフォクトレンダー、カールツァイスのいずれかになるのだが、これらを使うためにRD-1をわざわざ購入する人は、それほど多くはないだろう。ライカMマウントと互換のあるEMマウント搭載のRD-1の魅力はオールドレンズを利用できる点だといえる。

ZMマウントのフォクトレンダーレンズ。こちらもライカMマウント互換である

ライカLマウント、Mマウントには100年の歴史

とはいえ、一口にライカマウントのオールドレンズといっても、そのカテゴリは広い。戦前のドイツ・ライツ社のものや、戦後にマウントがバヨネット式に変更となったものなどは当然のこと、デジタル対応(といってもマウント部にレンズを識別するためのコードが印刷されているだけで、オートフォーカスなどになっているわけではない)以前のものは皆オールドレンズの範疇に入るだろう。これに加えて、戦後の日本復興を担った精密機器の主力輸出品ともいえるカメラ、そのうちレンズ交換式レンジファインダカメラにもLマウントのものが多く、さらに、冷戦下で旧東ドイツから技術移転したソ連製のものにもライカマウントのレンズが存在する。

このようにライカマウントのオールドレンズは数多く存在するため、価格もまさにピンキリだ。数千円で購入できる旧ソビエト製のレンズもあれば、数十万円するライカ製レンズもあり、レンズのコンディションまで考えるとバリエーションは無限大。しかも中古市場は基本的に一点もののため、探している時にそのレンズが市場に出ていなければ手に入れることすらできない。

こういった選択肢の中から、ごく普通の趣味人である筆者が選んだライカレンズは「ズマロン35mm/F3.5」と「ライツエルマー50mm/F3.5」の2本。さらに、ZORKIという旧ソビエト製のレンジファインダ式フィルムカメラに付属していた「インダスター50mm」、同じく旧ソビエト製レンズの「ジュピター8/50mm」を持っている。他にもキヤノン製のLマウントレンズもあるが、主に使っているオールドレンズはこの4本になる。筆者が所有する先述のライカレンズはいずれも、ライカとしては非常に安い部類にはいる。どちらも、中古カメラ店やインターネットオークションで購入したが、3万円程度で入手できた(旧ソ連製のものはどちらも数千円)。

ライカ ズマロン35mm/F3.5(左)と、ライツエルマー50mm/F3.5(右)

ちなみに、マイクロフォーサーズでオールドレンズを使用する場合は、換算焦点距離が2倍となるため、28mmレンズが56mmの標準レンズ相当、比較的ポピュラーな35mmが70mmの中望遠、50mmの標準レンズに至っては100mm相当と、とてもレンズを常に装着しておけるものではない。したがって率直な話、マイクロフォーサーズのカメラにオールドレンズを装着するのは、ファッションとしては見栄えがよいが、実用性は高くないといえる。もちろん、APS-Cサイズの撮影素子を持つR-D1の場合でも、換算焦点距離は約1.5倍になるが、35mmが50mm標準レンズ相当として使えるのでオールドレンズでも常用でき、50mmレンズは80mm相当のポートレート用レンズとしても使える。換算1.3倍のライカM8や、35mmフルサイズのイメージセンサを搭載するライカM9には敵わないものの、RD-1はマイクロフォーサーズと比べてオールドレンズが使いやすい方だといえるだろう。

お手ごろ価格のレンズの写りは?

さて、3万から5万程度で購入できるレンズの写りはどうだろうか。正直に言えば、このクラスではライカの名玉といわれるズミクロンなどと比較してもしょうがない部分がある。人気のレンズにはそれなりの理由があり、人気が高い故に価格も高い。「手頃な価格で購入できるレンズには、別の楽しみがあると思ったほうがよい」と中古カメラ店でも言われたことがある。

それでも、50年前には今よりも高い価格がついていたものもあり、現代のコンピュータ設計のマルチコートレンズとは異なる古い時代の写りを楽しんだり、ガラス材の違いによる発色の違いを試してみるといった遊びもできるだろう。

古いレンズだと、カラーの撮影に向かないのでは? という意見もあるが、1952年製のズマロン35mmで撮影した青空は、きちんと青い。東京の空がここまで青いことすら珍しいが、ビルのガラスへの写り込みのシックさなどは現代のレンズと十分に比較できる

ただし、開放に近い場合は、周辺にかなりの収差がでる場合もある。細かな被写体を正確に撮影したい時にはある程度絞るなどの、以前は「常識」だったような写真撮影が必要だ

フォクトレンダーCOLOR SKOPAR(いずれも左)とズマロン(いずれも右)

比較的近距離で同じ35mmのフォクトレンダーCOLOR SKOPAR(左)とズマロン(右)との撮影比較。色味は若干異なるが、どちらも十分に写りがよい。ただし、晴天下の写真では、フォクトレンダーのほうがコントラストが高い感じがあり、ズマロンの写真は「昭和な写真」の匂いがする

お手ごろオールドレンズ! 西ドイツvsソ連、冷戦対決

オールドレンズには、ロシアカメラ、ロシアレンズというジャンルがある。旧ソ連で生産されたレンズやカメラが旧ソビエトの崩壊後、安価に西側諸国に流れてきたものだ。第二次世界大戦後にドイツが東西に分割され、カールツァイスなどの技術が旧ソ連に移転したため、素晴らしい性能のレンズやカメラがあるとされる一方で、旧ソビエトの末期には技術力が落ち、品質にはかなりの問題があるものも。数千円で買えるレンズもあるが、価格相応だったり、意外に良いレンズだったりするのはこのためだ。

モスクワ郊外のクラスノゴールスク機械工場(略称KMZ)で製造されていた、Lマウントのフィルムカメラ「ZORK 4」。インダスター50mm付きのものをオークションで1万円で落札

ここでは、数千円で購入した「ジュピター8 50mm F2.0」(カールツァイスゾナーのデッドコピーといわれている)と、3万円程度で購入した西ドイツ製の「ライカ エルマー50mm F3.5(通称:赤エルマー)」で遠景の撮り比べをしてみた。

50mmのジュピター8(左)と赤エルマー(右)。ロシアレンズには「インダスター22」というエルマーによく似たレンズがあるが、インダスター22はエルマーのコピーではなく、テッサーのコピーといわれている。ロシアレンズも奥が深い...…

左がエルマー、右がジュピター8で撮影した遠景。どちらもF8に絞って撮影した。ロシアレンズの中でも性能のよい部類といわれているジュピター8だけに、ライカエルマーとはほぼ互角の解像度だ