ライカのレンズをデジタルカメラで使用するには

デジタルカメラを選ぶ際にある意味特殊なカメラともいえるエプソンの「R-D1」を購入する動機はなんだろう? 代表的なのとしては、もともとバルナックライカやM型ライカを使っていた人が、デジタルに移行するにあたって所有しているレンズを活かすためにR-D1を買うケースと、逆にライカをはじめとするオールドレンズに憧れ、それを取り付けるボディとしてR-D1を選ぶケースが考えられる。しかし、それにしても30万円近いこのカメラ。趣味で購入するにはちょっと贅沢な気がする。

筆者の現在の愛機である「R-D1xG」にライカのズマロン f3.5/35mmを装着したところ。古いレンズだが、憧れのライカ純正レンズがデジタルカメラで使用できるのはうれしい

しかし、アナログ時代からのライカユーザーは、レンズをそれなりに所有しているだろうし、そもそもボディやレンズの価格に対する相場感が一般的なカメラのユーザーと比較して遥かに高額なので、ライカブランドではないにしてもレンズがそのまま利用できるR-D1は逆に安いのかもしれない。なにせライカのデジタルボディであるM8.2は実売で70万円後半、M8は60万円後半もする。レンズもズマリットM f2.5/35mmで20万円弱、ズミクロンM f2/35mmで30万円前後、ズミルックスM f1.4/35mmで45万円前後もするのだ。

さすがにここまで高価だと一般のユーザーにはハードルが高い。だが、写真好きならば一度はライカの製品を使用してみたいと思う時期があるものだ。特にレンズには憧れが強い。そこで、アナログの時代にはロシア製のライカコピーのボディが2万円から3万円で購入して、後は古い中古のライカレンズと組み合わせるという方法があった。コピーでなくてもバルナックライカの中古やコシナ(フォクトレンダー)のベッサの新品を買っても10万円で収まる。ボディに対するブランド力や精度、堅牢性の違いはあってもライカのレンズが装着できるボディをなんとか入手すれば楽しむことはできたのである。

ところが、デジタルの時代になって、ライカLおよびMのマウントのレンズを利用するためのレンジファインダカメラの選択肢が極端に狭くなってしまった。レンジファインダで現在対応しているのはライカM8(およびM8.2)とR-D1(とその後継機のR-D1s、R-D1xG)だけなのである。マウントアダプタの利用でライカマウントのレンズを使えるという意味ではマイクロフォーサーズ(パナソニックのDMC-G1や7月から発売になるオリンパスのE-P1)のカメラも登場している。こちらは10万円前後で購入でき、レンジファインダではなくライブビューファインダを搭載しているのでピントやフレーミングが正確にできて使いやすい。しかし、いかにもデジタルカメラ的な構造に抵抗感を持つ人も多いだろう。

左からライカ「M8」、パナソニック「DMC-G1」、オリンパス「ペン E-P1」。もちろんM8はそのままライカMマウントのレンズが装着可能だが、E-P1のようなマイクロフォーサーズ機もアダプタを介して可能となる

また、M8はAPS-Hなので1.33倍、R-D1はAPS-Cなので1.53倍にレンズの焦点距離が伸びるが、マイクロフォーサーズは4/3型とかなり小さく、レンズの焦点距離は35mm換算で2倍になってしまう。例えば50mm標準レンズが100mmになるわけだ。これではライカや古いキヤノンなどのオールドレンズのほとんどが中望遠レンズの領域ということになる。便利であってもさすがに2倍の焦点距離というのは辛い。さらに撮像素子が小さくなればなるほどレンズの周辺部を使用しないので、いわば「おいしいところどり」にはなるがいろいろな意味でのレンズの味が失われてしまう。つまり、1930年代に始まるLマウントおよびその後のMマウントレンズを本来の焦点距離に近い形で利用するにはM8がもっとも適している。R-D1はM8の2分の1ぐらいの出費ができる人、マイクロフォーサーズは2倍でも構わないのでとにかくライカのレンズを使ってみたい人向けとなる。

オールドレンズで楽しむはずだったが

さて、以上のような状況ではあるが、結局のところ約3年前に初代のR-D1を購入した。当時はまだM8が発売になっていなかったし、もちろんマイクロフォーサーズも存在しない。動機はとにかくライカ製のオールドレンズを使ってみたいというのが半分、そしてレンジファインダカメラに装着できるレンズならではの歪みの少ない写真を撮りたいというのが半分といったところだった。だが、実際に使いはじめてみると、実焦点距離の1.53倍という仕様が予想以上に辛かった。目的の1つであるオールドレンズは、広角といえばせいぜい35mmで、28mmは相当な広角の部類に入る。もっとも入手しやすいのは50mmと35mmだが、R-D1で使用するとそれぞれ75mm、52mm相当になってしまい、広角好きな筆者としては不満が残る。

現行のレンズでは32mm相当のエルマリートM f2.8/21mm(45万円前後)あるいはズミルックスM f1.4/21mm(66万円前後)、デジタルボディを意識して登場した28mm相当のスーパー・エルマーM f3.8/18mm(30万円前後)が販売されているが、購入するにはかなりの勇気が必要な価格だ。広角のレンズは欲しいが、新品はおいそれと手が出せるものではない。21mmのズミルックスを40万円以上出して購入するなら、M8に買い替えてオールドレンズを使用するという選択肢もあるが、明らかにこれは金銭感覚が麻痺しはじめている行動だ。

今回は東京の写真散歩の定番の谷中から根津へ。最寄りの日暮里駅では話題のガムテープレタリング「修悦体」が谷中への道を案内する

谷中の朝倉彫塑館手前のアーケード横町の「初音小路」。夜になると奥に密集した飲み屋の灯がともる。といっても歓楽街というわけではなく、戦後の昭和の息づかい残る昔ながらの市場のようなところだ

このようにオールドレンズを使用するという不便さと得られるものを天秤にかけると少し考えてしまう。ただし、ライカというブランドに拘らなければコシナから比較的購入しやすい価格(5万円~10万円)で広角レンズが豊富に用意されているので困ることはないが、わざわざ高価なR-D1を買って現代のコシナレンズを使うのもなあ、と抵抗感もないわけでもなかった。

しかし、実際にフォクトレンダーのレンズを使ってみると、この時代にわざわざライカマウントで発売しているだけのことはあって、かなり趣味性が高い描写をする傾向にあり、R-D1の絵作りともマッチしてなかなか味わい深いものがある。価格も比較的手頃なため、結局もともとの目的だったライカのレンズやロシア製コピーはほとんど買わずにフォクトレンダーで広角レンズを揃える結果になってしまった。

大きなヒマラヤ杉の元にあるレトロなパン屋。三叉路にあるので「みかど」パン。以前はどこの通学路にもこのようなパン屋があったものだが代替わりするとコンビニに建て替えられてしまうことが多い

築地塀は土を突き固めて上に屋根をかけた土塀だが、西日本の寺社ではよく見るが都内ではそれほど多くは残っていない。関東大震災にも耐えた観音寺の築地塀は、谷中のランドマークの一つだ。谷中から根津にかけては東京でも屈指の寺町で多くのお寺が密集する

当初の目的からは少々ズレてしまったが、レンジファインダカメラはバックフォーカスを短く設計できることから、レトロフォーカスの一眼レフ用広角レンズに比べて圧倒的にコンパクトで軽量なので、R-D1を購入してからは、かなりの頻度で使用することになった。とはいうものの、レンジファインダにはレンジファインダならではの悩みもあり、さらに35mmフルサイズのデジタル一眼レフカメラを一度手にしてしまうとレンズ本来の味の物足りなさが気になってしまうのも確かだ。この連載では、一眼レフやフィルムカメラとの違いも含めながらサンデーフォトグラファーの観点でR-D1に関するさまざまな出来事を綴って行きたい。

この看板から手前の被害はどうでも良いのか? と聞き返したくなるほのぼのした看板。町全体へのゆるやかなイメージが多くの人をカメラ片手にこの谷中へ引き寄せる魅力なのだろう

懐かしさを覚える土蔵などが多く残されているのも魅力の一つ。古い家や土蔵は都内にも点在するが、このように集中して残り、昭和の前半にタイムスリップした感覚がいちどきに感じられるのはこの辺りの特徴だ

住所は上野桜木になるが、谷中霊園を抜けた先、旧吉田屋酒店の手前にある愛玉子の店。印象的な黄色の看板は一度見たら忘れないだろう。手書きのメニューも味わいがある