今回のテーマは「駅の無人化」である。

無人駅ならローカル線に行けば当たり前の存在だが、これは駅が引き受けていた運賃収受などの機能を、列車の乗務員が引き受けることで実現したものである。それとは別に、自動化機器や通信インフラを活用する無人化というものもあり、そちらが今回の主役である。

駅を無人化したときの課題

そもそも、駅に人を配置しておかなければならないのは、駅が担当しているさまざまな業務を担当させるためだ。一般の利用者から見ると、駅員の仕事というのは「接客」や「運賃収受(出札・改札)」ということになるが、それとは別に、運転取扱というものもある。

昔は、ダイヤに合わせて適切な進路を構成するために分岐器を切り替える作業、あるいは運転保安に関わる作業を駅員が担当するのが普通だった。例えば、通票閉塞方式を使用している路線であれば、通票閉塞機を操作して、次に出る列車に渡す通票(タブレット)を取り出したり、到着した列車から受け取った通票を通票閉塞機に戻したりする作業も、しかるべき資格を持った駅員の仕事になる。

ところが、こうした運転関連の業務は、最近ではCTC(Central Train Control)やPRC(Programmed Route Control)の導入によって出番が減ってきている。つまり、自動化や集中制御化によって運転関連の要員を個々の駅に配置する必要をなくした、という話になる。

では、出札・改札業務はどうか。

出札については、自動券売機を導入するのが一般的なやり方である。無人駅であっても、ポツンと自動券売機だけ置いてある事例がある。その場合、係員が巡回しておカネを回収したり、釣り銭や切符の用紙を補充したりすることになる(有人駅なら、駅事務室に隣接した場所に券売機を設置するのが普通だ)。

それと比べると、改札の方が面倒である。もちろん自動改札機を設置することで駅を無人化する方法もあるし、後述するように、実際に行っている事例もある。ところが、自動改札機というのは意外と高価で複雑で大掛かりなメカなので、どこにでもポンポン設置するというわけにはいかない。切符が詰まる等のトラブルが起きたときにどうするか、という問題もある。

ICカード乗車券を導入していれば、簡易型のカード読み取り装置を設置する方法もあるし、実際、導入事例は少なくない。しかしこれも、ICカード乗車券を扱うシステムを導入して、それで元が取れるだけの利用があることが前提だ。

無人駅に設置した簡易型ICカード読み取り装置の例(東武日光線・北鹿沼駅)

利用者が少ない路線なら、それすら省略して、車内で運転士や車掌が運賃収受を担当することも少なくない。たいていの場合、ワンマン化して運転士が担当するようになっている。これなら駅はバス停と似たようなものとなり、ホームと待合室があれば用が足りることになる。

無人化を支えるシステムと機材

つまり、利用者が少ないローカル線の方が却って、おカネをかけずに駅の無人化を実現しやすい環境にあるといえる。利用者が少ないから、バスと同様に乗車時に整理券をとってもらい、降車時に整理券の番号と三角表を照合しながら運転を収受すれば済む。数少ない車両に運賃表示器と料金箱を設置すれば実現できるので、設備投資は比較的少ない。

むしろ、なまじ利用者が多い都市部、あるいは都市近郊部の駅の方が、ローカル線よりも考えなければならない要素が多くなる。いちいち乗務員が運賃を収受するわけにはいかないから、出改札の機能は駅側で受け持つしかない。

その場合の基本は自動券売機と自動改札機だが、乗越精算を行う利用者、あるいは自動改札機で使えない切符を持ってきた利用者にどう対応するかという問題もある。そのために人を置いていたのでは無人化・合理化にならない。

といったところで2013年の暮れに、JR東日本がこんな発表をした。

首都圏の一部の駅に駅遠隔操作システムを導入します

利用者の少ない駅、あるいは利用者の少ない一部の改札口について、係員を置くのを止めて無人化するというものである。もちろん自動券売機と自動改札機は使うのだが、乗越精算のように人手の対応が必要な場面については、対面ではなく遠隔対応するのがポイントだ。

まず、口頭での問い合わせについてはインターホンで受ける。乗越精算や自動改札機非対応券みたいに券面を確認しなければならない場面では、券面確認台に切符を置いてもらい、それをカメラで確認して対応する。すると、カメラと通信回線が必須という話になる。

実はこれ、北総開発鉄道(現・北総鉄道)が開業したときにも、似たような手法を導入したことがある。実際にやってみたところ、想定外の(?)問題や苦労があり、後に各駅に駅員を配置する方法に逆戻りしたとのことだが、今回のJR東日本のケースでは、利用が少ない駅・改札口・時間帯に限定している点がミソだ。

いきなりすべての駅・すべての時間帯について無人化・遠隔管理化するのではなく、利用が少ない場面に限定すれば、遠隔管理によるデメリットを抑えられると判断したのではないだろうか。今後、この方式が広まるかどうか、注目してみたい。

ちなみに、「みどりの窓口」の代わり、あるいは助っ人として指定席券売機(いわゆるMV端末に対する、JR東日本の呼び方。会社によって呼称が異なる場合がある)を設置する事例が増えているが、これも遠隔対応方式の派生型が出現したことがある。

それが「もしもし券売機Kaeru君」(ER端末)で、単に券売機のパネルを操作するだけでなく、必要に応じて通信回線経由でオペレーターが対応する仕組みを併用していたところがミソだ。しかし、これで有人の「みどりの窓口」を完全に代替するのは難しかったようで、後に撤去する事例も出てきている。

機械の操作に苦労しない人は問題ないが、そういう人ばかりが鉄道を利用するとは限らない。やはり、対面で対応しなければならない場面はどうしても残るし、自動券売機で対応できないような複雑怪奇な切符の買い方をする場面もある。

利用が少ない場面に限定して、ある程度の割り切りを伴わなければ、これまで対面で対応していた業務を無人化システムや各種の機器に置き換えるのは難しいのかも知れない。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。