最近、「ぶつからないクルマ」が流行っている。メーカーによってセンサーに違いがあり、レーダーを使用するものとカメラを使用するものがあるが、前方の危険物を探知して「危ない」となったところで自動的にブレーキをかけるところは共通している。

たまたま筆者はスバル乗りだが、そのスバルの「EyeSight」はカメラを使用するグループに属しており、2基のカメラを設置して、それらから得られたステレオ映像を活用している。入ってきた映像の中から「危険なもの」を拾い出すアルゴリズムを開発・熟成するのは、かなり大変な作業だったのではないかと思う。

デジカメで映像記録

といったところで、鉄道業界の話である。

前方に障害物があると危ないのは、自動車も鉄道も同じだ。実際、ときどき「倒木が原因で不通になった」なんていうニュースが流れることがあるし、踏切でエンコしたクルマだって危険だ。踏切はもともと危険度が高い場所だから、障害物検知装置を設置する事例が増えているし、崖崩れも同様である。これらの話題については、以前に本連載で取り上げた。

ところが、そういった「危険の発生を予測しやすい場所」でだけ支障物が発生するとは限らない。鉄道車両はレールの上しか走れないから、どこか一ヶ所でも支障があれば、その「点」の支障が路線全体という「線」に波及する。1月3日に有楽町で発生した火災では、現場が東海道新幹線の線路脇だったため、遠く九州までトバッチリが及んだ。

もしも支障物がなくても、なにか危険な事態、あるいは危険な事態につながる予兆が起きていないとも限らない。

ということで、ときどき先頭車に保線担当者が同乗して、線路の状況を目視確認していることがある。目視確認だけでは口頭の報告にならざるを得ないが、コンパクトデジカメを携行して、静止画や動画を撮影している事例もあるようだ。おそらく目視確認がメインで、それを裏付ける証拠としてデジカメで撮影した静止画や動画を活用しているのではないかと推測される。

そのうち、技術的に実現可能で、かつリーズナブルな費用で済むようになれば、「EyeSight」みたいに、ステレオカメラを営業用の車両に常設して、線路とその周辺の状況を自動的に記録するとともに、危険要因を抽出するようなシステムができないだろうか、なんていうことを考えてしまった。

ただし、自動車が前方の障害物を検知するのとはロジックが違うだろうから、開発は大変そうだ。そして、多額の費用と時間を投じるぐらいなら、今みたいに「目視確認 + 証拠の映像記録」で済ませる方法でも充分、という結論になる可能性も低くなさそうである。

確認車という車両がある

ここまでは在来線の話だが、新幹線だと少し事情が違う。自動的に危険要因を拾い出すところまでは行っていないと思われるが、日常的に線路とその周囲の状況を動画として記録している事例はある。

新幹線ではよく知られているように、線路や架線などの保守・点検・交換作業を、営業列車が走っていない夜間に実施している。これが、新幹線で夜行列車を運転できない理由のひとつでもある。夜間にも営業列車が走ることになると、保守間合を確保できないのだ。そしてもちろん、騒音という問題もある。人が寝ているときに高速運転で騒音をまき散らされたのでは、昼間以上に迷惑だ。と、それはそれとして。

その、夜間の保守・点検・交換作業を終えたら、最後に「確認車」という車両が走るのが新幹線の特徴である。つまり、線路上やその周囲に「忘れ物」をしていないかどうか、その他、列車の安全な運転を妨げるような障害物が残されていたり、発生したりしていないかどうか。それを確認するとともに記録を残すのが、確認車の仕事である。

これが確認車。昼間は保守用車用の留置線に駐めてあるが、夜間の保守作業が終わるとこれが出てきて、最後の安全確認を行う

そのため、確認車の先頭部には障害物検知用のアームがあり、なにか障害物があると、そのアームが押されて動くとともに、記録をとるようになっている。確認車の位置とアームの動作記録を照合すれば、どこに障害物が残されていたかどうかは一目瞭然だ。

それだけでなく、いまどきの確認車はビデオカメラを搭載していて、障害物を検知するとともに映像の記録も残しているのだそうである。これも先の話と同様、現在は証拠の動画を記録しているだけではないかと思われる(確認車のカメラを見ると、「EyeSight」みたいなステレオカメラになっていないようなので、そう判断した)。

しかしこれも、ひょっとすると「映像を活用した自動危険物抽出」みたいな方向に進む可能性はないだろうか、という話である。現段階では筆者の妄想に過ぎないし、そこまでする意味があるかどうかは分からないが、新年の初夢ということで御容赦いただきたく。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。