多くの主要幹線では複数の列車種別を設けており、主要駅にだけ停車して速達化を図った列車と、各駅に停車する列車を設定して使い分けることが多い。普通、列車種別ごとに停車駅を分けるものだが、ときには例外が発生することもある。

すると、そこで関わってくるのが旅客流動データである。つまり、旅客の流動状況に合わせて最適な停車駅配分をする一方で列車の設定本数を増やしすぎないようにする(輸送力過剰の回避)となると、列車ごとに停車駅を変える必要が出てくるわけだ。

長野新幹線と北陸新幹線の停車駅配分

先日、北陸新幹線の列車名に関する発表があった(JR東日本のプレスリリース「北陸新幹線の列車名の決定について」)。それによると、「東京~長野」「東京~金沢の速達列車」「東京~金沢の各駅停車」「富山~金沢」の4パターンを基本として、それぞれ列車名を使い分けるとのこと。この考え方は、「方面別の列車設定」「速達型と各駅停車を別個に設定」というところで、東北新幹線の構成に似た部分がある。

その北陸新幹線は、現在は長野新幹線として長野までの区間が営業中だ。ところがこの区間の運行体系を見ると、列車名はすべて「あさま○○号」で同一である。ところがそれぞれの列車を見ると、停車駅の配列は意外とバラバラだ。

つまり「速達列車」と「各駅停車」なんていう単純なものではなくて、途中の主要駅と目される高崎は通過するのに、その先の上田ないしは軽井沢にだけ停車する列車があったり、高崎以南は主要駅停車で高崎以北は各駅停車だったり、それがさらに安中榛名だけ通過だったりといった具合である。

もっとも、安中榛名は「新幹線の秘境駅」と称されるぐらいだから、停車する列車が少ないのは仕方ない部分もあるのだが、この駅の近くに開発した住宅地に住み着いてしまった人はどうするんだろう。と、それはともかく。

実は上越新幹線でも、新潟行きの「とき」がすべて停車駅を揃えているわけではなくて、列車によって停車駅に違いがある。東北新幹線の「はやて」も、仙台~新青森間の停車駅は列車によって異なる。JR東日本の新幹線ほど極端ではないが、東海道新幹線の「ひかり」や山陽新幹線の「のぞみ」は、列車によって停車駅が異なる。

上野駅の発車標。JR東日本の新幹線は方面別の運行体系が基本で、その中で停車駅を列車ごとに個別に割り振っているため、発車標では停車駅の案内も必須

旅客流動と停車駅の配分

どうしてこんな複雑怪奇なことになるのかといえば、旅客の流動状況に合わせて最適な停車駅配分を行おうとした結果だ。区間や時間帯によって流動状況は異なるから、機械的・固定的な停車駅配分では対応しきれないだろうし、すべての駅で列車の間隔が空きすぎないようにしようとすれば運転本数が多くなり、輸送力過剰になる可能性もある。

これが東海道新幹線ぐらい需要の多い路線であれば、列車種別ごとに停車駅を固定的に割り振り、1時間ごとに「のぞみ」が何本、「ひかり」が何本、「こだま」が何本、とパターン化したダイヤを組む方法でも問題はない。しかし、需要が少なくなってくると、需要に合わせて過不足のない輸送力を持たせたダイヤを組む必要が出てくるわけだ。

そこでベースになるのが、旅客の流動に関するデータだ。鉄道は飛行機と違って途中駅があるので、両端の駅間だけでなく途中駅同士の往来についてもデータを収集する必要があり、分析作業もそれだけややこしいことになる。その旅客流動状況に関するデータを収集してデータマイニングを行い、時間帯ごと・区間ごとの旅客流動を把握する必要がある。

さらに、季節ごとの変動や、お盆休み・年末年始といった突発的な波動も考慮に入れる必要があるが、これは季節列車や臨時列車の設定によって対処するのが基本だろう。そのほか、看板列車として速達性を重視した列車を設定することも、「○○~△△間・最速××分!」と宣伝する営業戦略の観点からすると重要だ。ただし、それが旅客流動と乖離していては困るから、実情に合わせつつ停車駅を絞って速達化、というアプローチが必要だろう。

しかし、すでに開業していて輸送実績がある路線ならデータはあるが、冒頭で挙げた北陸新幹線みたいな新規開業路線ではどうするか。新幹線なら既存の在来線が並行しているから、そちらの輸送実績を参考にすることになるのだろう。北陸新幹線の場合、越後湯沢から北越急行を経由する現行ルートと比べると、高崎~直江津間は平行していないが、「首都圏対北陸」という観点から見れば有意なデータと見てよさそうである。

一方では、使える施設と車両の数は決まっているのだから、その範囲内で対処しなければならない。列車の本数にしても、需要があるからといって無制限に増やせるわけではないし、特に山形新幹線や秋田新幹線は直通先の在来線区間における単線区間の存在が足を引っ張る。

こんな具合に、考えなければならないファクターがいろいろある中で作り上げた解が、実際に利用者の前に現れる列車ダイヤというわけである。

在来線でも考え方は同じ

ここでは新幹線を引き合いに出したが、在来線でも事情は同じだ。特に大都市近郊の通勤路線では、朝夕のラッシュ時と日中では列車種別や停車駅の配分を変えることが多い。これも、需要に合わせて最適化した一例なのだが、通勤路線ではさらに、特定の列車に乗客が集中しないようにするとか、できるだけ多くの本数を設定できるようにするとかいう配慮が絡んでくる。

難しいのは後者だ。実は、本数をめいっぱい増やすことだけ考えれば、全列車を各駅停車にして同一所要時間にするのがベストで、例えば山手線や地下鉄のダイヤはそうなっている。速達列車が割り込むと足並みが乱れるし、途中で待避が発生するので、それだけ「詰め込みの効率」は悪くなる。

しかし、遠距離列車になるほど速達性が重視されるので、どこでどうバランスをとるかというのが、各社のダイヤ担当者が頭を使うポイントになる。もちろんそこでは、駅間別・時間帯別の旅客流動状況を考慮する必要もある。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。