今回も前回に引き続き、鉄道の運行や安全に関わる機器と、通信網との関わりについて取り上げてみようと思う。

無人駅の自動放送

首都圏の電車だけ利用しているとあまり意識しないのだが、地方の亜幹線やローカル線を訪れると、当節では合理化のために無人化した駅が目に付く。安全という見地からすると、無人駅で困るのは、列車の接近や通過を利用者に知らせたり、あるいは警告したりする人がいない点ではないだろうか。

ということで、無人駅に自動放送装置を設けて、列車が接近すると自動的に放送を流すようにしている事例が結構ある。たとえば、信号システムや運行管理システムと連動させて、列車が特定の区間に進入したら自動的に定型文の放送を流す、というようにすれば確実である。

これ自体は都市部の駅でも日常的に見られるメカだが、無人駅でこそ合理化に貢献するという見方もできる。ただし、これはこれで機器や通信回線を設置するために費用がかかるから、あらゆる無人駅に導入するというわけにも行かないようだ。

この手の自動放送の導入は、案内や利便性の観点からいっても、安全の観点からいっても好ましい話だ。最終的には、駅にいる個々の利用者が注意してくれるかどうかにかかっているのは否定できないが。

ただ、某本線の某駅では「普通列車の接近」と「特急列車の通過」については放送が流れるものの、「貨物列車」の通過は何もいわないのであった。貨物列車といえども通過列車のひとつに変わりはないのだから、知らせるに越したことはないと思うのだが。

なお、LEDスクロール式の情報表示器を設ける事例もある。音声だと聞き逃したときに具合が悪いが、LEDスクロールなら同じ文面を繰り返し流すことができる。自動放送と二本立てにすれば、情報途絶を防ぐバリアフリー化(というのだろうか?)にも役立ちそうである。もちろん、これを運行管理システムと連接させて、必要に応じて最新情報を表示するようにすれば、利用者の情報断絶を防ぐ効果も見込める。

送電設備の集中管理とCSC

コンピュータと通信回線を駆使して集中管理するのは、駅務や利用者向けの案内、あるいは信号保安システムばかりではない。電気鉄道では必須のアイテムである、送電設備も同様である。

列車を走らせる電力は、電力会社から高圧送電線経由で受電したものを、線路脇に設置した変電所で所定の電圧に変換して供給している。日本国内では、単相交流25,000ボルト、単相交流20,000ボルト、直流1,500ボルト、直流750ボルト、直流600ボルト、三相交流600ボルトなどといった種類があるが、いずれも電力会社の送電網で使用している内容とは異なる。だから、交流電化であれば変圧が、直流であればさらに整流が必要になる。

そうした作業を行うには変圧器や整流器が必要になるし、必要に応じて送電を開始したり止めたりする装置も、送電の状況を監視する装置も必要になる。また、ある変電所がダウンしたときに別の変電所から送電するためには、変電所が受け持つ区間(饋電区間)を変更する装置も必要である。

こういった機能を集中管理するのがCSC(Centralized Substatoin Control)で、送電設備の遠隔監視・遠隔制御を担当している。電力系統は滅多に脚光を浴びないが、情報通信網がなければ成り立たない、大事な設備である。

鉄道向け通信回線の変化と誘導障害対策

運行管理だけでなく、電信や電話、さらにはコンピュータの登場でデータ通信といった具合に、もともと鉄道業というのはさまざまな種類の通信を扱うものである。だから、過去の本連載で何回も言及してきているように、鉄道の設置・運用に際しては、通信インフラが必須のものとなっている。

その通信手段も、時代が変われば内容が変化する。当初は裸線を使用して線路枠の電柱に架設していたが、次はペアケーブルになり、さらに同軸ケーブル、光ファイバーと変化してきた。鉄道の通信網に光ファイバーを導入するようになったのは、1980年代以降のことだそうである。

その光ファイバーを使った自営通信網や、光ファイバーの貸し出しに関する話については、本連載の第23回で取り上げた。実は、電線よりも光ファイバーの方が、外部からの電気的な影響に強いので好ましいといえる。

また、遠距離伝送や災害発生時の抗堪性を考慮すると、無線通信にもメリットがある。だから、マイクロ波を用いる無線通信網や、衛星通信を利用する事例もある。1982年に東北新幹線が開業した際の資料を見ると、線路沿いに設置した有線の回線、それとマイクロ波回線の二本立てで通信網を構築していた様子が分かる。

実は、電気鉄道では電車線路に近接して通信回線を設置すると、誘導障害などによる影響を受ける可能性があり、これは深刻な問題である。「変電所→架線→車両→レール」というルートで列車に対する電力供給を行っていると、レールを通じて変電所に戻る電流、いわゆる帰線電流が「悪さ」をするのだ。もちろん、鉄道沿線に設置している他所の通信設備に悪影響を及ぼすのは困るが、同じように、自前の通信網についても悪影響が発生するのは困る。

だから直流電化区間であれ交流電化区間であれ、周囲の通信回線や通信機器などに障害が起こらないように対策を施している。また、車両側の電機品でチョッパ制御やインバータ制御といった新技術を導入するときにも、周囲に誘導障害が起こらないかどうかを検証する作業が必要になっている。情報通信システムを安定動作させるための、知られざる苦労である。

電報と電略

最後に通信がらみの余談をひとつ。

御存知の方も少なくないだろうが、駅ごとにカタカナ2文字の略号、いわゆる電略(電報略号)を規定している。電略とは電報で使用する駅名の略号だ。鉄道業務で電報を使用するからこそ、こういうものが必要になった。

1文字ではすぐに破綻するし、駅名をすべて入力していたら、場合によっては時間がかかりすぎる。たとえば、「いわっぱらすきーじょうまえ」なんて長い名前の駅名を、いちいち電報で打っていたら面倒だ。そこで、駅ごとに2文字の電略を規定して簡略化と確実性の両立を図ったのであろう。

実は駅名だけでなく、その他の用語についても電報用に略記する事例がいろいろある。短縮して迅速・確実に伝達するのは、海軍の通信だけではないようだ。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。