過去2回にわたって、旅客列車の座席予約システムについての話を取り上げてきた。いうまでもなく、鉄道で運ぶのは旅客だけではなく、貨物も少なからぬ比重を占めている。その貨物輸送も旅客輸送と同様に、情報通信技術を多いに活用しているので、今回はその話を取り上げてみよう。

コンテナ貨物と空席(?)管理

JR貨物が行っている貨物輸送の主力は、コンテナ輸送である。運ぶ貨物を最初にコンテナに入れて貨物駅に持ち込み、それをコンテナ貨車に搭載して貨物列車を仕立てる。

ところが、駅の線路の有効長、あるいは機関車の牽引能力といった制約要因があるから、貨物列車の編成長には限りがある。そして、コンテナ貨車1両ごとに搭載できるコンテナの数や重量にも制限がある。ということは、コンテナ貨物列車も旅客列車の指定席と同様に、空席(?)情報の管理が必要という話になる。

つまり、顧客が「○月△日にA駅からB駅まで、コンテナ10個分の貨物を運びたい」と申し入れたら、そのコンテナを積み込んで輸送できる列車の設定があるか、列車があっても積み込むスペースがあるかどうか、という情報を管理する必要がある。

コンテナ貨物列車。旅客列車と同様に、搭載できるコンテナの数は決まっているから、指定席の販売と同様のハンドリングが必要である

もちろん、列車の始発駅・終着駅と顧客が利用する駅が一致するとは限らないから、当該貨物列車がコンテナの積み下ろしを行う駅を単位にして、区間ごとに個別管理する必要がある。ときには、途中で積み下ろしを行わずに、始発駅から終着駅まで直行する貨物列車もあるだろうが。

そこで登場するのがJR貨物の「IT-FRENS」である。これは旅客列車のマルスに相当するシステムで、顧客が貨物の運送申し込みを行うと、対応できる列車の有無や空席(?)の有無を検索して、空きがあれば確保する機能を提供する。

そして、どの列車にどの顧客の貨物を積み込んだかを把握・管理することは、貨物輸送の可視化を行う上で重要である。ときには、ダイヤが乱れて貨物列車が途中駅で抑止・足止めということも起こり得るが、急を要する貨物、放っておくと傷んでしまう生鮮食料品のような貨物を運んでいるときには、この可視化は重要な機能になるだろう。

貨物輸送の可視化とRFID

また、貨物輸送には旅客輸送にない厄介な課題がある。旅客輸送であれば、利用者は当該列車のところまでやってきて自分で乗り降りしてくれるが、貨物は自分で歩いてくれない。だから、コンテナ貨物列車にコンテナを搭載するのであれば、駅でフォークリフトを使って積み下ろしを行わなければならない。

ということは、フォークリフトを扱う要員は、どのコンテナをどの列車のどの場所に積み込めばいいのか、あるいはどの列車からどのコンテナを降ろせばいいのかを把握していなければならない。そこでIT-FRENSの情報がモノをいうわけである。

しかも、だだっ広い貨物ターミナルの中で、積み込むべきコンテナ、あるいは降ろしたコンテナをどこに置くかという問題もある。どのコンテナを積み込めばよいのかが分かっても、それがどこにあるかが分からなければ右往左往してしまって時間の無駄だ。

そこで登場するのが「TRACE」である。個々のコンテナにRFIDを取り付けて個体識別を可能にする一方で、GPS受信機を組み合わせることで、コンテナの位置情報を把握できるようにするものだ。コンテナにRFID、コンテナの揚搭を担当するフォークリフトにRFIDの読み取り装置を取り付けておけば、GPS受信機の情報を加味することで、コンテナの移動状況を可視化できることになる。

なんのことはない、米軍が兵站業務にRFIDを持ち込んで、個々の貨物、あるいはそれを積み込んだコンテナやパレットに取り付けることで、兵站業務の可視化を図ったのと同じことである。

ちなみにJR貨物では、この「TRACE」を2013年9月までに全面刷新する方針を決めた。モーダルシフトなどの社会情勢を受けて、先手を打って貨物輸送の管理体制を強化することで、より顧客にとっての利便性を高めるとともに効率化を図ろうということだろう。

コンテナ以前の貨物列車

ついでだから、コンテナ以外の貨物列車についても触れておこう。

基本的には、一両一両の貨車を単位とする形になる。積み込む貨物の種類や内容に合わせてさまざまな貨車を用意しておいて、その貨車に貨物を積み込む。そして複数の貨車を連結して貨物列車を仕立てる。

ところが、ひとつの列車には発駅も着駅も異なるさまざまな貨車が混在することになるので、途中の駅で貨車を組み込んだり切り離したり、ある列車から切り離した貨車を別の列車に組み込んだり、といった作業が必要になる。駅の構内で「入換」を行うことでこれを実現する場合もあれば、専用の施設として「操車場」(ヤード)を設けることもある。

典型的な操車場では、緩い傾斜をつけた「ハンプ」と呼ばれる線路と、その先で放射状に広がる「仕訳線」を設けておく(ハンプがない平面ヤードもあった)。そして、機関車で貨車を押しながら1両ずつ「突放」して、分岐器を切り替えることで目的別の仕訳線に入れる。仕訳線ごとに、入ってきた貨車を連結することで、新たな列車を仕立てる。これを途中で何回も繰り返すのが、昔の貨物列車の姿だった。

それを人間の手作業で行う代わりにコンピュータ化した操車場がいくつかあった。つまり、突放する貨車ごとにつけられた「車票」(指定席券のようなものである)を読み取り、仕訳線の分岐器をコンピュータが自動的に切り替えていく。また、突放した貨車とすでに仕訳線に入っている貨車を連結する際にはスピードを調整する必要があるが、それも貨車に人が乗ってブレーキをかける代わりに、地上に設置した「カーリターダー」(car retarder)をコンピュータ制御して、適切な速度になるようにブレーキをかける。こうすることで、人手を介して行うよりも効率的に、貨物列車の組み替えを可能にするわけだ。

ただし、そうはいっても途中駅での停車時間が長くなって時間がかかる問題は残る。また、前述したように貨物列車の編成長や総重量には上限があるから、そこからあぶれた貨車は次の列車に回されてしまい、それだけ到着が遅れる。持ち込まれる貨車の両数は一定ではないから、これでは到着日時を正確に保証するのが難しい。

その点、いちいち貨車の組み替えを行うよりもコンテナの塔載・卸下で済ませる方が効率的だ。また、貨車を単位にするよりもコンテナを単位にする方が、搭載量の観点からいって柔軟性がある。こういった事情から、「貨車単位」ではなく「コンテナ単位」に主力が移り、操車場で組み替えを行う貨物列車は廃止してしまったのである。

ただし、特定の顧客についてまとまった量の貨物輸送需要がある場合には、今でも専用貨車を使った貨物輸送を行っている。この場合、途中で組み替えは行わずに発駅から着駅まで直行するのが一般的だ。この直行とは途中に停車駅がないという意味ではなく、途中で組み換えを行わないという意味である。

特に石油製品の輸送については、現在でもタンク貨車を使った輸送が基本である。この場合、各地に設けた「オイルターミナル」まではタンク貨車を連ねた貨物列車で輸送して、そこから先はタンクローリーなどに積み替えて端末輸送を担当させる。東北地方太平洋沖地震の後で急遽、被災地に向けて石油輸送のための貨物列車を仕立てた話は記憶に新しい。

専用貨車の例(タンク車)。これは米軍向けのジェット燃料・JP-8を輸送するタンク車

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。