前回の記事の冒頭で、「紙の切符を使う機会が減った」という話でローカル線のワンマン運転に言及したが、都市部でも、利用が比較的少ない線区ではワンマン運転を行うところが増えている。実は、都心を走る地下鉄でもワンマン化している事例は少なからずあり、今回の本題はそちらである。

ローカル線や路面電車のワンマン運転は、いわば「ワンマンバスの鉄道版」。だから、運賃収受の仕組みは距離制運賃を使用している路線バスと基本的に同じになる。そして、乗降を行う扉は限定しており、一般的には「後乗り前降り」、複数の車両を連結している場合には先頭車に限定、ということが多いようだ。

これなら運転士の目の届く範囲で客扱いが完結するので、せいぜいミラーを設置して死角をなくす程度のことで話が済む。ところが、都市部のワンマン運転では事情が違ってくる。

都市部のワンマン運転における特徴

いわゆる「都市型ワンマン」という話になるのだが、東京でいうと東京メトロ南北線/都営地下鉄三田線~東急目黒線のラインなどが該当する。この「都市型ワンマン」では、運賃収受は駅の自動券売機と自動改札機に任せているので、運転士は運転と扉の開閉が主な仕事になる。

そこで問題になるのが「扉の開閉」である。仮にも都市部であれば単行ということはなくて、3両から6両ぐらいは連結して走っている。しかも、乗降に使用する扉を限定するわけにもいかない。すると、鏡で死角をなくす程度の対応では、すべての扉について安全を確認して開閉の指示を出すのは難しい。

仙台市地下鉄南北線が開業した時には、当初からワンマン運転を行う前提で施設や車両を設計したため、ホーム配置を全駅で統一して、すべての駅で右側の扉が開くようにした。また、ホームをカーブさせないで一直線にして、見通しを良くしている。それに合わせて、運転台も通常とは逆に右側に配置しており、いちいち立って反対側に移動しなくても、運転士は窓から身を乗り出すだけでホームの状況を確認できる。

ところが、これはすべて新規にこしらえた路線だからできることで、既存の路線をワンマン化しようとすれば、話が違う。ホームの位置は駅によって異なるし、ホームがカーブしていることもある。実際、そのせいで停車駅ごとに運転士が席を立って反対側まで移動しなければならない事例もある。

ホーム監視用のモニターを運転台に

ということで登場したのが、ホームに設置した監視カメラの映像を運転台に表示する仕組みである。路線によって差があるが、運転台に1~4基のモニターを設置する。そして、列車が駅に進入すると、駅のホームに設置してある監視カメラの映像が無線で列車に送られてきて、それを運転台にいながらにして確認できるというわけだ。

当然といえば当然だが、編成両数が多い路線、ホームがカーブしていて見通しがきかない場合がある路線の方が、モニターの台数が増える。前述した南北線/三田線/目黒線のケースでは、運転士の頭上に4台ものモニターが並んでいる。観察していると、モニターに映像を表示するのは列車が駅部にいるときだけで、駅から外れるとモニターの映像は消える。そして次駅に進入すると、今度はその駅のホーム映像が現れるようになっている。

列車の進入を検知する仕組みをいちいち設けなくても、決まった範囲で映像を「放送」していれば、そこに列車が来た時点で受信が可能になりそうだ。とはいうものの、高い信頼性をもって映像を送れるようにする仕組みを、それも場合によっては複数の映像チャンネルについて実現しなければならないのだから、そう安直な話でもなかろう。

また、ワンマン運転を行っている路線の多くは、転落事故防止のためにホームドアを設けている。しかし、扉の開閉指示を出すのは列車側の運転士だから、運転台で扉の開閉操作を行ったら、それを無線で駅側に送信して、ホームドアも連動して開閉する仕組みを用意しなければならない。

また、ホームドアと車両の位置を合わせなければ乗降ができないから、定位置停止装置(TASC : Train Automatic Stop-position Controller)を整備する必要もある。これはコンピュータ仕掛けで適切な位置に止める仕組みを実現するものだから、やはりITマターということになる。

こうした事情から、都市型ワンマン運転を行っている路線では、列車と地上の間でやりとりする情報や通信の量が、通常以上に多くなっていると考えられる。それだけ開発・製造・保守のための費用もかかるが、それでもツーマン化することによって増える人件費よりは安いということなのだろう。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。