特に2000年代に入ってからの鉄道で大きく変わったのは、利用者向けの情報提供かもしれない。そしてその分野では、情報通信技術を大いに活用している。今回は、そういった類いの話について取り上げてみることにしよう。

駅における情報提供の多様化

駅で利用者が必要とする情報の双璧は、どこ行きの列車が何時にどのホームから出るかという「発車案内」と、ダイヤが正常なのかどうかという「運行情報」ではないかと思われる。

かつては、発車案内というと一日分の時刻表を掲出しておいて済ませるか、あるいは「これから出る列車」について看板を掲示するスタイルだった。昭和40年代の上野駅中央改札の写真を見ると、列車名・行先・発車番線・発車時刻を書いた鉄製の看板が改札の頭上にズラリと並んでいて壮観だ。

しかし現在では、反転フラップ式を経てLED式が主流になった発車標が一般的である。しかも、改札では「これから出る列車の情報すべて」、さらに個別のホームごとに「このホームで次に出る列車」、場合によっては「これから到着する列車」の情報まで表示している。

その発車標では取り扱う情報も多様化しており、編成両数、自由席の号車、途中の停車駅といった情報が加わり、さらに日本語に加えて英語やその他の言語の表示を行っていることもある。LED式なら、ひとつの機器で複数の情報を交互に表示できて好都合だ。

カラーLEDを使った発車標の例(京王線新宿駅)

また、案内放送も肉声から自動放送に切り替わった。これ自体はいささか味気ないと感じる人がいるかもしれないが、個人差がある肉声よりも聴き取りやすいし、列車名や行先など、ちゃんと個別の状況に合わせた放送を使い分けていることが多いのだから芸が細かい。

実は、こういった情報提供のためのシステムは、前回に取り上げた運行管理システムと密接に連接している。運行管理システムは正常時のダイヤや現在の運行状況を常に把握しているから、その情報に基づいて発車標の表示内容を更新したり、自動放送の指示を出したりすると、矛盾のない情報提供が可能になる。もしも発着番線や発車時刻の変更があった場合でも、漏れなく情報を提供できると期待できる。

つまり、駅ごとに手作業で発車標を設定したり、肉声で放送を行ったりするよりも確実性が高いわけだ。もちろん、緊急時には肉声の放送で介入したり、張り紙などを急遽掲出したりすることもあるわけだが。

このほか、最近では新たなチャンネルとして、改札口などに大型の液晶テレビを設置して運行状況をグラフィック表示したり、インターネットを通じて運行情報を提供したり、といった新たなチャンネルが加わっている。

ポイントは、運行管理システムが持っている「列車ダイヤ」や「現在の運行状況」といったデータを唯一の「マスター」として、関連する情報をすべて、それを基準にして流している点にある。データソースが複数存在すると間違いの元だが、データソースが単一なら間違いは起こりにくい。その代わり、中核となる運行管理システムがダウンすると総倒れになるので、高い信頼性が求められる点には注意が必要だ。

運行管理システムと連携すると、こんな表示も可能になるという一例。次の列車がどこまで来ているかが分かる

さらに、ダイヤが乱れても運行管理システムが遅延状況を把握していれば、こんな表示も可能である

案内放送といえば、無人駅だけでなく有人の駅でも、ホームに駅員が出ていないことが少なくない。そうした中で安全性を高めるため、列車接近の際に自動放送を流していることが多くなった。列車の本数や種別が限られるローカル線の場合、本格的な運行管理システムがなくても、列車の接近を感知したら定型文の放送を行えば済みそうだ。

車内情報表示装置の活用

情報提供という話になると、外部から切り離された空間になりがちな移動中の列車内においても、情報提供の機能が大幅に強化されている。

発端は1985年に登場した新幹線100系電車だ。客室の前後端にLEDスクロール式の表示装置を設けて、次に停車する駅などの情報提供を開始した。それがやがて、LEDのカラー化や大型化が進み、さらには液晶ディスプレイを設置する事例も現れて現在に至る。

LED・2段式の車内情報表示装置(E231系・常磐快速線)。開扉表示や次駅の表示だけでなく、乗り換え案内なども扱う

特に液晶ディスプレイを使用するタイプでは、固定的な内容の表示だけでなく、ちょっとした企画番組や広告、リアルタイムのニュースや運行情報などを、とっかえひっかえして表示できる。そして、液晶ディスプレイ自体もだんだんと大型化してきている。

液晶タイプの車内情報表示装置が運行情報を表示している例(E231系・山手線)

新幹線や特急型車両では客室前後端にLEDディスプレイ、通勤型車両では扉の上にLEDディスプレイか液晶ディスプレイというのが一般的なスタイルだが、JR西日本の321系や225系みたいに、吊広告と同様に枕木方向に設置している事例もある。

広告や番組の類いは車両基地に入庫しているときに内容を差し替えればよいが、問題はリアルタイム性が求められるニュースや運行情報だ。実は、この手の情報は携帯電話のパケット通信サービス、あるいは駅に設置した無線LANのアクセスポイントといった無線通信を利用して列車に送信している。移動体通信網を利用すれば、同時に多数の列車に配信できるメリットがあり、特にリアルタイム性が求められる運行情報の配信では重要な意味があるだろう。

つまり、ここでも情報通信技術、とりわけ移動体通信技術が活躍しているのである。

乗務員向けの情報提供も進化している

ちなみに、運行管理システムを利用すると、利用者だけでなく乗務員に対しても、さまざまな形で情報、あるいは指令を送り出すことができる。

例えば、「後続列車が遅れているので、発車するのを待って運転間隔を調整するように」なんていう場面で「○分△秒まで発車を待て」という指令をディスプレイ装置に表示することができる。

また、第1回で取り上げた運転台のモニター装置に、前後の列車の運転状況(どの列車がどのあたりを走っているか)を表示している事例もある。それを見れば、先行列車が "詰まって" いたり、後続列車が遅れていたりする状況を把握しやすい。

乗務員向けの情報提供を充実させれば、運転士は伝達ミスや勘違いを回避しやすくなるし、車掌は乗客向けの状況説明をやりやすくなる。

似たような仕組みを、駅の構内で列車の移動を担当する作業員に持たせている事例もある。これは実際に某駅で見かけたもので、液晶ディスプレイに配線略図を表示して、どの列車がどの付近にいるかを把握できるようにしているものだ。

こうした情報があれば、より安全・確実な入換が可能になる。特にダイヤが乱れたときには、平常時と同じつもりで作業しているとミスや事故につながりやすいから、情報提供手段を充実させることの意味は大きそうだ。

昔であれば、こうした情報は人が駆け回って口頭で、あるいは通告券などの形で紙片に書いて伝達していたものだ。列車無線が普及したことで、人が駆け回る必要性が減ったかもしれないが、口頭での伝達に変わりはない。それが情報通信技術の発達により、迅速かつ確実性が高い形に変わってきているのである。

執筆者紹介

井上孝司

IT分野から鉄道・航空といった各種交通機関や軍事分野に進出して著述活動を展開中のテクニカルライター。マイクロソフト株式会社を経て1999年春に独立。「戦うコンピュータ2011」(潮書房光人社)のように情報通信技術を切口にする展開に加えて、さまざまな分野の記事を手掛ける。マイナビニュースに加えて「軍事研究」「丸」「Jwings」「エアワールド」「新幹線EX」などに寄稿しているほか、最新刊「現代ミリタリー・ロジスティクス入門」(潮書房光人社)がある。