ファットスプレッドの構造を正しく理解しましょう(写真は本文と関係ありません)

前回、「第3のバター」としてファットスプレッドという食品があるという説明をしました。今回は、そのファットスプレッドとは一体何なのか、もう少し詳しく知っていきましょう。

牛乳に見られる「乳化」という現象

ファットスプレッドの特性を理解してもらうにあたり、最初に「乳化」という言葉を知っておいてもらいたいです。下図を見てもらうとわかるのですが、乳化というのは水と油が混ざった状態を指します。乳化を用いている製品の身近な例を挙げるとすれば、牛乳が当てはまるかと思います。

乳化のしくみ

牛乳は「水中油型乳化」といって、水の中に「ある成分」に包まれた状態の脂肪分がいくつも存在しています。「ある成分」に包まれているため、ドレッシングのように油と水に分離しないわけです。一方で「油中水型乳化」はその反対で、油の中に「ある成分」によって包まれている水が存在しているという状態です。

このように、2つの相からなる微細な不均質物質で、そのうちの片方がもう片方の中に分散していることを「コロイド」と呼び、高校の化学で習ったことがある人もいるかと思います。そして、水と油をつないでいる成分というのが、「界面活性剤」と呼ばれるものです。

水と油をつなぐ乳化剤

界面活性剤は水に油を溶かす場合と、油に水を溶かす場合に全く別のものを使います。界面活性剤はシャンプーなどにも使われているため、それが食品に含有されていると聞くと、急に不気味に感じる人もいるかもしれません。ただ、牛乳に含まれている物の実際は、植物油を分解して作り、食べても問題のない脂肪酸エステルやショ糖脂肪酸エステルなどの乳化剤です。

難しいように思えるかもしれませんが、バターの製法を考えればそれほど違和感はないかと思います。牛乳から作ると大変なバター。でも、牛乳の脂肪分を多めに取りだしたパック入りのミルクを、ペットボトルにひとつまみの塩と一緒に入れて振り続けてみましょう。すると、乳脂肪と水分(ホエイ)の乳化が逆転し、水に油が溶けたものから、油に水が溶けたもの、すなわちバターへと変化します。ご家庭でも試してみてください。

ファットスプレッドへの応用

乳化剤で油に水を溶かすことで、油の中に水が細かく入っているわけですから、舌に触れたときは油が真っ先に当たります。そのためバターのように濃厚な味わいがあり、水が入っている分だけカロリーはバターやマーガリンより低くできます。これこそがファットスプレッドの利点です。先ほど説明した乳化剤を使えば、さまざまな油に対して水分を多く含ませることができるわけです。

現在売られているファットスプレッドは、バターやマーガリンを油として、そこにいろいろな味を付けて調整した水が含まれているというものです。「油をそのまま食べるのではなく、水を足して膨らませた」という感じでとらえると、カロリーが少ないだけでなく、マーガリンが含まれていても、その使用量が少なくなるため、トランス脂肪酸などの気になる成分も少なく抑えることができるというわけです。

商品を裏返し、商品ラベルでファットスプレッドと確認したら、グラム当たりのカロリーを見ることで、おおよその油の量を知ることができます。メーカーにもよりますが、大半は50~70%が油分ですが、中には40%以下という超低カロリーに徹した商品もあります。

あとは味と好み、さらには自分のおなか周りも考えて、自分にとってちょうどよい商品を選ぶと良いでしょう。

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筆者プロフィール : くられ

『アリエナイ理科ノ教科書』(三才ブックス、シリーズ累計15万部超)の著者。全国の理系を志す中高生から絶大な支持を得ており、講演なども多数展開している。近著に『ニセモノ食品の正体』(宝島社)などがあり、2014年7月17日に新たに「薬局で買うべき薬、買ってはいけない薬 よく効く! 得する! 市販薬早わかりガイド」(ディスカヴァー・トゥエンティワン)を上梓する。メールマガジン「アリエナイ科学メルマ」ツイッターなどで、日々に役立つ話を無料配信している。