おいしいからこそ、その作り方が気になってしまう……

今回は、多くの人が疑問に思っているあの人気の食べ物。チキンナゲットの話です。チキンナゲットといえば、ピンク色のスライムのようなもので作られているというネット特有の伝説もありますが、ここでは2話に分けてチキンナゲットの正体に迫ります。

なぜ「ピンクスライム」ができるのか

通称「ピンクスライム」と言われるものは、実際に食肉加工の現場で発生するものです。豚や牛、鳥の主要な肉を取り去った後、骨にまだまだこびりついた肉を高圧洗浄機のようなものでそぎ落とすと、このピンクスライムが発生します。

当然、大量の水で肉をそぎ落としたものなので食感などはなく、血液や髄液も大量に混ざるため、多少匂いも残ります。多くはドッグフードなどエコフィード的利用にとどまっていたのですが、現在は品質向上のための添加物をうまく使うことで、廉価なハムやミートボールなどに作り替えられることもあります。

豚肉や牛肉は、そういった加工食品としての未来がありましたが、鶏肉の場合はどうなるのでしょう? その答えのひとつがチキンナゲットなわけです。

モモ、ムネ以外の肉はどこへ?

アメリカを始め、中国やブラジルでは、軽く日本の10倍以上の規模でブロイラーとしてチキンが生産されています。多くはインテグレーション養鶏(※)と呼ばれるシステムを活用しているのですが、特に近年ブラジルで盛んになっており、国産のものより1/3程度の価格で、ブラジル産の鶏肉がスーパーなどに並んでいます。この鶏肉の大量生産とチキンナゲットは深く関係があります。

スーパーに並ぶ鶏肉を見ると、胸肉ともも肉が多い気がしませんか? ササミや手羽先、手羽元などもありますが、明らかに数が合いません。要するに、胸肉ともも肉以外は鶏肉は人気が少ない……つまり、それら以外の肉がチキンナゲットの材料となり得るわけです。ただし、この材料をどのようにチキンナゲットにするかは別問題。それは次回に説明します。

添加物の諸刃(もろは)の剣

さて、こういった話をすると、「だから○○は悪いんだ」とか「○○は食べない方が良い」という話が出てきます。こうした加工技術自体を悪とするのは、無駄のない食品加工の技術を根本的に否定し、論点さえずれてしまうことがあります。自著でも度々言ってることなのですが、添加物が悪いのではなく、添加物は簡単に栄養豊富なおいしい味を作り出せるところが、添加物の諸刃の剣の側面です。

カロリーばかりの粗悪な食べ物でも、添加物を使えば新鮮で栄養豊富な味を付けることができます。しかし、そうした薄っぺらい食品に囲まれてしまうと、カロリー過多の栄養不足になってしまう……このカラクリにさえ気をつければ、少なくとも安全性という意味では、添加物は全てを拒否するような品物ではありません。

筆者の考えでは、添加物の毒性は誤差の範囲なのですが、塩分過多や肥満が引き起こす危険性は、もっと影響が大きいと言えるでしょう。そのリスクが、添加物をスケーブゴートにすることで見えなくなってしまうことは、実は非常に危ういことなのです。情報に惑わされず、栄養価のバランスのよい食事を取るよう気をつけたいものです。

※インテグレーション養鶏とは、繁殖から精肉まで全てをひとつの企業が1カ所に集積してベルトコンベア式に行えるシステム化された養鶏のこと

筆者プロフィール : くられ

『アリエナイ理科ノ教科書』(三才ブックス、シリーズ累計15万部超)の著者。全国の理系を志す中高生から絶大な支持を得ており、講演なども多数展開している。近著に『ニセモノ食品の正体』(宝島社)がある。メールマガジン「アリエナイ科学メルマ」ツイッターなどで、日々に役立つ話を無料配信している。