金型部品であるスライドは、アンダーカットのある形状を成形するために使用します。形状としては、ケーブル用の穴、排気口、細長い穴などが挙げられます。他にも、パーツ外周部のエッジ形状や、筐体の文字やロゴ、デカールのためのくぼみ形状の成形にも応用できます。スライドは、設計の自由度を増す、価値ある道具として、「設計の道具箱」に備えておくと良いでしょう。今号ではスライドの仕組みや設計上のポイントをご紹介します。

形状にアンダーカットがあると、2方向抜き金型では成形できません。2方向抜き金型を使う射出成形では、金型が開いた時に成形の終わったパーツをそのまま取り出せますが、パーツの形状にアンダーカットがあると、そのまま取り出せません。金型のアンダーカット部分にパーツが引っかかってしまうからです。アンダーカットのあるパーツを取り出すためには、まず、そのアンダーカット形状を成形する金型の部分を、成形パーツの取り出しに先立って外す必要があります。そこで、スライドという、金型のアンダーカットを成形する部分を外すための仕組みが使われるのです。(図1)

図1:スライドは、金型本体(固定側―可動側)の金型の動く方向と直角に配置する必要があります。

Protomold射出成形では、金型が開く方向と直角方向に作動するスライドを使用します。スライドを作動させる役割を果たすのが金型の固定側に配置するアンギュラピンです。機構としては、金型が閉じるにつれて、アンギュラピンが、可動側金型にあるスライドをパーツ形状部に近づけ、金型が開く際には、これとは逆にアンギュラピンが、パーツ形状部からスライドを引き離し、エジェクタが前進して可動側の金型からパーツを押し出します。

スライドは、パーティングライン上に配置させる必要があり、そのフィーチャーの大きさと作動距離には制限があります。スライドを使用することで金型のコストは高くなりますが、その代わりに設計上の自由度は増し、また二次加工などの手間を減らすことも可能です。結果として製品全体としてのコストの低減につなげることもできます。 *下記関連記事「樹脂部品設計ガイド」に記載のリンク先で対応可能な最大寸法をご確認いただけます。

細長くて肉厚の薄い、インサイドコアのあるチューブ形状のパーツを最小限の抜き勾配で成形したいという場合、スライドが必要になります。このパーツを2方向抜き金型のキャビとコアのみで成形するのであれば(図2)、より大きな抜き勾配をつけて、肉厚を増やさないと、金型の加工や、パーツの離型が難しくなることがあります。その対処方法として、チューブ形状の長手方向にパーティングラインを配置して(図3)、インサイドコアをスライドによって成形できるようにすると、パーツを横から取り出すことができ、最小限の抜き勾配で済ませることができます。また、ゲートをチューブ形状の閉じた側に設置することができるので、スライドコアのピンの周辺形状に一様に樹脂を充填することができます。

図2:2方向抜きの金型で成形する場合は、より大きな抜き勾配を付与して、肉厚を増やす必要があります。

図3:長手方向にパーティングラインを配置することで、スライドを使ってインサイドコアを成形できます。

Protomold 射出成形の見積りProtoQuoteでは、スライドが必要かどうかを解析した結果や、どのようにパーツの設計を進めるのが良いか、3Dモデルをハイライトし、説明を記載しています。3D CADデータをアップロードしていただければ、24時間以内に対話式のProtoQuote見積りへのリンクをメールでお送りします。スライドをどのように製作・配置するかという知識は必要ありません。見積りへのリンクを開き、画面上で解説を参照しながら、モデルを回転・ズーム・移動させて確認すると、理解が深まります。

ご参考:

樹脂部品設計ガイド
ProtoQuote(R)無料解析&見積り

本コラムは、プロトラブズ合同会社から毎月配信されているメールマガジン「Protomold Design Tips」より転載したものです。