射出成形で製作する樹脂製品は、設計段階で基本的なルールを適用することで、ヒケ、ゲート痕、エジェクタピン痕、離型に伴うキズ、シボ加工面の仕上がり、ウェルドライン、ヤケ、バリ、不均一な着色など、外観に影響を与える問題を回避することができます。念入りに計画を立てて試作を実施することで、これらの問題を引き起こすリスクを低減することができます。

まず、製品の外観の重要度を見極めましょう。フェイスプレートのような前面パネルを構成するパーツであれば、外観の重要度は非常に高いでしょう。一方、製品内部で使用する、通常は目につかないパーツであれば、あまり気にすることなく、機能やコストを優先させることに集中したほうが良いでしょう。時には外観と機能を両立させなければならないケースもありますが、機能性と製造性を向上させていくことによって、より良い外観を得ることが可能です。

例えば、抜き勾配は金型から取り出しやすくするために設けますが、表面に摺りキズができないようにする目的もあります(図1)。また、均一な肉厚に設計することで、樹脂の充填不足による、強度の低下や、反りによる嵌合の不具合を防ぐことができるだけでなく、厚肉部分のヒケ、肉薄部分に樹脂を充填させるための過剰圧力によるバリやヤケを防ぐという目的もあります。したがって、標準的な樹脂設計ルールに沿ってパーツを設計することで、多くの外観上の問題を防ぐことができることになります。

図1:抜き勾配がない場合(左図)、パーツ全体が型の垂直面に接触しながら取り出されますが、勾配がある場合(右図)には、抵抗なく取り出すことができます。

それでも、機能と製造性および外観の両立という課題は残ります。この課題に対処するには、優先順位を見極めることから始めるのが良いでしょう。樹脂を限定する要件がある場合は、外観にも制約ができる場合があります。例えば、ガラス繊維を含有するナイロンの場合、強度はたいへん優れていますが、金型をどんなに磨いても、鏡面のような仕上がりは期待できません。同様に最高の弾性を得られるエラストマでもマット調の仕上がりしか期待できません。Delrin(TM)のようなアセタールは剛性や耐溶剤性が良好ですが、表面がオレンジの皮のようにゴツゴツした感じになることがあります。つまり、機能要件が明確で、選択できる樹脂も限定されている場合は、金型の磨きやシボ加工の効果は得られないこともあるということになります。もし、機能要件がさほど厳しくない場合は、成形が容易で、意図した外観になり易い、ABSやポリカーボネートのような樹脂を選択するのが良いでしょう。

外観に影響を与える要因が、材料と設計の両方にまたがる場合もあります。たとえば、金型のコア部分を樹脂が回り込んで穴形状を形成する場合(図2)や、複数のゲートから樹脂を注入した場合のように樹脂が合流した部分にウェルドライン(スジ状の模様)ができてしまいます。選択する樹脂によってウェルドラインの影響を最小限に抑えることはできますが、パーツの強度に影響がなくても、見栄えの良くないウェルドラインができることがあります。樹脂の色によって見栄えが違ってくることがあり、黒い樹脂では光の具合で目立つ状態であっても、白い樹脂を選択することで目立たなくなります。

図2: 穴形状付近のウェルドラインは、溶融した樹脂が障害物であるコアで分流して回り込んで合流したときに形成されることがあります。

特定の樹脂にだけ発生する問題と対処法があります。前述のDelrin(TM)は、成形品の冷却過程で、表面が縮れたようになることがあります。これを回避するために、設計時に厚肉にならないようにすることと、均一な肉厚にすることが重要になります。ポリカーボネートの厚肉部分は内部でボイド(空洞)ができることがあります。機能的には問題がなくても、透明であるために気泡が見えてしまい、意匠的には問題です。透明なポリカーボネートを使用する場合は、厚肉部の近くにゲートを設けるなど、金型設計上の工夫も必要になります。

薄肉部のある製品は、パーティングラインなどにバリが発生しやすくなることがあります。薄肉部分を樹脂で満たすためには、通常よりも高い圧力で樹脂を押し出す必要があるため、バリが発生する可能性も高まります。この問題を回避するためには、高圧で充填しなくてはならないようなフィーチャを設けないようにするか、バリが発生しにくい樹脂を選ぶ必要があります。

最後に、ゲートやエジェクタの位置のような、金型の設計に依存する課題もあります。ゲートやエジェクタピンはパーツの最終形状に大きく影響するものです。基本的には、ご注文をいただいた後に弊社からゲートとエジェクタのレイアウトをご提示しておりますが、ご要望がありましたら、事前にカスタマー サービス エンジニアにお知らせください。

外観に影響を与える問題と要因は、さまざまです。一部は ProtoQuote(R)見積りに含まれる、設計データの成形性解析結果で確認できます。時には実際に試作をしてみないと発見できない問題もあります。その場合は他の樹脂を試したり、再設計して万全の体制で量産に入るために Protomold(R)射出成形を利用することも有効です。

ご参考:

プロトラブズ樹脂部品設計ガイド
ProtoQuote®無料解析&見積り

本コラムは、プロトラブズ合同会社から毎月配信されているメールマガジン「Protomold Design Tips」より転載したものです。